裏切者企業がロシアと取引する音声 ウクライナへの戦車供与は汚職摘発が条件だった?【報道1930】
西側諸国が身を切って続けるウクライナへの軍事支援と経済支援。ところが、戦時下のウクライナで汚職や国への裏切り行為が蔓延しているという。ロシアとの取引を記録した軍事関連企業の社長の電話の音声や、そうした汚職摘発が欧米の軍事支援にどう影響しているのかを深堀りした。 【写真を見る】裏切者企業がロシアと取引する音声 ウクライナへの戦車供与は汚職摘発が条件だった?【報道1930】
■戦車供与の条件が汚職高官の一掃だった?
先月25日、突然アメリカ、ドイツが主力戦車をウクライナに供与すると決めた。その5日前に行われた国際支援会議では継続協議となり決まらなかった件が急転直下決定したのだ。この5日の間に果たして何があったのか・・・。実はこの間にゼレンスキー大統領の側近を含む15人が汚職などによって処分されていた。このことと戦車の供与に一体どんな関係があるのか…。そのヒントが1月半ばにあった。アメリカ・バーンズCIA長官がゼレンスキー大統領を極秘に訪問していたことがアメリカのメディアで明らかにされた。そこからの流れをゼレンスキー政権の財務大臣アドバイザーで現在も汚職の摘発にも係わっていてウクライナ政府と今もコンタクトをとる田中克氏が読み解く。 ウクライナ財務大臣アドバイザー 田中克氏 「対外的にはCIAの長官が来たことは明らかにされておらず、翌週に明らかになった。何が話されたかと言うと…戦争が始まってウクライナの汚職がいったん止まっていた。ところが支援物資や支援金やドネーション(寄付)が入るようになって汚職がまた蔓延し始めた。アメリカの下院がそれを非常に問題視した。共和党が多数派となった下院が、今後ウクライナの支援について自分たちの支援が彼らの賄賂とかに使われるのは見逃せないと…。CIA長官の極秘訪問でそれをストレートにゼレンスキーに伝えたらしい。ゼレンスキーは断固たる態度を取ると言った。言うだけじゃダメなんで、解任したり辞任に追い込んだり・・・。それを受けて、戦車の供与が発表されたので、取引材料だったんじゃないか・・・
防衛研究所政策研究部長 兵頭慎治氏 「これですべて辻褄が合うというか、目から鱗といいますか、ドイツも戦車供与を渋っていたし、その中でアメリカが25日のタイミングで供与ということになったが、なぜその前に汚職で高官が処分されたのか、今それがつながってきた」
■「侵略が始まった当初は恐怖を感じていたが、しばらくするといつもの習慣、従来の活動に戻ってしまった」
汚職で解任された15人には、どんな人物がいたのだろう。
大統領側近のティモシエンコ大統領府副長官はアメリカから供与されたSUV車を私物化した。
内閣高官では、国防次官が軍の食料調達で不当契約。
インフラ省次官は発電機の供給で収賄。
その他、不動産を不正購入した政治家。
規則に違反して海外へ休暇に出た副検事総長などなど。
私たちはこ国防次官の不正を暴いたジャーナリストに話を聞いた。
汚職告発サイト『ナシ・グロシ』創設者 ユリー・ニコロフ記者
「侵略が始まった当初は恐怖を感じて汚職が減っていたが、しばらくするといつもの習慣、従来の活動に戻ってしまった。
(中略)戦争が終わったかのように今までやっていた悪行に戻ろうとする国防省の官僚がいると2022年の秋ごろから情報が入るようになった。大きな不満を感じた関係者から契約書のコピーが提供された。
(中略)2022年末の時点で国防省の食料調達契約の価格はスーパーの価格とほぼ同じ。
それが2023年1月1日からの契約書の購入価格は2倍、項目によっては3倍も高くなっていた。」
つまり、高額契約のキックバックで私腹を肥やしていたのだ。この告発がきっかけとなりこの国防次官は辞任に追い込まれた。
しかし、これはほんの一例に過ぎない。
ニコロフ記者は今回で汚職は終わらないと私たちに話してくれた。
いま狙いを定めているのはロシアが破壊しているエネルギー関係のインフラの修復などに関わるもので、ゼレンスキー政権内の人物だという。
汚職告発サイト『ナシ・グロシ』創設者 ユリー・ニコロフ記者
「今はエネルギー分野での複数の案件を取材しています。戦時下でインフラ建設のために入ってくる発電機や変電所の建設費も金額が大きいからです。その人物はこれから大変な時を過ごすことになるでしょう。詳細は明かせないので話はここまでです」
■裏切者企業のロシアとの取引“音声”
西側、とくにアメリカがウクライナの汚職体質を問題視するのは、
ウクライナを通してロシアや中国が不正な手段で資金や情報までを得てしまうことを防ぐためである。
