日露戦争に並ぶ屈辱...ロシア国営TV、へルソン撤退に「歴史的敗戦」引用し悲壮ムード

 

ニューズウィーク日本版

<普段は威勢よくロシア政府のプロパガンダをまき散らす国営放送だが、へルソン撤退のニュースは重苦しく暗いムードで伝えられた>

ロシア軍のへルソン撤退を祝う首都キーウ市民(11月11日) Murad Sezer-Reuters

 

 

 

ウラジーミル・ソロビヨフは、ロシア政府のプロパガンダ拡散役を担っていることで知られる国営テレビの司会者だ。しかしこのたび、ロシア軍がウクライナ南部のヘルソンから撤退することが決まったと報じた際は、いつもとは打って変わって沈痛な面持ち。ロシア軍の「歴史的敗北」にまで言及する意気消沈ぶりだった。

 

 

 

 

  【動画】重苦しく暗いムードでへルソン撤退を伝えるソロビヨフと、普段の威勢の良いソロビヨフ 

 

 

 

 

 

国営テレビ「ロシア1」で放送された番組「イブニング・ウィズ・ウラジーミル・ソロビヨフ」の司会者であるソロビヨフは、11月9日の番組冒頭で、本来ならばアメリカの中間選挙について番組内で議論する予定だったが、ロシア軍によるヘルソン撤退という、より重大な事態が発生したと深刻な面持ちで説明。その後、ロシア軍の部隊をドニプロ川西岸帯域から撤退させると発表したセルゲイ・ショイグ国防相の映像を紹介した。 ショイグはヘルソン撤退について、ウクライナ軍事侵攻の指揮を執っているセルゲイ・スロビキン総司令官の提言を受けて決断を下したと説明し、撤退の理由については「兵士たちの命とロシア軍の戦闘能力を守るため」だと述べた。 

 

 

 

 

 

■「我々は日露戦争に負けた」

 

 ソロビヨフは、これは「きわめて勇敢な人物」にしか下すことのできない「非常に困難な決断」だと述べ、ロシアが過去に携わった戦争に言及した。「我々は日露戦争に負けた」と、彼は1905年にロシア帝国が直面した屈辱の敗北を挙げると、「第一次世界大戦にも負けた。大戦のさなかでも革命が起きて、1914年から1918年まで続いた長い戦争に、我々は負けた」と続けた。 

 

この発言の後、パネリストたちによる活発な議論が始まったが、

ソロビヨフはそのやり取りを遮って

 

「我々はフィンランドでも敗北しなかったか?」と述べた。

 

これは1939年にソ連軍がフィンランドに侵攻したものの敗北した「冬戦争」のことだ。 

 

 

そしてソロビヨフは「我々は今、NATOと戦争をしている」と述べ、さらにこう続けた。

 

「NATOがこれほどの規模で我々に立ち向かってくるというのは、明らかに予想外だった」 

 

ソロビヨフは、戦争においては「感情に流されない」ことが重要であると同時に、戦争がいかに「痛みや恐怖を伴うものか」を考えれば「軍の決断を尊重すること」も重要だと主張。

 

「だが戦争には独自の法則がある。我々は兵器を製造している世界経済の50%(を占める国々)を相手にしている」と述べた

 

 

敢えて米中間選挙の後に撤退を発表したと主張

だがソロビヨフは、ロシア軍の決定は賢明だと擁護し、ウラジーミル・プーチン大統領や軍幹部を直接批判することはなかった。「戦争における勝利は、一つの軍が破壊された時に達成される。我々の軍が破壊されないようにすることが、きわめて重要だ」と彼は主張した。 ある有識者が議論の中で、ロシアがヘルソンから撤退することについては、何日も前から憶測があったと指摘すると、ソロビヨフはそれに対して、11月8日以前に撤退していれば、米中間選挙で民主党にとって有利な材料となり、「ジョー・バイデン米大統領を助けることになった」と主張。「だからこそ政府は、アメリカの選挙に影響を及ぼすことがないように、(米中間選挙の投票日である)8日よりも後の9日に発表を行ったのだ」と語った。 番組に出演したパネリストたちは、この時ばかりは得意げに、ロシア政府にはアメリカの選挙プロセスに影響を及ぼす力があるのだと語り合った。アメリカの野党・共和党の間には、ウクライナへの軍事支援のコストを懸念する声があるため、プーチンとしては中間選挙で共和党が躍進することを願っていたのだろう。

ブレンダン・コール

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