超高齢のバイデン氏が大統領選出馬、この話には裏がある

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キーウ電撃訪問後にポーランドから帰国する際、エアフォースワンのステップに躓いてしまったバイデン大統領(2月22日、写真:ロイター/アフロ)

 

 

 

■ ジル夫人「何回言えば信じてもらえるの」 

 3月の声を聞いたが、今もって、ジョー・バイデン米大統領は2024年大統領選に再出馬するか正式立候補宣言はしていない。  ジル・バイデン夫人は2月末、CNNやAP通信が「バイデン氏は出馬を見送るのか」と質問されたのに対し、こう答えた。  

「私は、出馬に大賛成よ」 

 

 (Jill Biden on president's plan to run in 2024: 'I'm all for it' | CNN Politics)

 

 

 

  「彼が何回出馬すると言えば、あなたたちに信じていただけるのかしら」(バイデン氏は出馬するつもりだ、とは言ってきたが、出馬すると明確に言ったことはない)  

 

(Biden ready to run in 2024, first lady says | AP News)  

 

 

ご当人のバイデン氏は2月末、ABCとのインタビューでこう述べるにとどめている。  

 

 

「選挙運動を開始する前に、私にはやらねばならないことがほかにたくさんある」  

 

 

(Video Biden rules out sending F-16s to Ukraine 'for now' - ABC News)  

 

 

 

 

 

バイデン氏が60代、70代ならこれほどしつこく立候補するかどうかを聞きはしない。

 

 

  よほどの失策やスキャンダルがない限り、現職大統領が2期目を目指すのは当然だし、正式に立候補宣言をいつするかなど聞かない。  

 

現に、ビル・クリントン氏でもバラク・オバマ氏でも2期目を狙った時は、大統領選の前年4月に正式立候補していたし、ジョージ・W・ブッシュ氏は5月だった。  

 

(バイデン側近は「4月に正式立候補」を仄めかしているのだが・・・)  

 

 

メディアが執拗に立候補について問いただすのは、バイデン氏が80歳という後期高齢者だからだ。  すでに家督を息子に譲った60代、70代の高齢者ですら身の回りのことが一人でできない人は多い。  

 

今年82歳になった「スター・トレック」主演俳優、パトリック・スチュワートですら、撮影時間はコンデションに合うように短く、能率的に出演している、と「ナショナル・レビュー」のジム・ゲラティ氏は書いている。  その意味では、「80の壁」を超えた高齢者で超大国をリードするバイデン氏は「奇跡」としか言いようがない

 

 

 

 

今、米国は国の在り方をめぐって保守と革新とが対立し、国は分裂している。  

 

 

3分の1の有権者はバイデン氏を大統領だとは思っていない。2020年の大統領選で勝ったのはドナルド・トランプ前大統領だと信じている。  

 

 

「米国の魂が病んでいる」(バイデン氏に対抗して正式立候補した作家マリアン・ウイリアムソン氏)  その米国を再生すると頑張っているバイデン氏にどこまで期待できるのか。これから2年、さらにその後4年もやる気のようだ。  

 

冷静に考えたらそんなことが難しいのは自明の理だ。  

 

これほどの高齢者が「核のボタン」を押す陸海空海兵4軍最高司令官だったことはこれまでにない。  

 

 

 

米大統領職は、ジョージ・ワシントン初代大統領(1789~97年)やエイブラハム・リンカーン第16代大統領(1861~65年)の時とは扱うアジェンダが月とスッポンくらい違う。  

 

 

人品骨柄も申し分なく、政治経験も長く、穏健なバイデン氏の政権運営はどうか。

 

過去2年の実績は何か。  

 

バイデン氏が就任して以降、

その政策を「評価する人」が「評価しない人」を上回ったことは一回もない。  

 

 

現在も「評価する人」は41%、「評価しない人」は53%。  

 

 

唯一、18歳から29歳までの若年層(50%対42%)と黒人層(65%対27%)で

「評価する人」が「しない人」をリードしている。  

 

 

 

その一方で、米登録済み有権者の10人中7人は、

バイデン氏が2024年に再出馬することには反対。

「年を取りすぎている」が主要因だ。  

 

バイデン氏の政策を支持している民主党支持者は77%(不支持は20%)だが、

2024年再出馬することには48%が反対している

(再出馬を支持する人は34%)。  

 

 

(Race And Ethnicity In The United States Census | The United States)  

 

 

 

バイデン氏再出馬のネックは、

一にも二にも年齢なのである。年齢こそ最大の敵なのだ。  

 

しかも、3月3日にはバイデン氏の主治医が、2週間前に

「大統領の胸部の皮膚に基底細胞ガンが見つかり切除した」と公表した。

今後も経過観察を続けるという。高齢なだけに心配だ

 

 

 

 

 

■ 一世一代の演説をぶち壊した転倒動画

  それを米国民は2月21日、目の当たりにしてしまった。  ウクライナの首都キーウ(キエフ)で一世一代に演説を終え、鉄路ポーランドに戻り、そこから大統領専用機に搭乗するタラップで躓いて倒れる瞬間をカメラがとらえてしまったのだ。  

この画像は瞬時にSNSで世界中に拡散されてしまった。  

演説や記者との質疑応答では国名や人名を間違いたり、失言することはままあったが、階段で躓いた場面がキャッチされたのは久々だった。  後期高齢者が階段から落ちたり、滑ったりして頭を打ち、致命傷になることはしばしばある。  この動画を見て「こりゃ、ダメだわ」と思った米国人は少なくないだろう。

案の定、保守派サイトやメディアはこの動画をこれ見よがしに流した。  

 

(US President Joe Biden stumbles on steps of Air Force One as he leaves Poland - YouTube)

