築69年の重鎮、東京・南青山の“主”へ会いに行く

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる(前編)

渡辺 圭彦

 

ライター

 

 

 

東京の青山や表参道といえば、常に流行の最前線にあり、ファッショナブルなエリアというイメージがあるだろう。だが実は、日常と非日常が入り交じった不思議な感覚を味わえる街でもある。メインストリートとなる国道246号、通称「青山通り」沿いには、キラキラと華やかな商業施設や店舗が立ち並ぶ。しかし、そこから一本道を外れるだけで、昭和の時代に建てられたレトロな雰囲気のマンションや小さいけれど存在感のある一戸建て住宅などが点在する住宅地が広がる。しかも、そこかしこに著名な建築家の作品がたたずんでいるのだ。さあ、南青山の“主”とでも言うべき、古参の名建築にあいさつしながら、建築のワンダーランドを巡ってみよう。

 今回は東京メトロ表参道駅がスタート地点だ。南青山5丁目交差点を南に延びる「骨董通り」から根津美術館を経由して、みゆき通りを歩き、再び表参道駅に戻るというルートをプランとした。往路・骨董通り、復路・みゆき通りとそれぞれに「主」たる築年数を経た名建築が待っていてくれる散歩ルートだ。

 変化の激しい都心部にあっても、このエリアは街の芯となるような建物があり、久しぶりに訪れても自分の記憶とたがわぬ風景が残されている。筆者も機会と時間に恵まれたときには数年置きに歩いて、この地ならではの不思議な感覚を楽しんでいる。

 今回のルートは表参道駅からスタートして1時間半もあれば余裕で歩けるので、「次の予定までちょっと時間が空いたな」というときにでもぜひトライしてほしい。あちこちにカフェもあるので、休憩する場所に困ることもないはずだ。

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる散歩ルート

 

1:スパイラル
2:高野長英隠れ家跡
3:小原流会館
4:ヨックモックミュージアム
5:秀和高樹町レジデンス
6:岡本太郎記念館
7:ブルーノート東京
8:根津美術館
9:LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)
10:フロム・ファースト・ビル
11:ヨックモック青山本店
12:ザ ジュエルズ オブ アオヤマ
13:プラダ青山店
14:STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山
15:ミュウミュウ青山店
16:サニーヒルズ南青山

※散歩時間の目安:およそ1時間30分(見学時間や休憩などを含む、取材の際の時間)。1~8は前編で、9~16は後編で紹介

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる散歩ルート。1:スパイラル、2:高野長英隠れ家跡、3:小原流会館、4:ヨックモックミュージアム、5:秀和高樹町レジデンス、6:岡本太郎記念館、7:ブルーノート東京、8:根津美術館、9:LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)、10:フロム・ファースト・ビル、11:ヨックモック青山本店、12:ザ ジュエルズ オブ アオヤマ、13:プラダ青山店、14:STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山、15:ミュウミュウ青山店、16:サニーヒルズ南青山(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる散歩ルート。1:スパイラル、2:高野長英隠れ家跡、3:小原流会館、4:ヨックモックミュージアム、5:秀和高樹町レジデンス、6:岡本太郎記念館、7:ブルーノート東京、8:根津美術館、9:LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)、10:フロム・ファースト・ビル、11:ヨックモック青山本店、12:ザ ジュエルズ オブ アオヤマ、13:プラダ青山店、14:STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山、15:ミュウミュウ青山店、16:サニーヒルズ南青山(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)

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新旧の建築が入り交じる「骨董通り」へ

 筆者が取材した当日は、曇り空ながらも3月にしては暖かかった。表参道駅の出口から上がると、辺りを歩く人たちはすっかり春らしい華やかな装いが目に付く。さすがファッションの最先端の街だ。

 B1出口を上がるとすぐ目の前にあるのが、「スパイラル」。槇文彦氏の設計による地上9階、地下2階の複合文化施設で、1985年にオープン。2012年には、「25年以上の長きにわたり、建築の存在価値を発揮し、美しく維持され、地域社会に貢献してきた建築」を登録・顕彰する「JIA25年賞(日本建築家協会)」を受賞している。

