「コロナ?インフル?」発熱で慌てる人の3つの間違い 「抗原検査で陰性」ほど信用できないものはない
2023年は、「感染症カクテル」の年になるだろう。さまざまな感染症が「失われた流行」を取り戻すかのように、次々と再燃すると見て間違いない。
実際、第8波に加え、すでにインフルエンザの流行も始まり、海外ではトリプルデミックが現実となっている。正月休みが明けて人々がまた動き出せば、発熱外来が逼迫してくるのも時間の問題だ。 そこで本稿では、突然の発熱に見舞われた際の「あるある」な間違いを3つご紹介したい。ぜひ知っておいて、いざという時に気をつけていただけたらと思う。
■「抗原検査で陰性」ほど怪しいものはない
間違い1:急いで抗原検査を受け、「陰性」結果に安心する 率直に言って、新型コロナの「抗原検査で陰性」ほど怪しいものはない。
抗原検査はウイルス量が少ないと簡単に「偽陰性」(感染しているのに陰性)が出るからだ。
診療現場の体感的には、大目に見て3~4割当たるかどうかだ。
実はいかに抗原検査があてにならないかは、研究でも明らかになっている。
「アメリカ医師会雑誌」の研究では、225人のPCR陽性患者に抗原検査を行ったところ、正しく陽性と出る割合(感度)はPCRと比べて、
発症日は40%未満(そもそもPCRも発症日の感度は8割程度なので、実質的には30%程度だろう)、
発症5日目にようやく77%となった。
しかも、
15日間連続で抗原検査をしてもらった平均として、
症状がある場合は感度65%だが、
無症状だとわずか10%だった。
また、ワクチン未接種だと
15日平均で感度67%だが、
1度でも接種を受けていると感度は49%に下がった。
同研究では、
1回ではまったく信用できないので、
2日おいてもう一度抗原検査をすることで、
感度はPCR比85%まで高められるとしている。
FDA(アメリカ食品医薬品局)も、
抗原検査が陰性の場合は2日後にまた検査することとしている。
ところが、症状が軽ければ何度やっても信用ならない、というのが実情だ。
知り合いは微熱と喉の痛みで、発症から2日目と4日目に抗原検査を受け、いずれも陰性だった。
だが3日後、同時に受けておいたPCR検査の結果は、陽性だった。
すでに発症から1週間たち、市販の解熱鎮痛剤でしのぎつつ外出もしていたという。
これでは当然、家庭内感染や職場内感染は防ぎようがない。
高齢であれば、様子を見ているうちに重症化する可能性もある
■インフルも「早すぎる検査」で偽陰性に さらに、新型コロナが本当に陰性でも、インフルエンザを同時に疑ってかかるべきだ。 実際つい先日も、「39℃の発熱で、喉がすごく痛い」という患者さんを調べたら、コロナ陰性で、思ったとおりインフルA型だった。また別の日に当院で抗原検査を1日に33件実施したところ、新型コロナ20件、インフルA型7件という結果だった。 インフルエンザがじわじわ増えているのは間違いない。そして長年患者さんを診てきた私でも、症状だけでは正直、新型コロナと見分けがつかない。特に今年流行し始めているインフルA香港型(H3N2)は、一般的に症状がつらく出る人が多い。
インフルエンザの簡易検査も、タイミングが早すぎると陽性が正しく出ない。国内の研究によれば、発症から半日未満では平均40%以下(17.3~64.3%)だが、丸2日以上待てば平均で約70%(47.1~86.8%)検出できる。 新型コロナ抗原検査とインフル簡易検査どちらも(同時検査キットでも)、最短2日目まで待って実施し、もし陰性ならさらに2日後にもう一度やろう。その間、風邪のような症状があるなら何であれ静養し、感染を広げないよう最大限配慮したい。
間違い2:抗ウイルス薬を求め、医療機関をはしごする 新型コロナでは(インフルエンザもそうなのだが)、今ある抗ウイルス薬を基礎疾患のない若い人に使うメリットはない。 2022年1月14日に特例承認されたファイザーの飲み薬「パキロビッドパック」は、重症化の恐れのある12歳以上の患者が発症から5日以内に服用する。同社によれば、入院または死亡のリスクを88~89%低下させるという。さらに最近の研究で、後遺症も減らせるとの結果が出た。
ところが、上記の数字は、ワクチンを打っていない人たちだけを対象にした場合だ。別の研究でワクチンを3回以上接種した人たちに投与した場合を調べたところ、入院または死亡の予防効果は、44%にとどまった。 しかも、未投与で重症化・死亡率が0.97%なのが、0.55%になります、というレベルの話だ。200人に投与して入院または死亡が2人から1人に減る勘定だから、薬剤費をラゲブリオの薬価の9万円程度とすると、入院または死亡を1人減らすのに1800万円かかることになる
また、11月24日には塩野議製薬の「ゾコーバ」が軽症者にも使える初の国産新型コロナ治療薬として緊急承認され、話題となった。しかし、治癒までの期間が8日から7日に短縮されることが、それほど大きなメリットと言えるのか。大いに物議を醸している。
■そもそも死亡率は低い そもそも基礎疾患のない若者なら重症化リスクは低い。
厚労省によれば60歳未満全体でも(基礎疾患を有する人を含めても)、2022年7~8月の新型コロナの重症化率は0.01%、死亡率は0.00%だった。季節性インフルエンザでさえ、60歳未満の重症化率0.03%、死亡率0.01%だ。
多くの患者さんは、
解熱鎮痛剤や、咳、鼻水などの症状を和らげる対症療法薬、
あるいは葛根湯などの漢方薬を、症状や体質に合わせて適切に組み合わせれば用が足りる。
大半は市販の風邪薬(総合感冒薬)でも間に合うくらいだ。
それが日々診療にあたる私の実感だし、発熱外来を設置し、新型コロナ診療に真摯に取り組んできた医師なら、私と大差ない意見に落ち着くのではないだろうか。
「あの医者は抗ウイルス薬を出してくれない」と文句が出るかもしれない。それでもこの年末年始に、手に入るまで医療機関をハシゴし続けるのは、お勧めしない。
その元気があるなら、抗ウイルス薬はますます要らないはずだから。
間違い3:長引く発熱で受診せず、長引く咳で受診する
もちろん発症した段階で、
●65歳以上、基礎疾患がある、妊婦、子どものいずれかで、風邪に似た症状がある
●高熱が続く、息苦しい(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)等つらい症状がある のどちらかの場合は、オンラインでもいいので発熱外来を受診していただきたい。
それ以外(主に13~64歳で症状が軽く、重症化リスクの低い人)なら、まずは自宅で抗原検査をし、結果次第でオンライン受診を。症状が軽かったらいずれにしても市販薬で様子を見てもらえばいいだろう。これらの判断の目安と対処は、年末年始に限らない
「でも、いつまで様子を見ればいいの?」と思われるかもしれない。もちろん、4~5日で徐々に回復に向かい、1週間程度で症状がすっかりなくなってくれればいいのだが、そうはいかないこともある。
■一番のポイントは「発熱」
一番のポイントは、やはり「発熱」が続いているかどうかだ。 発症から5~6日経っても38℃を超える発熱がおさまらなかったら、家でじっと耐えている場合じゃない。迷わず受診しよう。細菌性肺炎を起こしているかもしれない。
ウイルス感染症が4~5日を超えて長引くと、細菌感染症を合併しがちだ。細菌に対しては抗生物質の適切な使用がてきめんで、放っておくと悪化することのほうが多い。 だから38℃が続くなら、未受診の場合に限らず一度受診して自宅で療養していた場合でも、またコロナであれインフルであれ何であれ、再受診を。 対照的なのが、「長引く咳」だ。 「熱が下がって1週間経っても咳が出るのですが」と受診される方がいるが、どうしようもないことも多い。ウイルスや他の症状が消えても咳だけ続くのは、想定の範囲内だ。
咳は、原因がコロナであれインフルであれ、風邪であれその他であれ、一度起きると、それ自体が刺激となって何日もおさまらなくなることがある。イギリスの国民保健サービスは、咳が続くことによる受診のメドを「3週間」としている。 息苦しいといったこともなく、咳がちょっとずつでも軽くなっているなら、鼻うがいをしながら落ち着くのをあと2週間ほど待ってみてほしい。軽い咳だけで年末年始に無理して受診していただくことはない。
オミクロン株の出現以降、軽症化したことで受診しない人はますます増えた。「陽性」と認定されたら出勤できなくなるだけだからだ。肌感覚で言えば、公的発表より感染者数はずっと多い。
このところずっと繰り返されている
「先週も日本は新型コロナ新規感染者数が世界最多でした」
報道も、ナンセンスだ。
世界の多くの国では、
過去に日本とは桁違いの感染者数を記録し、
人々がすでにワクチンより強力な免疫を得ている。
今になって新規感染者数が落ち着いているのは当たり前だ
何より、各国とも続々と無料検査をやめてしまった。感染者数はもはやまともにわからないが、それでいいと考えている。世界基準で言う「withコロナ」とはそういうことなのだ。
■「鼻うがい」の合理性
とはいえ私も報道側が悪いとは思っていない。日本ではまだ感染症法上の2類だから、数字の発表・報道がルーチンになっているにすぎない。
今後は、息を潜めていたさまざまな感染症が、再び勢力を盛り返してくる。それでも私たちは当たり前のことをしながら、当たり前の日常を送っていけばいい。
ワクチン接種をきっちり受け、人と近距離で会話する場合にはマスクを着け、手洗いを心がけ、室内なら換気を徹底する。
その中で風邪のような症状が出たら、今だったら「コロナかインフルだろう」と思って、3つの間違いを避けて冷静に行動する。たとえそれがRSウイルスでも他の感染症でも、おかしなことにはならないはずだ。
ひとつオススメしたいのは、
生理食塩水での「鼻うがい」だ。
重症化リスクを8分の1に減らせるという、
アメリカからの報告がある。
55歳以上の新型コロナ患者に、
発症から間もなく1日2回2週間、
生理食塩水による鼻での鼻うがいを続けてもらった。
すると、
同時期のCDC(アメリカ疾病対策センター)登録患者約300万人では10.6%が
入院や死亡に至ったのに対し、
鼻うがい実施者は入院1名のみ(1.27%)で死者はなかったという。
数字を比べてみれば、微々たる効果の抗ウイルス薬にすがるより、
よっぽど地道で確実な方法と考えるべきだろう。
久住 英二 :ナビタスクリニック内科医師
「コロナ?インフル?」発熱で慌てる人の3つの間違い 「抗原検査で陰性」ほど信用できないものはない(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース