軽症が多いはずのオミクロン株で、新型コロナ死亡者数が過去最多 理由は?

 
 
 
 
 
呼吸器内科医
 
 
1/7(土) 
 
 

現在新型コロナ第8波が到来していますが、過去最多の死亡者数を記録しています。日本の新型コロナ死亡者数のほとんどは、実はオミクロン株によるものです。「ただの風邪」「インフルエンザと同等」と言われながら、なぜ死亡者数が最も多くなってしまったのでしょうか。

 

オミクロン株で4万人以上が死亡

オミクロン株が日本に上陸して猛威を振るい始めたのは、2022年1月の第6波からです。当初「重症度が低くただの風邪レベル」と油断していた人が多かった変異ウイルスです。

 

蓋を開けてみると、これまでの国内の新型コロナ感染者数・死亡者数のほとんどがオミクロン株によって占められることになり、この1年間で約4万人の命が失われました図1)。

 

 

 

新型コロナの重症化率や致死率がインフルエンザレベルまで下がったのに、なぜこのような事態になるのでしょうか。

 

感染性が高く死亡者数が連れ高

インフルエンザと決定的に違うのが、感染性です。新型コロナは基本再生産数でインフルエンザの数倍は高いとされています。

 

季節性インフルエンザの基本再生産数は約1.3ですが、

 

新型コロナの初期の株では約3で、

 

デルタ株・オミクロン株などの新たな変異株が登場するたびに上昇し続け、現在5以上ではないかと推察されています(1)。

 

 

 

感染性という観点では、インフルエンザに近くなったどころか、むしろ強力になっている印象です。

 

過去のインフルエンザシーズンで、これほど多くの高齢者施設クラスターを経験したことはありません。

 

ワンフロアで数人インフルエンザにかかったということはよくありましたが、

施設全体で壊滅的な状況に陥る高齢者施設が地域内で複数あるのは、

それだけ新型コロナの感染性が高いからに他なりません。

 

たとえインフルエンザと同等レベルに新型コロナの重症化率や致死率が減少しても、感染者数の増加がそれを上回れば、死亡者数は増えてしまいます(図2)。

 

 

 

 

また、「重症者数が増えていないのに死亡者が増えているのはおかしい」という見解を目にすることがありますが、主に軽症中等症のコロナ病棟で高齢者が亡くなられています。

 

高齢者は、人工呼吸器や心肺蘇生などを希望されないことが多く、重症病床に転院することはありません。そのため、重症としてカウントされずに静かに亡くなられます。

 

「ずっとインフルエンザシーズン」

インフルエンザの

超過死亡は1シーズンあたり約1万人

とされており(2,3)、

 

もちろん数字を単純比較することはできないのですが、

 

医療現場は年中ずっとインフルエンザシーズンが続いているような感覚を持っています。

 

コロナ禍前、冬の診療時は「インフルエンザシーズンが終わって春さえ到来すれば・・・」という気持ちで私たちは頑張っていました。「新型コロナはインフルエンザと同等」というのであれば、少なくとも春~秋くらいは悩まされない感染症であってほしいと思います。

 

オミクロン株以降、私たちは約1年間で3回の新型コロナの波を経験しました。

 

インフルエンザシーズンが1年間で3回もやってきたら、医療現場は大変です

 

新型コロナの診療現場は、まさにそういう状況です。

 

 

 

 

 

 

 

総合病院クラスは、ほとんどが既に新型コロナを診療していますので、

「5類感染症」にしたら新型コロナを診られる入院ベッドが増える、

というのは楽観的すぎる気がします。

 

まとめ

オミクロン株による死亡者数が4万人を超えています。

 

ほとんどが高齢者の死亡であり、

 

重症としてカウントされずに

軽症中等症のコロナ病棟で亡くなられています。

 

とはいえ、日本はワクチン接種率が高い国の1つであり、

国際的にも人口あたりの死亡者数はまだ少ないほうです。

 

「新型コロナワクチンを接種しても無意味」というのは短絡的で、

 

ワクチンによって重症化や死亡を防いでいる状況が今の日本なのだ

 

理解していただければ幸いです。

 

もしこのワクチンがなければ、助けられる人を選別する「トリアージ」が常態化していた可能性があります。

 

新型コロナのもっともタチが悪いところは、

 

「ただの風邪」

 

「ワクチンは無効」

 

と思わせることで人類を油断させ、

 

最終的に死亡者数を増加させるという

 

社会的なクセの悪さなのかもしれませんね。

 

 

 

 

倉原 優

 

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です