築38年になる「スパイラル」(東京都港区南青山5-6-23)。スパイラルのウェブサイトの説明によると、正方形、円、正三角形、円すいなど「純粋幾何学体」を基本要素とし、外観には数多くの部分的形態を積み上げていくというコラージュ的手法を採用したという。1987年には、世界で最も優れたアルミニウムを使った建築に与えられる「R.S.レイノルズ賞」を受賞している(写真:渡辺 圭彦)

築38年になる「スパイラル」(東京都港区南青山5-6-23)。スパイラルのウェブサイトの説明によると、正方形、円、正三角形、円すいなど「純粋幾何学体」を基本要素とし、外観には数多くの部分的形態を積み上げていくというコラージュ的手法を採用したという。1987年には、世界で最も優れたアルミニウムを使った建築に与えられる「R.S.レイノルズ賞」を受賞している(写真:渡辺 圭彦)

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 筆者が週刊誌の記者時代には、この中にあるカフェでよく芸能関係者と打ち合わせをしたものだった。芸能人・業界人との遭遇率の高いスポットだ。

 この建物の入り口付近に埋め込まれているプレートを見ると、「高野長英先生隠れ家」とある。スパイラルの付近は、江戸時代には青山百人町と呼ばれ、旗本の屋敷が並んでいた。その中に幕末の蘭学者、高野長英の隠れ家があったのだという。

 もともと「青山」という地名は、この辺りに徳川家重臣、青山忠成の江戸屋敷があったことに由来することを思い出す。

「高野長英先生隠れ家」の碑。「スパイラル」の表参道寄りの柱にある。最先端の街にも過去がある(写真:渡辺 圭彦)

「高野長英先生隠れ家」の碑。「スパイラル」の表参道寄りの柱にある。最先端の街にも過去がある(写真:渡辺 圭彦)

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 国道246号(青山通り)の南青山5丁目交差点から南へ、東京都道412号線の高樹町交差点まで続くのが、通称「骨董通り」。古美術鑑定家が名付けたという説や、いけばな小原流の「小原流会館」を中心に花器などの骨董店が集まったことによるという説などあるが定かでない。

 現在は、こうした「古株」の建物の周りにおしゃれなカフェ、飲食店、アパレル店舗などが立ち並ぶ。新旧の建物が混然一体としながら、なんとなく骨董通りっぽい、とでもいうような独特の雰囲気を醸し出していて、楽しい。

いけばな小原流の拠点「小原流会館」(東京都港区南青山5-7-17)。1975年竣工と古株の建物だ(写真:渡辺 圭彦)

いけばな小原流の拠点「小原流会館」(東京都港区南青山5-7-17)。1975年竣工と古株の建物だ(写真:渡辺 圭彦)

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セラミックの美術館とレトロなマンションの共存

 小原流会館を過ぎて、2つ目の信号を右手に折れ、住宅街に入る。この辺りは昭和時代の個人住宅のほか、こぢんまりとした飲食店や、何の業種なのか不明な店舗らしきものが点在するので、ついきょろきょろとしてしまう。

 不審者になりかける前にほどなく見えてくるのが「ヨックモックミュージアム」だ。洋菓子で有名なヨックモックグループが30年以上かけて集めた約500点のピカソのセラミック(陶器)作品を中心に展示する美術館で、2020年10月にオープンした。ヨックモックのコーポレートカラーでもある青色が、屋根瓦やエントランスのタイルなどに使われている。

 「家に友人を招くようにお迎えしたい」ということから、この地を選んだという。内部にはカフェもあるので、時間があればゆっくりとセラミックをあしらった内外装のデザインを鑑賞するのもいいだろう。

「ヨックモックミュージアム」(東京都港区南青山6-15−1)の設計は栗田祥弘氏。2階建ての小さなボリュームが組み合わさった家型の外観となっており、「市中の山居」のように中庭を通じて光、風、植物を感じられる空間という。同ミュージアムのウェブサイトによると、屋根はピカソがセラミック制作をしていたコートダジュールの瓦ディテールをオマージュし、床や壁は陶芸窯で使われている耐熱れんがをイメージしているという(写真:渡辺 圭彦)