 

 

 

 ■ 保守系メディアが民主党内の蠢動キャッチ

  保守系オピニオン誌「ナショナル・レビュー」は、

「バイデン氏の年齢、今や民主党エリートたちも無視できず」(Biden’s Age Can No Longer Be Ignored by Democratic Elites)との見出しでこう指摘した。  

 

 

 

 

 

一、

最新の世論調査では、

米国民の68%が「バイデン氏は2期目には歳をとりすぎている」と答えている。

このうち48%は民主党支持者だ。  

 

 

二、

民主党内には声にならない葛藤がある。

2024年の大統領選で望ましいシナリオの実現のために汗水流して得た果実は、

2028年には86歳になってしまう高齢大統領だ、86歳だぞ。  

 

 

 

 

 

三、

バイデン氏の側近たちは過去数カ月、正式立候補のための準備をしてきた。

ところがバイデン氏は立候補を仄めかしながら依然として躊躇っている。

万一出馬を取りやめたらどうなるのか。  

 

 

 

 

 

四、

出馬を公式に表明しないが立候補したい者も大口の政治資金提供者も戦略も立てられずに党は凍結状態にある。  

現職大統領に対する敬意を払い、

公には高齢大統領を支持するというジレンマに落ちいっている。

「プランB」について公然と論議できないのだ。  

 

 

 

 

 

五、

2022年、「ジ・アトランティック」のマーク・レイボビン氏は

バイデン氏の年齢問題を取り上げ、

他の候補が立候補表明するよう提案、

それによってバイデン氏の高齢・健康問題について公開論議せよ、と説いた。

 

 

 

 

 

  六、

ニューヨーク・タイムズのクレグ・クレッグ氏は、

バイデン氏が出処進退を明らかにしないことは、

立候補した場合、

誰を副大統領にするかという

もう一つの重要な選択が関わり合いを持ってくると指摘している。  

 

 

 

 

 

同氏はさらに

「民主党執行部および支持者はカマラ・ハリス副大統領には全く、あるいはほとんど信頼を寄せていない。副大統領候補選びに神経質になっている」と指摘している。  

 

 

(Biden’s Age Can No Longer Be Ignored by Democratic Elites | National Review)

 

 

 

■ 選挙キャンペーン計画は「諸刃の剣」

  これだけのネガティブ要因がテーブルの上に乗っているにもかかわらず、

バイデン氏は再出馬に向けて準備を始めている。  

 

バイデン氏の側近は、その手始めとして影響力のある上下両院議員と州知事二十数人からなる2024年大統領選に向けたキャンペーン計画をまとめた。  

 

有力政治家たちに遊説や講演を行ってもらったり、

メディアとのインタビューなどに積極的に出演してもらったりして、党勢を拡大してもらおうというのが同計画の主柱だ。  

 

 

国民の身近な問題である

医療保険、

教育、

奨学金対策で公正な対策を着実に促進させ、

インフレ、

雇用対策

で成果を挙げつつあることを国民に理解してもらおうというわけだ。  

 

 

3月1、2両日には上下両院の主だったメンバーと昼食をともにしながら

協力を要請した。  

 

 

ギャビン・ニューサム氏(カリフォルニア)、

 

J・B・プリツカー氏(イリノイ)、

 

フィル・マーフィー氏(ニュージャージー)

ら州知事の実力者6人にキャンペーンの中心的な役割を果たしてくれるよう要請した。

 

 

  キャンペーン計画参加を承諾した政治家の中には、

万一バイデン氏が再出馬を断念せざるを得なくなった時には、

自ら立候補すべく秘かに準備している者も少なくない。  

 

 

ニューサム*1 、

 

プリツカー*2 、

 

マーフィー* 3 、

 

各州知事は立候補を虎視眈々と狙っている

「知事三羽カラス」である。 

 

三者三様に自州だけでなく、

他州にも足を運んで全国的な知名度拡大に余念がない。  

 

 

*1=全米最大の州、カリフォルニア州の知事として2022年再選を果たし、

大統領選には強い意欲を示している。

政界では情報収集や選挙情勢分析では最大のデジタル・オペレーションを誇っている。  

 

 

 

*2=大手ハイアット・ホテルの御曹司で実業家兼慈善家の億万長者。

ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ元大統領の選挙キャンペーンに参加、

党主流とは太いパイプを持っている。  

 

 

 

 

*3=2014年にはシンクタンクを創設、

民主党の改革にも熱心だ。

金融大手ゴールドマンサックスに25年間勤務。

オバマ政権では駐独大使を務めた。  

 

 

 

そのほか、上院議員では、

 

バーニー・サンダース(バーモント)、

 

エイミー・クロブシャー(ミネソタ)、

 

エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ)、

 

コリー・ブーカー(ニュージャージー)

各氏がいる。  

 

 

 

バイデン氏にとっては彼らは潜在的ライバルだが、

これら政治家にとっても党を挙げてのキャンペーンは自分たちにとっても損ではない。  

 

 

キャンペーンを資金面でバックアップする

スーパーPACの「American Bridge」、

「Future Forward」、

「Priorities USA」は、

バイデン不出馬なら自分たちへの支援に回ってくる。

 

 

  「バイデン氏の提唱したキャンペーン計画には、目に見えない虚々実々なカラクリがありそうだ」(米主要メディア政治記者)  (Biden enlists potential rivals as advisers ahead of 2024 - The Washington Post)  

 

 

民主党の選挙戦略家、ディビッド・アクセルロッド氏は、

名乗りを挙げていない潜在的な民主党大統領候補たちにこう助言している。  

「皆ボーイスカウトの金言を忘れるな。常に有事に備えよ(Be prepared)」

高濱 賛

 

 

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