«Слава Україні!
Героям слава!»、
スラーヴァ・ウクライニ、
ヘローヤム・スラーヴァ)
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クリミア軍用空港「攻撃成功」の真相──これで「戦局」は完全に逆転した
<英国防相「3日が150日を超え、6カ月近くになり、ロシア軍は甚大な損害を被った」。HIMARSとMLRSなどでウクライナが積み重ねた戦果とその重要度>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
攻撃を受けたサキ空軍基地の赤外線写真(8月10日) Maxar Technologies/Handout via REUTERS
[ロンドン発]
ベン・ウォレス英国防相は11日、
コペンハーゲンでウクライナ有志国支援会議を
デンマークと共催、
ウクライナに供与する自走多連装ロケットシステムM270 MLRSを
3両追加して倍にするとともに、
GPS(全地球測位システム)の誘導で
80キロメートル離れた目標を精密攻撃できるロケット弾M31A1を
大量に送ると表明した。
【写真】爆発の大きさと「ミスの跡がない」正確性が見て取れる、攻撃後のサキ空軍基地の衛星写真
会議には26カ国が参加。
デンマークのモーテン・ボドスコフ国防相は「米欧はウクライナの軍事能力を高めるため15億ユーロ(約2000億円)以上を拠出する」と表明。資金はウクライナ向け武器生産の増強、ウクライナ兵の訓練、ウクライナの地雷除去にも使われる。
ポーランド、スロバキア、チェコの国防相は大砲など装備の生産を拡大する意向を示した。
ウクライナ軍はMLRSの威力を最大限に発揮できるよう英国で使用方法の訓練を受けている。歩兵技術を含め英国で訓練を受けたウクライナ兵はすでに2300人を超え、これに加えて英国は今後数カ月間に最大1万人に歩兵技術を訓練する。米欧の有志国は来年以降もウクライナに必要なだけ支援を行う行動計画も策定する方針だ。 ウォレス氏は英メディアに「ロシア軍は多くの分野で失敗しており、ウクライナの占領に成功することはないだろう。
3日が150日を超え、6カ月近くが経過し、ロシア軍は装備と兵員に甚大な損害を被っている。
ウラジーミル・プーチン露大統領は8月に入り、数カ月経てば、欧米は紛争に疲れ、国際社会は別の方向に向かうと踏んでいたのだろう」と指摘した。
■戦局を完全に逆転させた切り札「HIMARS(ハイマース)」とMLRS
ウォレス氏は
「しかし今日、状況は全く逆であることが証明された。ウクライナの勝利のために、ウクライナの主権のために、(ウクライナを征服するという)プーチン氏の野望を確実に打ち砕くために、この会議でさらに多くの資金、訓練、軍事援助の誓約を得ることができた。継続的な支援は非常に明確なメッセージになる」と力を込めた。
マドリードでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(6月28~30日)で
ジョー・バイデン米大統領は
「50カ国以上がウクライナに
4万基近い対戦車システム、
600両以上の戦車、
500門近い大砲システム、
60万発以上の砲弾、
さらに最新のMLRS、
対艦システム、
防空システムを
供与する」と宣言した
クリミア半島やベラルーシの軍用空港も攻撃
精密誘導弾による空爆に匹敵する破壊力を持つM142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」(射程80キロメートル)計16両や目標地域上空を徘徊して目標に突入し自爆攻撃を行う「神風ドローン(無人航空機)」と呼ばれる徘徊型兵器フェニックス・ゴースト計700機などのドローンが米国から供与され、戦局を完全に逆転させた。 無限軌道のMLRSを6輪駆動に改造したハイマースはより素早く移動できる。バイデン氏はロシアとの核戦争を回避するためハイマースでロシア領土を攻撃しないことをウクライナに誓わせた。11月に米中間選挙を控えるバイデン氏はしかし「エスカレーション・リスク」を背負って、ウクライナ軍に圧倒的に不利な大砲を使った消耗戦を打開しようと決断した。 ノルウェーとドイツもMLRSを3両ずつウクライナに供与している。ハイマースやMLRSがウクライナに到着してから戦局は完全に逆転した。筆者が作成したタイムラインを見ると、それが手に取るようにご理解頂けると思う。 6月23日 ウクライナのオレクシー・レズニコウ国防相が「ハイマースが米国から到着」とツイート。同月25日から実戦配備。 6月29日 ウクライナ軍が黒海西部のズミイヌイ(蛇)島を奪還。ウクライナ軍は米国が供与した地上配備型対艦ミサイルシステム「ハープーン」でロシア軍の補給艦を攻撃。 7月15日 レズニコウ国防相が「初のMLRSが到着。戦場でハイマースの良き友になる。敵に慈悲は与えない」とツイート。提供国は明らかにせず。 7月19日 ウクライナ軍が南部ヘルソン州でドニプロ川のアントニフスキー橋を攻撃。ロシア軍は2月、この橋を通ってクリミア半島からヘルソン州に侵攻。ロシア軍の重要な補給路。 7月23日 ウクライナ軍がヘルソン州でドニプロ川の支流であるインフレット川のダリョフスキー橋を攻撃。 7月24日 ウクライナ軍がヘルソン州でカホフカ水力発電所ダムの橋を攻撃。 7月25日 レズニコウ国防相がウクライナ国営メディアに「ハイマースで50カ所のロシア軍の弾薬庫を破壊した。ロシア軍の兵站を遮断し、ウクライナ軍に激しい砲撃を加える能力を奪うものだ」と発言。ヘルソンにおけるウクライナ軍の反撃強まる
