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世界の海運を変えうる「グリーンメタノール」の製造競争が急激に加速している
アイスランドのカーボン・リサイクル・インターナショナル社のプラント Photo: Carbon Recycling Int / Twitter
火山帯に位置する北欧の島国アイスランドは、地熱発電が盛んなことで知られる。同国には、豊富な再生可能エネルギーを使い、新たな燃料「グリーンメタノール」を製造するパイオニア企業がある。世界の海運業を変える、このクリーンな燃料の最前線を、米メディア「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」が追った。
アイスランドのパイオニア
アイスランド南西部のレイキャネス半島の細い道沿いには、電解槽やコンプレッサー、パイプが並んでいる。これらは海運業界を脱炭素化するソリューションだ。 2006年に創業された、アイスランドの「カーボン・リサイクル・インターナショナル」(CRI)は、同国の豊富な地熱を活用し、クリーンな「電化」メタノールを製造する。これは化石燃料に取って代わりうるものだ。同工場はスヴァルスエインギ地熱発電所の近くに位置するが、同発電所は、観光名所の人口温泉ブルーラグーンに流れ込む温水も加熱する。 CRIは、世界で初めて「eエタノール」の製造を開始した企業だ。2012年に操業開始した施設で、地熱を利用して水から水素を分離し、地熱発電所から回収した二酸化炭素を再利用して作った。 2015年には、年間4000トンのeメタノールが同地で生産された。しかし、当時は市場がまだ非常に小さく、採算は取れなかった。そこで2019年に同工場の操業は停止され、CRIは他の場所での製造に注力した。このような努力の成果が、いま現れつつある。
急速に注目される「グリーンメタノール」
気候変動の急速な進展と、エネルギーの安定確保に関する懸念が高まったことから、「グリーン・メタノール」が注目を集めるようになった。再生可能な電力で製造された「グリーン水素」と、クリーンな二酸化炭素を合成して製造されるものだ。通常のメタノールは天然ガスなどの化石燃料を使って製造される。 用いられる二酸化炭素が、農業や林業の廃棄物など生物由来のものであれば、「バイオメタノール」と呼ばれる。一方、他の産業プロセスや大気から直接回収した二酸化炭素を使えばeメタノールになる。 海運大手のデンマーク企業マースクと中国国営の中国遠洋海運集団(コスコ)は、脱炭素化を進めるためにすでにグリーンメタノールを一部の船舶の燃料として利用している。 そのため、グリーンメタノールを供給する企業が増えている。デンマークの電力会社「オーステッド」は、欧州最大のeメタノールプラントを建設中だ。米業界団体のメタノール・インスティチュートによると、eメタノールとバイオメタノールの生産量は、2027年までに年間800万トン以上に達するという。 CRIは、eメタノールの生産に関心を持つ企業や政府から180件以上の問い合わせを受けている。すでに同社は約130社から投資を受けているが、中国の浙江吉利控股集団(ジーリー・ホールディング)も株主に名を連ねる。ジーリーは、2022年、ハイブリッド車用のメタノールのバッテリーの販売を中国で開始した。 世界の船舶のほとんどは、環境負荷の高いディーゼル燃料を使って航海する。しかし、そのために船舶業が排出する温室効果ガスの排出量は世界全体の3%にもなる。メタノール・インスティチュートによると、グリーンメタノールを燃料とすれば、この排出量を最大95%削減できるという
変化を求められる海運会社
一方、海運会社は、顧客から排出量を削減するよう圧力を受けている。また、国連機関の国際海事機関が新たに排出目標を設定したため、少しずつ変化が見られるようになった。 大型船は重量が重く、航行距離も長いため、バッテリーでは航行できない。ブルームバーグNEFのエネルギー・アナリストであるニコラス・ソウロプロスによると、排出量を削減するには3つの方法がある。e燃料(再生可能エネルギーを使って水素から製造された合成燃料)を使うか、船舶上で二酸化炭素を回収するか、あるいはエネルギー効率を改善するかだ。 eメタノールを利用するには、ディーゼル燃料の3~4倍というコストの高さがハードルになる。今後グリーン水素の製造価格は大幅に下がると見込まれるものの、コストの差をなくすには、世界的な炭素税のような大きな政策が必要になるだろう。 液体であるグリーンメタノールは、輸送も保管もしやすい。他にグリーン水素から作れるeアンモニアは毒性が強く、安全に保管できない。それと違って、メタノールはガソリンと同じように扱えることから、既存の設備やインフラにそれほど手を加える必要はない。もし流出したとしても、はるかに安全だ。
製造競争が進むグリーンメタノール
マースクは、2040年までに炭素排出をゼロにするという目標を掲げた。そのための一手段として、同社は2025年までにバイオディーゼルとeメタノールを燃料とするコンテナ船を19隻導入する予定だ。そうすると今後2年間で合計75万トンのeメタノール、2030年には年間500万トンのグリーン燃料が必要になる。同社は、供給確保のためにeメタノールのサプライヤーとの契約を急いでいる。 上海に本社を置くコスコも、2022年10月、メタノールを燃焼する船舶を12隻発注したと発表した。 マースクの脱炭素化担当責任者であるモーテン・ボー・クリスチャンセンは、2022年11月の環境・社会・ガバナンスに関するプレゼンテーションでこう語った。 「これは1年半前には存在しなかった市場です。適切な燃料がないので、誰もグリーン船舶を開発しようとしませんでした。グリーン船舶がないので、誰もグリーン燃料を作りませんでした。この鶏と卵のような状況を、私たちは打破しようと考えたのです」 この展開は、CRIや、デンマークの電力企業であるオーステッドやヨーロピアン・エナジーなどの競合企業を後押ししている。 CRIの株主であるジーリーは、炭素を回収して再利用する世界最大の炭素循環型メタノールプラントを河南省に建設した。CRIは、ここに技術を供与し、エンジニアリングや設備、サービスを提供した。この施設からは年間11万トンの低炭素メタノールを生産できる。また、江蘇省にも、CRIの技術を用いた別の工場が今年中に開業する。 CRIの創業者・取締役で、アイスランド大学のオドゥル・インゴルフソン教授は、脱炭素化に向けて二酸化炭素をグリーンメタノールに利用するのは重要だと語る。「それこそが、化石燃料の使用をできるだけ減らすためにできる、現在の唯一の選択肢でしょう」
Danielle Bochove
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