「ヨックモックミュージアム」(東京都港区南青山6-15−1)の設計は栗田祥弘氏。2階建ての小さなボリュームが組み合わさった家型の外観となっており、「市中の山居」のように中庭を通じて光、風、植物を感じられる空間という。同ミュージアムのウェブサイトによると、屋根はピカソがセラミック制作をしていたコートダジュールの瓦ディテールをオマージュし、床や壁は陶芸窯で使われている耐熱れんがをイメージしているという(写真:渡辺 圭彦)

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 ヨックモックミュージアムの向かいには、レトロなマンションがある。1968年に建てられた地上8階建て「秀和高樹町レジデンス」だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「秀和」はかつて存在した不動産会社で、白壁と青瓦の屋根が特徴的なマンションを数多く供給した。この建物もその1つ。独特な鉄柵と装飾が印象的だ。南青山にはこうしたレトロなマンションがあちこちにある。

ヴィンテージの薫り漂う「秀和高樹町レジデンス」(東京都渋谷区渋谷4-1-23)。築55年ながらいまだ現役だ(写真:渡辺 圭彦)

ヴィンテージの薫り漂う「秀和高樹町レジデンス」(東京都渋谷区渋谷4-1-23)。築55年ながらいまだ現役だ(写真:渡辺 圭彦)

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「芸術は爆発だ」のメッセージ伝わる建築と庭

 骨董通りに戻ったら、今度は同じ交差点で表参道方面を背に左手へと行く。最初の小道に入ると、往路のハイライトとでも言うべき、「岡本太郎記念館」がある。

 芸術家・岡本太郎が自宅兼アトリエとして使用していた建物を1998年5月に公開。ブロックを積んだ壁の上に凸レンズ形の屋根が載った建物は、坂倉準三の設計によるもので、竣工は1954年。実に築69年である。南青山の“主”といった風格が感じられる。

「岡本太郎記念館」(東京都港区南青山6-1-19)の意匠は、あまりに独特すぎる(写真:渡辺 圭彦)

「岡本太郎記念館」(東京都港区南青山6-1-19)の意匠は、あまりに独特すぎる(写真:渡辺 圭彦)

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 公式サイトの記述によれば、うっそうと木や草が茂る庭には「彫刻が放り出されているだけ」。原初的な生命力のようなものが伝わってくる。入館して展示を見られる時間があれば最高だけれども、こうして外から眺めるだけでも元気になれるような気がする。以前は隣接する建物がインテリアショップで上から庭を見ることもできた。

 ちなみにミュージアムショップのグッズもがつんとくるデザインなので、ぜひお薦めしたい。まさに岡本太郎の有名な言葉「芸術は爆発だ」である。

バショウ、シダ類、雑草などが自然のままに生い茂る庭。古代遺跡の雰囲気がある(写真:渡辺 圭彦)

バショウ、シダ類、雑草などが自然のままに生い茂る庭。古代遺跡の雰囲気がある(写真:渡辺 圭彦)

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庭から塀越しに顔をのぞかせる彫刻作品。まるで生きているかのような存在感を発揮(写真:渡辺 圭彦)

庭から塀越しに顔をのぞかせる彫刻作品。まるで生きているかのような存在感を発揮(写真:渡辺 圭彦

 

 

 

 

文化の薫り漂うエリアに突入

 岡本太郎に元気をもらったところで往路のラストスパート。岡本太郎記念館を左手に見ながら道を進み、やや大きな道路に出たら、渡った先にジャズクラブ「ブルーノート東京」がある。かつて1988年に骨董通りでオープンしたブルーノート東京は、1998年に現在の場所に移転。このエリアの文化の土壌を培う存在の1つであり続けている。

ジャズクラブ「ブルーノート東京」(東京都港区南青山6-3-16)。ソウル、R&B、ロック、ダンスミュージックなど出演するアーティストは幅広い(写真:渡辺 圭彦)

ジャズクラブ「ブルーノート東京」(東京都港区南青山6-3-16)。ソウル、R&B、ロック、ダンスミュージックなど出演するアーティストは幅広い(写真:渡辺 圭彦)

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 ブルーノート東京を後に道を北に進むと、往路のゴール「根津美術館」だ。取材した日は、門の脇に見事な桜が咲いていた。

 実業家、根津嘉一郎氏の古美術品コレクションを展示するため1941年に開館。2009年、隈研吾氏の設計で本館が建て替えられた。絵画・書跡、青銅器、茶の湯の美術など展示品の特性に合わせた、趣の異なる6つのギャラリーが設けられている。1万7000m2に及ぶ庭園も見ものだ。

「根津美術館」(東京都港区南青山6-5-1)の駐車場入り口では、見事な桜が通行人の目を引いていた(写真:渡辺 圭彦)

「根津美術館」(東京都港区南青山6-5-1)の駐車場入り口では、見事な桜が通行人の目を引いていた(写真:渡辺 圭彦)

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和風家屋を思わせる大屋根が印象的な外観(写真:渡辺 圭彦)

和風家屋を思わせる大屋根が印象的な外観(写真:渡辺 圭彦

 

 

 

 

 

ちなみに、根津美術館の向かいにあるマンションもまたいい雰囲気を漂わせる。1968年竣工の「パレス青山」だ。住居のほか、飲食店やアパレル、骨董品、カフェなどうまくリノベーションして活用されている。新旧の時代が交錯するこのエリアならではの建物だ。

 さて、往路はここで終了。後編の復路では、みゆき通りを経て表参道駅に戻る。安藤忠雄氏、山下和正氏といった著名建築家が手掛けた名建築と、海外の建築家のデザインが同時に見られる刺激的な異世界散歩が展開される予定だ

 

 

 

 

 

「日本の大物建築家」対「海外の建築家」、異世界を感じるストリートが青山に

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる(後編)

渡辺 圭彦

 

ライター

 

 

 

東京・南青山は、昭和の薫り漂うレトロなマンションやおしゃれカフェ、著名な建築家の作品など新旧の建物が混在し、日常と非日常が同居する不思議な感覚を味わえるエリアだ。前編では表参道駅から「骨董通り」を経て「根津美術館」までのルートをご紹介した。後編では、根津美術館から「みゆき通り」を歩いて表参道駅に戻る。このルートでは大物建築家の名作から海外建築家のユニークな店舗デザインまで、幅広く刺激的な建物を見ることができる。個人的にはヨックモック青山本店でのティーブレイクもお勧めだ

 

 

 

 

 

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる散歩ルート

 

1:スパイラル
2:高野長英隠れ家跡
3:小原流会館
4:ヨックモックミュージアム
5:秀和高樹町レジデンス
6:岡本太郎記念館
7:ブルーノート東京
8:根津美術館
9:LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)
10:フロム・ファースト・ビル
11:ヨックモック青山本店
12:ザ ジュエルズ オブ アオヤマ
13:プラダ青山店
14:STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山
15:ミュウミュウ青山店
16:サニーヒルズ南青山

※散歩時間の目安:およそ1時間30分(見学時間や休憩などを含む、取材の際の時間)。1~8は前編で、9~16は後編で紹介

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる散歩ルート。1:スパイラル、2:高野長英隠れ家跡、3:小原流会館、4:ヨックモックミュージアム、5:秀和高樹町レジデンス、6:岡本太郎記念館、7:ブルーノート東京、8:根津美術館、9:LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)、10:フロム・ファースト・ビル、11:ヨックモック青山本店、12:ザ ジュエルズ オブ アオヤマ、13:プラダ青山店、14:STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山、15:ミュウミュウ青山店、16:サニーヒルズ南青山(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)

骨董通りからみゆき通りへ、名建築をたどる散歩ルート。1:スパイラル、2:高野長英隠れ家跡、3:小原流会館、4:ヨックモックミュージアム、5:秀和高樹町レジデンス、6:岡本太郎記念館、7:ブルーノート東京、8:根津美術館、9:LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)、10:フロム・ファースト・ビル、11:ヨックモック青山本店、12:ザ ジュエルズ オブ アオヤマ、13:プラダ青山店、14:STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山、15:ミュウミュウ青山店、16:サニーヒルズ南青山(出所:国土地理院の地図データに日経クロステックがデータを加筆)

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二人の建築家の時を隔てた競演

 みゆき通りとは、表参道交差点から根津美術館方面へと続く道路の通称だ。昭和天皇が明治神宮へ参拝される際の「行幸通り」としてつくられたのがその名の由来だという説がある。今では数々の有名ファッションブランドやハイブランドショップが立ち並んでいる。

