万引き「10年以上前から」「一度も現行犯逮捕されず」…小型高級家電を狙い、総額1億円超

読売新聞オンライン

 「10年以上前から万引きを繰り返していた」「一度も現行犯逮捕はされなかった」。津地裁は8月31日、家電量販店で万引きを繰り返したとして窃盗罪に問われた津市の会社員の男(53)に懲役2年2月、執行猶予5年の判決を言い渡した。三重県警の捜査では被害総額が1億円を超えた事件。なぜ長期間明るみに出ず、続けられたのか。(河野圭佑)

豪華な暮らしぶり

 高級な家電製品がそろい、駐車場には高級ミニバンが2台――。男の家に立ち入った捜査員はその暮らしぶりに驚いた。「万引き犯の多くは金銭的に困窮している。一体どうして」

 今年1月、津署に窃盗容疑で逮捕された直後は、「記憶にない」と否認していた男。だが、車内に残った盗品や車の移動履歴を突きつけられると、長年にわたる万引きを次々と告白した。捜査員は通話履歴から、換金しようと持ち込んでいた名古屋の老舗の質屋を突き止めると、「10年来の付き合いがある」と捜査への協力を得た。

 被告人質問で、男は「最後に働いたのは15年前」と話し、その後は万引きとパチンコで生計を立てていたと説明。19年前にも万引きで執行猶予付きの判決を受け、家電メーカーの下請け会社に就職したが、給料や人間関係の問題から長くは続かなかったという。

巧妙な手口

 「子どもたちに不自由なく、裕福な生活をさせたかった」。万引きを再開した男。「成功するたびに集中した」とのめり込み、家族には毎日、仕事に行くと「出勤」を装っていた。盗品を売却した金は、生活費のほか、自宅や車のローン返済にも充てた。

 狙ったのは美顔器やワイヤレスイヤホンなど、換金率が高く盗みやすい小型の高級家電が中心だった。

 店員の目を盗み、防犯カメラの死角に潜り込むと、パッケージに巻かれた防犯タグを外し、カバンに詰め込んだり、店内のパンフレットに挟んだりして持ち出した。ある被害店舗のフロアの隅には、防犯タグが山積みになっていたという。万引きは10年以上に及び、18府県にまで手を広げていたと自供した

 

 

判決ではこのうち、昨年8月~今年1月に5県で行われた11件が認定された。一方で、県警の捜査による被害総額は1億円を超え、約7000万円が名古屋国税局に課税通報されている。残る余罪について、県警は捜査効率化のために検挙したとして取り扱う「不送致余罪」として処理した。

「次は猶予ない」

万引きを繰り返した被告を、四宮裁判官は説諭した

 

 

 「実刑も視野に入る事案だが、同種前科は相当古く、正業に就いて更生する意欲をみせている」。判決で、執行猶予が付いた理由はこう説明された。今年3月の保釈後、男は工場で働いており、法廷では「お金をもらってする仕事、やりがいがあって楽しい」と涙を見せ、「お金に困っても犯罪を繰り返さない……誓います」と述べていた。

 四宮知彦裁判官は「執行猶予判決は2回目。5年以内に罪を犯せば長期間服役することとなる。5年過ぎたとしても、再び罪を犯せば、『十分に社会で更生する機会があった』として、次は猶予がない可能性が高い」と説諭した。

 判決後、弁護人は記者団に対し、「控訴はしない」と述べると、男とともに足早に立ち去った

 

 

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