金銭ならまだしも、供与した最新兵器の情報が敵対国に流れたなら大変なことになる。
元々、ウクライナは賄賂大国だったとされ、
現にこんなこともあった。
軍事関連会社ともいわれるエンジンの会社「モトール・シーチ」。
その幹部が中国から賄賂を貰い、
株を大量に手放そうとしていたことがあり、
日本側の情報提供でウクライナの治安機関が株主総会当日乗り込み、
力づくで阻止したという。
しかし今回、この会社を巡ってとんでもない事態が発覚した。
現在は国有化された「モトール・シーチ」が秘かにロシアと取引していたのだ。
それも去年の3月、戦時下となり敵国となったロシアが相手だ。
その取引の音声データがあった。
そこには耳を疑う会話が記録されていた。
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長 ・・・
「何台購入するか教えてくれ」 ・・・
「部品はそちら(モスクワ)に送ることができるが」 ・・・
「クロアチア経由がいいのかモンテネグロ経由がいいのか決めてくれ」 ・・・
「よさそうな場所があったよね」
ロシア・モスクワ企業の社長 ・・・
「クロアチア、カザフスタン、キルギスでもいい」
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長 ・・・
「総額を計算するのでどこ経由にしたいのか決めてくれ」
こうした取引の具体的な話に続いて、
ボグスラエフ社長がウクライナを裏切る内容も記録されていた。
ロシア・モスクワ企業の社長 ・・・
「あなたはゼレンスキー側の味方だよね」
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長 ・・・
「いやいやいや、ゼレンスキー側は去っていく。ゼレンスキーを押し出して去っていく」 ・・・
「問題ないよ キーウでは多くの人が死んだし、彼らはおとなしくなったし」 ・・・
「プーチンが戦争を終わりにしたら、ナチは私たちを殺すぞ」 ・・・
「うちの敷地内でイスカンデルミサイルが着弾したが、私隊は特に怒っていない。
状況を理解してるからね」
このやり取りには田中克氏も驚く。
ウクライナ財務大臣アドバイザー 田中克氏
「直接ロシアとやってるとは思っていなかった。中国経由と思ってたんで…。」
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「ウクライナの汚職、不正はロシアのつけ入る隙になるんです。まぁこれは驚きましたけど…(中略)これ以外にもウクライナの政治家や高官にロシアが直接賄賂を渡して情報を得るとか、開戦直後ロシアに有利な形の取り計らいがあったという事件は伝えられていて、高官が解任されたことはあった。でもここ(汚職・不正体質)を切っていかないと西側が支援を続けていくことは難しいと思います。」
■汚職大国ウクライナ
ゼレンスキー大統領自身の問題は… さすがに『モトール・シーチ』のボグスラエフ社長は去年10月逮捕されたが、汚職、不正が横行するウクライナでは氷山の一角に過ぎないという。
ゼレンスキー大統領も1月31日
「これですべての人事措置が終わったわけではない」と演説した。
2月1日に出された“汚職への厳しさ”を示すランキングでウクライナは世界116位だ。
去年の侵攻直前プーチン氏は
「ウクライナの汚職は通常の範囲を超えている」と批判している。
このランキングでロシアはさらに悪い137位なので
“どの口が…”という話ではあるがどちらも褒められた順位でないのは確かだ。
過去形でない汚職体質のウクライナの中、
心配になるのはゼレンスキー大統領自身に問題はないのか、ということである。
ウクライナ財務大臣アドバイザー 田中克氏
「もともと汚職やオリガルヒとの裏の関係を撲滅しようとしがらみのないテレビタレントから大統領になった。しかしロシアの侵攻前は、オリガルヒと裏でつながっているんじゃないかという疑念はありました。支持率も10%まで落ち込んでいました。今の状況だとロシアに対し毅然とした態度で人気もあり政権維持としては大丈夫。汚職については…私の口からははっきり言えないが…全くないということはないと思う」
ウクライナが汚職体質からどう立ち直れるのか、
そしてゼレンスキー氏自身の問題が明らかになるのか
…今後の欧米支援にも影響し、戦況を左右する大きなファクターになりそうだ。
(BS-TBS 『報道1930』 2月1日放送より)
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