円安と物流の停滞で供給システムが大打撃

【画像】 英紙が日本に迫る「食料危機」に警鐘…このままでは戦後の「コメとサツマイモの時代」に逆戻り

 
フィナンシャル・タイムズ(英国)

 

 

Text by Leo Lewis and Kana Inagaki

 

 

 

客を値上げから守ってきた日本のスーパー


2022年10月1日、日本のスーパーマーケットにやってきた買い物客は、6000点を超える食料品の価格がひと晩のうちに大幅に値上がりした光景を目の当たりにしただろう。

専門家は、日本の食料供給システムがいかに危ういかを長年、警告してきた。消費者も問題の深刻さをやっと痛感するはずだ。

高品質だが自給率の低い日本の食料供給システムと、食の安全がいま脅かされている。この状況は、グローバル経済のシステムが崩壊し、その恩恵を受けてきた日本が経済大国の座から転落しつつある証拠でもある。日本の当局者もそれを認めている
 
 
 
 
エネルギー価格の高騰と下落を続ける円のせいで、日本に輸入される食品の価格はおよそ48%上昇した。その一方で、日本のスーパーマーケット業界は商品値上げの圧力から客を守っている。

競争の激しい日本のスーパーマーケット業界は、国内経済で数十年続いた商習慣から逸脱できず、商品の値上げに踏み切れない。賃金が低迷したまま20年以上も経過すると、誰も足並みを乱す行為をとりたくないのだろう。だが、価格が上昇した分のコストを消費者に転嫁しない限り、日本の食品関連の企業が生き残るのは難しい。

食料関係当局は「長年さまざまな問題を経験してきたが、今回はそれらとは違うと感じている」と話す。異常気象、気候変動、新型コロナのパンデミックによって、世界の物流が混乱した。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって食料品、エネルギー、化学肥料のグローバルな流通網が停滞すると、日本が数十年ものあいだ見過ごしてきた食料供給システムの構造的なリスクが露呈したのだ。

中国・台湾間の緊張がさらに高まり、台湾海峡で軍事衝突が起きれば、重要な輸送ルートが寸断され、日本の食料輸入は壊滅的な打撃を受けるだろう。国内随一の食料安保専門家は、「農業改革をただちに実行に移さなければ、現代日本の洗練された食生活は、コメとサツマイモでしのいでいた1940年代に逆戻りしかねない」と警鐘を鳴らす
 
 
 
 

「食料危機が起きたら、コメを食べればよい」はほんと?

「稲作を特別扱い」する日本の食料政策には大誤算があった

 
 
 
日本政府も、自国の食料安全保障が危機に瀕していることを認める。問題は彼らに、惨事を回避するために必要な時間、インセンティブ、人材、イノベーションの力があるかどうかだ。

農林水産省の大臣官房総括審議官である杉中淳は、「日本の経済的な地位の低下が、昔とは違う点です」と話す。

「もはや“日本は世界のどこからでも、好きなものを好きな価格で買える”という状況ではありません。いまこそ、すべての人に食料を供給するための新しい戦略を考えるときです。日本の農業が抱える最大の問題は、挑戦への意欲がないこと。高齢化が進むと、違う方法を試すのも難しくなります。だから若い世代が必要なのです
 
 
 
 
食料品価格が2022年10月にいっせいに値上げされても、日本全国の家庭を破綻させるほどではない。とはいえ日本の食料自給率がわずか38%で、残りの消費カロリーはすべて輸入品頼みだという事実は身に染みるはずだ。

日本の食料自給率は1965年の73%から低下しつづけ、現在は主要国で最低水準だ。とくに小麦(83%が輸入)、大豆(同78%)、食用油(同97%)などの海外依存率はきわめて高い