ロシア兵が動物を略奪する映像に驚愕、木に吊るされた死骸も

ニューズウィーク日本版

<「奴らにとっては殺しは娯楽なのだ」「人間を拷問し殺せないときは動物を殺す」と、虐待写真を投稿したウクライナ国防省は憤る>

ウクライナから救出され、ハンガリーの動物園に引き取られた生後12週間の子ライオン、マジル Krisztina Fenyo-REUTERS

 

 

 

 

ロシア政府は11月9日、ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソンとその周辺地域からの撤退を発表。その2日後の11日には、撤退を完了したことを明らかにした。その撤退ついでに、ロシア軍の兵士たちが動物園から動物を盗んでいく様子を撮影した動画が、インターネット上で大きな注目を集めている。 

 

【動画】ラマと格闘し、アライグマを追い回すロシア兵 

 

 

動画には、軍服姿のロシア兵たちが小型トラックの後ろにラマを乗せようと格闘する様子が映っている。1人の兵士が檻の中でアライグマを追い回し、うなり声を上げるアライグマの尻尾をつかんで捕まえる様子を捉えた場面もある。 ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問が、13日にツイッターに投稿したこの動画は、投稿から24時間も経たないうちに視聴回数が32万5000回を超えた。 ゲラシチェンコは動画に次のようにコメントしている。「ロシア兵はヘルソンから撤退する際、地元の動物園から動物を盗んでいった。最も注目すべきたアライグマだ。動画の中のアライグマは、全力で抵抗している」 動画がいつ、どこで撮影されたのか、独自に確認を取ることはできていない。 ワシントン・ポストによれば、盗まれたのはアライグマ7匹、メスのオオカミ2匹、複数のクジャク、ラマとロバ1頭ずつだという。 「食べるために盗んだ」? 問題の動画はあっという間に視聴回数を伸ばし、リツイートされた回数も3000回近くにのぼった。多くのインターネットユーザーは動画に戸惑いを覚え、ロシア軍は盗んだ動物をどうするつもりなのかと疑問に思った。 兵士たちが動物を手荒に扱った、あるいは傷つけた可能性もあると非難する声も多く、盗まれた動物はロシア軍の食糧にされるのではないかと案ずる声もあった。ロシア軍の兵士たちは食料不足で飢えており、給料もまともに支払われていないと報道されているためだ。 軍が撤退していく際には通常、後で敵に利用されないよう戦術兵器や装備品を持ち去るものなのに、ロシア軍がわざわざ動物園から動物を盗んだことにも驚きの声が上がった。 あるユーザーは次のようにコメントした。「情報を整理すると、つまりロシア軍は兵士や装備や兵器を置き去りにして行ったのに、動物園から動物を盗む暇はあったということか?」 この状況を滑稽だと感じた者もおり、インターネット上にはジョークやミームも出回った

 

 

 

 

犯人はクリミアの動物園長?

あるツイッターユーザーは、ハリウッド映画『プライベート・ライアン(原題の意味は兵卒ライアンの救出)』をもじって、『兵卒アライグマの救出』というタイトルに変えたポスター画像を投稿。ポスター中央には戦場にたたずむアライグマの姿があり、その後ろにウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とウクライナ軍の幹部たちの顔が並んでいる。 一方で「窃盗団」の身元特定に乗り出した者たちもいた。一部のツイッターユーザーは、動画に映っている兵士の一人は、ロシアが併合したクリミア半島にある動物園のオレグ・ズブコフ園長ではないかと言った。彼は盗んだ動物を自分の動物園に持ち帰ろうとしているのではないか?と。 あるユーザーは、次のように投稿した。「(動画の人物は)ロシアの味方をしているクリミア動物園のオレグ・ズブコフだ。彼はヘルソンの動物園関係者の許可を得ずに動物を盗み、クリミアに連れていく気だ」 別の人物は、檻の中でライオンの赤ちゃんとトラと一緒に遊んでいる男性のYouTube動画を共有。この動画の中の男性が今回の動画の男の一人と酷似しているとして、動物を盗んでいるのはズブコフだと主張した。「動画の中の泥棒は、ロシアに占領されたクリミア半島にあるサファリパークのオーナーで、彼のYouTubeチャンネルの動画は100万回視聴されている」 軍事侵攻の開始以来、略奪が横行 本誌はこの疑惑について独自に確認を取ることはできておらず、ズブコフ本人にも問い合わせたが、本記事の発行までに返答はなかった。 動物泥棒の動画が出回った翌日には、さらに悲惨な画像が投稿された。ロシア兵が放棄したとされる場所で、木に吊るされた動物たちの死骸が見つかったのだ。ツイートを投稿したウクライナ国防省は、「彼ら(ロシア兵)にとって殺しは娯楽なのだ」と書いた。「人間を拷問し殺せないときには動物を殺す」 殺された動物のなかには、絶滅危惧種のタビキヌゲネズミの姿もあった。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「特別軍事作戦」と称して、2月にウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、ロシア兵たちが略奪や盗みをはたらいたという証言が数多く上がっている。 軍事侵攻開始から3日後には、ロシア軍がウクライナの銀行や食料品店を略奪している様子を撮影したらしい動画が、ソーシャルメディア上で広まっていた。一時帰還するロシア兵が、洗濯機や冷蔵庫などの家財道具を奪っていく報道もあった。ロシア軍が遊園地の乗り物を盗んでいく様子を捉えたとする動画も、インターネット上で共有された。 プーチンの軍がウクライナで、動物園の動物をはじめとするさまざまなものを略奪しているという主張について、本誌はロシア外務省にコメントを求めたが、本記事の発行時点までに返答はなかった。

戦争に翻弄される動物たち

今回の戦争で、ウクライナの動物園の動物たちの運命がニュースになったのは、今回が初めてのことではない。3月には首都キーウ近郊の保護施設が、動物たちをポーランドに避難させた。その1カ月後にはハルキウの動物園の園長が、ロシア軍の砲撃でライオンやトラの檻が大破したことを受けて、これらの大型動物を安楽死させるほかないと発表し、国内外から支援が寄せられた。

クロエ・メイヤー