静岡・山梨県境に向けリニア工事の先進ボーリング開始
橋本 剛志
日経クロステック/日経コンストラクション
JR東海が山梨県内で進めているリニア中央新幹線の山岳トンネル工事で、2023年2月21日に静岡県境へ向けた先進ボーリングが始まった。静岡工区の着工時期が見通せない中、同社は工事の不確実な要素を減らすために県境まで可能な限り先進坑の掘削を進める。静岡県が地下水の県外流出に反発している点を踏まえ、湧水量などの施工記録を同県に毎週報告する。
JR東海が山梨県内の山岳トンネルの先進坑で着手した高速長尺先進ボーリングの機器。写真は作業開始前の状態(写真:JR東海)
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県境の約800m手前に位置する先進坑の先端付近から「高速長尺先進ボーリング」を実施する。直径20cmの保護管と直径12cmの削孔ロッドを静岡県方向に伸ばし、山梨県内の地質や地下水の分布を調べる。ロッドの先端にかかる力の大きさや地下水の流出量の変動を基に推定する仕組みだ。
山梨県内の先進坑から静岡県側に向けて実施する高速長尺先進ボーリングの平面図(出所:JR東海)
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JR東海が先進坑の前方にある地質や地下水の状態を確認するために実施する高速長尺先進ボーリングの概要(出所:JR東海)
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長距離の削孔では珍しいコアの採取にも取り組む。他にも、回転するロッドの先端部が地山から受ける力の向きから地層の傾斜などを推定する。
高速長尺先進ボーリングの削孔ロッド(写真:JR東海)
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高速長尺先進ボーリングの確認項目(出所:JR東海)
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静岡県はリニアの工事が大井川に及ぼす影響やその対策を巡ってJR東海と合意できておらず、静岡工区の着工許可を出していない。山梨県内の工事についても県境をまたいで地下水が流出することを懸念し、先進ボーリングにおける対策手順の提案と事前の合意をJR東海に要求してきた。静岡県が23年1月25日に開催した有識者委員会では、先進ボーリングの開始の是非を巡って議論がまとまらなかった。
JR東海の金子慎社長は2月16日の会見で「山梨県内で高速長尺ボーリングを開始することについて、静岡県の合意が必要だと思っていない」と発言。山梨県内の工事は可能な限り早く進めたい考えだ。静岡県とのこれまでのやり取りを踏まえ、地元の山梨県や同県早川町だけでなく静岡県にも先進ボーリングの位置や湧水量、湧水の水質、掘削した岩石片の様子などの日次データを毎週報告する。
JR東海は先進ボーリングの位置や湧水量、湧水の水質、掘削した岩石片の様子などの日次データを静岡県に毎週報告する(出所:JR東海)
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さらに県境付近では静岡県内の地下水への影響を見極めるため、特に慎重な作業を進める。海底トンネルなどの施工事例を参考に対象を県境まで約100mと設定し、今後の先進ボーリングの結果を基にその距離を適宜見直す。1日に2回、先進ボーリングに伴う湧水の変化量を削孔延長の差分で割り、削孔延長10m分に換算した湧水量を算出。これが管理値である毎秒0.05m3を超えたら先進ボーリングを中断する
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