 根津美術館前の交差点から「みゆき通り」を見ると、目に入るのが「LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)」。言わずと知れた安藤忠雄氏の作品だ。1989年竣工なので築34年になる。商業施設や集合住宅のほか、ギャラリーやスポーツ施設などが入る地下3階、地上4階建ての建物だ。安藤氏特有の陰影が美しく映える鉄筋コンクリート(RC)打ち放し仕上げなので、できれば晴れた日に訪れたい。

「LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)」(東京都港区南青山6-1-3)のイベントホールは、音楽ライブや結婚式の2次会などに利用されている(写真:渡辺 圭彦)

「LA COLLEZIONE(ラ コレッツィオーネ)」(東京都港区南青山6-1-3)のイベントホールは、音楽ライブや結婚式の2次会などに利用されている(写真:渡辺 圭彦)

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 LA COLLEZIONEと信号を挟んだ隣の建物は、山下和正氏が設計した「フロム・ファースト・ビル」である。1975年竣工の地上5階、地下2階建ての建物だ。幾つもの凹凸が付けられた赤いれんが調タイル張りの外観が印象に残る。築48年の現在も、飲食店のほか、ハイブランドのブティックやジュエリーショップなどが入居している。

「フロム・ファースト・ビル」(東京都港区南青山5-3-10)は、貫禄たっぷりのたたずまいだ。テレビドラマのロケ地として使われているのもうなずける(写真:渡辺 圭彦)

「フロム・ファースト・ビル」(東京都港区南青山5-3-10)は、貫禄たっぷりのたたずまいだ。テレビドラマのロケ地として使われているのもうなずける(写真:渡辺 圭彦

 

 

 

 

 

 

“安藤忠雄氏”と“山下和正氏”といった、二人の建築家による存在感たっぷりの建物が並ぶ様子は、なかなか見応えがある。老舗バーの奥の席に陣取る古参の常連のようだ。

昔ながらの外観を生かしてリニューアル

 赤いタイルの建物の次に見えてくるのは、青いタイル。藤本昌也氏が設計した「ヨックモック青山本店」だ。オープンは1978年。その後、38年たった2016年、「長く親しまれた姿を残す」というコンセプトの下、外観の形状と色彩は変えない形で改修され、今に至っている。中庭の喫茶スペースでのほっと一息は、気候のいい時期にはお勧めだ。

「ヨックモック青山本店」(東京都港区南青山5-3-3)は、青いタイルが印象的だ。中庭を街路に緩やかにつなげて、通りに奥行きを与えている(写真:渡辺 圭彦)

「ヨックモック青山本店」(東京都港区南青山5-3-3)は、青いタイルが印象的だ。中庭を街路に緩やかにつなげて、通りに奥行きを与えている(写真:渡辺 圭彦

 

 

 

 

 

 

強い個性を持つビルが密集する交差点

 ライムストーンのカーテンウオールに包まれた建物が見えてくると、辺りの雰囲気が一変する。それが「ザ ジュエルズ オブ アオヤマ」だ。ブティックなどが入居している商業施設で、三日月形のメインビルとメタル・ルーフィングのコーナービルが強い存在感をアピールしている。

「ザ ジュエルズ オブ アオヤマ」(東京都港区南青山5-3-2)の設計は、光井純アンドアソシエーツ建築設計事務所。2005年に竣工した(写真:渡辺 圭彦)

「ザ ジュエルズ オブ アオヤマ」(東京都港区南青山5-3-2)の設計は、光井純アンドアソシエーツ建築設計事務所。2005年に竣工した(写真:渡辺 圭彦)

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 ザ ジュエルズ オブ アオヤマの隣にそびえ立つのが、「プラダ青山店」だ。スイスの建築家ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」の設計による建物で、2003年に竣工している。膨らんだひし形のようなガラスの外郭が非常にユニークだ。

「プラダ青山店」(東京都港区南青山5-2-6)の建物は、夜には内部の照明で幻想的な姿を見せてくれる(写真:渡辺 圭彦)

「プラダ青山店」(東京都港区南青山5-2-6)の建物は、夜には内部の照明で幻想的な姿を見せてくれる(写真:渡辺 圭彦)

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 みゆき通りの反対側にも個性的なブティックが並ぶ。「STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山 」は、音楽家ポール・マッカートニー氏の娘、ステラ・マッカートニー氏によるブランドのショップだ。幾何学的な模様を浮かび上がらせた白いメッシュのファサードが目を引く。夜にはこのファサード全体がライトアップされて一段と存在を主張する。

「STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山」(東京都港区南青山3-16-12)の建物は、白いメッシュのファサードが目を引く。2014年竣工(写真:渡辺 圭彦)

「STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)青山」(東京都港区南青山3-16-12)の建物は、白いメッシュのファサードが目を引く。2014年竣工(写真:渡辺 圭彦

 

 

 

 

 

その隣にある「ミュウミュウ 青山店」は、大きく架けられた屋根が印象的だ。実施設計と施工を担当した竹中工務店のウェブサイトでは、同建物について「今まさに宝石箱を開こうとした状態を想起させる外観」と紹介している。なるほど、確かにそんなイメージだ。こちらのデザインもヘルツォーク&ド・ムーロンによるもの。金属素材の生かし方が独特だ。

「ミュウミュウ 青山店」(東京都港区南青山3-17-8)の大きな屋根が特徴的だ。2015年竣工(写真:渡辺 圭彦)

「ミュウミュウ 青山店」(東京都港区南青山3-17-8)の大きな屋根が特徴的だ。2015年竣工(写真:渡辺 圭彦)

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 これらの建物が1つの交差点の周りに並んでいる様子は圧巻だ。そのスケール感や雰囲気は目の当たりにしてみないと分からないだろう。それだけに、実際に行ってみてほしい。

 ちなみにこの近辺は外国人観光客が多く、格好の撮影スポットになっていた。筆者が訪れた際に見た感じでは、外国人観光客に一番人気があった建物はミュウミュウ青山店。続いてプラダ青山店であるようだった。確かにSNS映えするかもしれない。

木材の経年変化が醸し出す風合い

 ちょっと密度が濃くてデザイン疲れしたので、横道に入ろう。と、またちょうどいい感じのヴィンテージマンションが現れる。アーチ型のバルコニーや緑の屋根のエントランスがかわいい、「南青山ハウス」だ。1970年の竣工だという。筆者とほぼ同い年のマンションだ。まだまだ頑張れ。

 さらに足を延ばすと、隈研吾氏設計の「サニーヒルズ南青山」が見えてくる。木材の加工とくぎを使わない接合で3層の外壁をつくりだした、特徴的な外観が目を引く。内部に入ると、木材の間から入り込む自然光が木漏れ日のように感じる。店頭に並ぶパイナップルケーキを買ってみたいと思っているのだが、なかなかに高級で、残念ながら筆者はまだ味わえていない。

「サニーヒルズ南青山」(東京都港区南青山3-10-20)は、2013年に竣工した。10年たったせいか、外壁の木材の変化がよい雰囲気を醸し出しているように感じた(写真:渡辺 圭彦)

「サニーヒルズ南青山」(東京都港区南青山3-10-20)は、2013年に竣工した。10年たったせいか、外壁の木材の変化がよい雰囲気を醸し出しているように感じた(写真:渡辺 圭彦

 

 

 

 

南青山の散歩はこのへんで終わりにしよう。復路は主張の強い建物が多く、消化に時間がかかりそうだ。サニーヒルズ南青山からみゆき通りに戻り、表参道駅までは徒歩約7分。刺激を受けた頭と心をクールダウンするにはちょうどいい。

 

 

 

 

 

「日本の大物建築家」対「海外の建築家」、異世界を感じるストリートが青山に(2ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

 

渡辺 圭彦(わたなべ きよひこ)
フリーライター

今回の散歩ルート案内人。1970年、埼玉県生まれ。千葉市、名古屋市を経て千葉県船橋市に在住。扶桑社、ハウジングエージェンシーを経て、2004年よりフリーに。全国の住宅、工務店、建築家、住設メーカーを取材して回るエディター&ライターとして活動中。工務店取材では700社以上を訪問し、47都道府県を踏破。