ウクライナ戦争で強まったベラルーシ民主化への動き

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 スラヴォミール・シエラコウスキー(独外交評議会シニア・フェロー)がプロジェクト・シンジケートのサイトに8月17日付で「ベラルーシの反対派は強くなっている(The Belarusian Opposition Is Growing Stronger)」との記事を書いている。

 

 

記事の主要点は、次の通りである。  2020年8月の大統領選挙でチハノフスカヤはほぼ確実に現職のルカシェンコに勝っていたが、ルカシェンコは選挙結果を捏造、自身が80%の票を得たとして居座り、その後、大きな抗議活動が起こった。ルカシェンコ政権は抗議デモにテロと大量逮捕で応え、治安特殊部隊の残酷な介入によってかろうじて政権を保った。  

 

 

 

 

しかし、今やベラルーシ人は20年8月以前の受け身の彼らとは異なる。ベラルーシは文化的にロシアとは違い、ベラルーシ人は彼らが近代的で民主的なリベラルな社会に住んでいると自己認識している。  

 

 

ウクライナでのロシアの失敗しつつある戦争は、ベラルーシに機会を提供しうる。20年以降、ベラルーシ社会は長期の抵抗のやり方を学び、海外に基盤を置く自由なメディアを作った。

 

そして今、たぶん初めてベラルーシの抵抗勢力は武器を持ち、ウクライナで反プーチンの闘争に参加している。  抗議から2周年、すべての政治勢力はチハノフスカヤを首班とするベラルーシ亡命政府に合意し、それを作った。

 

これはヴィルニュスの彼女の事務所、国家危機管理局、ワルシャワに基盤を置く元制服組の組織BYPOL、サイバー・パルチザンを含む抵抗組織、ウクライナで戦っているパホニア(注:ベラルーシの愛国歌)部隊を含んでいる。2年前の抗議の際に作られた調整理事会は議会の代わりになりつつある。  

 

 

 

 

大きな変化は、亡命政府は既に武装部門(ベラルーシ人20万以上が登録済み)を持っており、機会があればルカシェンコに対し蜂起する準備ができていることである。最近まで、ベラルーシの兵士も政府の役人も代替策を持っていなかった。

 

 

しかし今は、ミンスクの正統性のない政府か、20年の戦挙で過半数を得て選ばれたチハノフスカヤを首班とする正統性のある政府かの選択を持っている。ウクライナでのロシアの屈辱がクレムリンを混乱に落としいれるときに出てくる機会に、この選択は行われるだろう。 

 

 

 

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ロシアのウクライナ戦争を同盟国として支援している国は、ベラルーシだけと言ってよいが、そのベラルーシの状況について、この記事はベラルーシの反体制派の動きを紹介している。ベラルーシではルカシェンコがひどい独裁政治をやっているが、ルカシェンコが政権の座にとどまっているのは、プーチンがロシア治安部隊の派遣などを通じてルカシェンコを支持しているからである。  

 

2年前のベラルーシ大統領選挙では、ルカシェンコが80%の得票をしたと発表されたが、それを信じている人はいない。プーチンはベラルーシ国民の意志を尊重した対応をすべきであったが、ベラルーシ国民よりもルカシェンコを選んでしまった

 

 

 

 

 

プーチン自身が不正な選挙で当選している面があり、ルカシェンコ支持がロシアの政情の安定、ベラルーシに対する影響力保持に資すると考えたのであろうが、あまり適切な判断ではなかった。普通に対応していれば、ウクライナもベラルーシも自然に親ロシアの国家、国民であり続けたのではないかと思われる。誇大妄想と被害妄想にとらわれて、プーチンはウクライナもベラルーシもその国民をロシア離れするようにしてしまっているように見える。

ルカシェンコにも危機感

 ウクライナ戦争との関係では、ベラルーシはキーウ攻略のための通路に当たる。キーウ攻略はロシアが当初狙ったが、ウクライナ側に押し返された。  それで今はウクライナ東部と南部にロシア軍が集中されている。今後の戦争の推移はまだわからないが、ロシアがキーウを占領するシナリオはなく、ウクライナ全土を支配下に置くロシアの目論見が実現する可能性はほぼない。  ルカシェンコは、最初の話と違い、戦争が長期化している、長期化すると不測の事態が起きかねない、などと言っている。ルカシェンコの発言は支離滅裂であるが、ウクライナ戦争の帰趨が自分の政権維持に悪い影響を与える、チハノフスカヤ政権が成立しかねないと本能的に感じている可能性が大であるように思われる。  なお、ウクライナは人口が4000万以上であるが、ベラルーシは1000万に足りない。ベラルーシ軍は空軍、陸軍からなるが、4万少しの兵員しかいない。20万人が亡命政権の武装部門に登録しているというのは相当大きい数字である。

岡崎研究所

 

 

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