日本領事「拘束」は、ロシアの「特大ブーメラン」...露スパイが日本でやってきたこととは?

ニューズウィーク日本版

<ロシアによる日本人外交官の拘束は明らかな条約違反だが、ロシアは日本でそれどころではないスパイ活動を幾度となく実施してきた>【山田敏弘(国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員)】

 

ロシア政府は9月26日、ロシア極東ウラジオストクの日本総領事館の領事を、ロシアの機密にからむ情報を不正に入手したスパイ容疑で拘束したと発表した。そしてこの領事を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)」だと日本に抗議し、48時間以内の国外退去を命じた。

 

 

 

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領事が拘束されていたのは22日のことであり、数時間にわたって拘束されてウラジオストクにあるFSB(ロシア連邦保安局)の事務所で取り調べも受けていた。連行の際には、領事は目隠しされたり、頭を押さえつけられるような扱いも受けたという。 公開された質問を受けている様子の動画を見ると、厳しい口調で罪を認めるよう促され、観念したように、容疑を認めている領事の姿が映し出されている。しかも途中、同席していた男性職員らしき人物が、電話の受話器を激しくテーブルに叩きつけるような場面もあり、緊張感も漂っていた。 くしくも27日に行われた安倍晋三元総理の国葬儀の前日に発表されたこニュースを受け、松野博一官房長官は記者会見でこう述べている。「当該館員がロシア側が主張するような違法活動を行ったという事実は全くない」「ウィーン条約および日ソ領事条約の明白かつ重大な違反であり、極めて遺憾。決して受け入れられない」 こうした顛末を受けてはっきりと反論したのが、駐日ロシア大使のミハイル・ガルージンだ。FNNプライムオンラインによれば、ガルージンは、ロシアメディアの取材に応じて、「日本の外交官は、その地位に反する行為をした。わが国の法律とウィーン条約に違反するものだった」と批判。その上で「日本の外交官によるこのような行為に対する謝罪と、こうした行動を今後慎むよう要求する」と述べたらしい。

 

 

 

 

 ■ロシアが日本で繰り返してきたスパイ行為

 

 ただ、日本はガルージンにそのようなことを言われる筋合いはない。と言うのも、これまで幾度となくロシア人外交官が日本国内で堂々と「スパイ行為」を実施してきたからだ。 少し過去を遡ってみても、2020年にはソフトバンクの社員だった人物が、ロシアの通商代表部の幹部職員(正体はSVR〈ロシア対外情報庁〉所属のスパイだった)にそそのかされてスパイに。判決文によれば、金銭と引き換えに同社の基地局での通信業務についての情報などの営業秘密を渡していた。 2014年にはロシア通称代表部の職員(正体はGRU〈軍参謀本部情報総局〉所属のスパイだった)が、航空自衛隊OBから防衛関連資料を受け取っていた。2012年にはロシア大使館付武官(正体はGRU所属のスパイ)が陸上自衛隊三佐から防衛庁の戦術概説の機密書類などを受け取っていたとして逮捕されている。 こうしたロシアのスパイのケースは枚挙にいとまがない。通商代表部にいる外交官という肩書きを装い、守られながらスパイ活動を繰り広げている。もちろん日本でこうしたスパイが捕まることは、ウィーン条約に規定された外交官の免責特権があるために、皆無だ。 ある公安関係者が言うには、日本に来ているロシアのスパイは、「ビジネス分野や学術分野などでできる限り多くの関係者らと知り合っていることが評価につながる。時に、質よりも量(人数)がスパイ活動の重要な要素になっています」と言う。つまり、できる限り数多くの日本人と接触して情報をもらっているということだ。今回捕まった日本人領事とやっていることはそう変わらない

 

 

 

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