どの兵器でどう攻撃したかは「藪の中」だが
7月31日 ウクライナ本土から約170キロメートル離れたクリミア半島セバストポリ市にあるロシア黒海艦隊司令部が改造ドローンによって攻撃され、6人が負傷。ロシアの海軍記念日に予定されていた祭典が中止に追い込まれる。 8月9日 ロシアが占領するクリミア半島のサキ軍用空港で複数の爆発が起き、1人が死亡、14人が負傷。ロシア空軍の戦闘機9機以上を破損・破壊した。ロシア空軍がウクライナを空爆する出撃拠点だった。前線から最短でも200キロメートル以上離れており、ハイマースから地対地ミサイル「MGM-140 ATACMS(エイタクムス、射程300キロメートル)」が発射された可能性が取り沙汰される。 8月10日 ウクライナ軍がヘルソン州でドニプロ川のカホフカ橋を攻撃し、通行不能にする。 8月11日 ベラルーシの2つのテレグラムチャンネルが、ウクライナの国境から約30キロメートル離れたベラルーシ南東部ホメリのジャブラウカ軍用空港近くで夜、少なくとも8回の爆発音が聞こえ、閃光が見えたと伝える。この空港もウクライナ空爆の出撃基地だった。ベラルーシ国防省は10日午後11時ごろ、軍用車両のエンジンが炎上したとの声明を発表していた。 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、当局者が戦術について報道陣に話すのは「正直言って無責任」と箝口令を徹底する。 クリミアのサキ軍用空港攻撃の宣伝効果について、西側軍関係者は英紙フィナンシャル・タイムズに「グランドスラム(スポーツで主要大会の優勝を独占すること)とゴルフのホールインワンと終了間際の逆転ゴールを合わせたぐらい」と語っている。しかしウクライナ軍がどの兵器を使って、どのように攻撃したのか、真相は「藪の中」だ。 ゼレンスキー氏が箝口令を敷く前には、ウクライナ内務省の元顧問ビクトル・アンドルーシブ氏はテレグラムに「射程200~300キロメートルのミサイルはすでにわが国に配備され、使用されている。今日クリミアで起きた爆発はその証拠だ」と投稿。ウクライナ軍高官は米紙ニューヨーク・タイムズに「もっぱらウクライナ製の装置が使用された」とだけ述べた。 露海軍黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワ(約1万2500トン)を撃沈したウクライナ製の対艦巡航ミサイル(射程300キロメートル)を対地攻撃に使用したとする説には、海上と違って障害物が多い陸上で上手く使えるのかという疑問が残る。ウクライナが開発する短距離弾道ミサイル「Hrim2」(最大射程500キロメートル)は実績が不足している
「ミスしたように見える衝撃の痕跡がない」
黒海艦隊司令部と同じようにドローン攻撃が行われたのか。米紙ワシントン・ポストはウクライナ政府関係者の話としてウクライナのパルチザン(非正規軍の構成員)とともに活動するウクライナの特殊部隊が背後にいたと報じている。攻撃に「神風ドローン」が使われた可能性もある。 ユーチューブやツイッター、フェイスブック、テレグラムなど一般に公開されているSNS上の情報やデータを収集し、分析している民間調査機関「べリングキャット」の設立者エリオット・ヒギンズ氏は連続ツイートの中で謎解きに挑戦している。「ミスしたように見える衝撃の痕跡がない。彼らは非常に正確な武器を使用したか、非常に幸運だったかのどちらかだ」 「ロシアが1日でこれだけの航空資産を失ったことは最近の記憶にない。ロシアはウクライナが(ロシアのタマン半島とクリミア半島を結ぶ)クリミア大橋で同様の攻撃を行う能力を深く憂慮しているはずだ。空港にできたクレーターの幅を測ってみたが、20~25メートルはありそうだ。かなり大きな砲弾ということだろう」 データはウソをつかないが、当局がメディアにリークする情報には「意図」というバイアスがかかっている。ゼレンスキー氏が隠したがっているのはクリミアをはじめロシアの占領地域に潜伏しているウクライナのパルチザンや特殊部隊なのか。それともプーチン氏をできるだけ刺激したくないバイデン氏への配慮なのか。 ゼレンスキー氏は今年も、クリミア解放のための「クリミア・プラットフォーム」サミットを開催すべく準備を進めている。クリミアの黒海艦隊司令部やサキ軍用空港への攻撃にはロシア軍の攻撃能力を削ぐという軍事面だけでなく、ウクライナは領土で絶対に妥協しないというウクライナの固い意志を国際社会にアピールする政治面、外交面の狙いもある。 今月8日に米国防総省が発表した第18次軍事支援の中に、核戦争へのスカレーションを恐れるバイデン氏が頑なに否定してきた最大射程300キロメートルの「エイタクムス」が含まれており、ウクライナに密かに持ち込まれていたのだろうか。もし、そうならゼレンスキー氏が箝口令を敷いたのも合点がいくというものだ
クリミア軍用空港「攻撃成功」の真相──これで「戦局」は完全に逆転した(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース