「統一教会」日米での政治工作の歴史...背景には韓国「情報機関」による庇護も

ニューズウィーク日本版

<安倍元首相の銃撃事件でにわかに注目が高まる旧統一教会だが、この宗教団体によるスパイ・影響工作を使った政治的な動きには長い歴史がある>【山田敏弘(国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員)】

統一教会の創立者である文鮮明の追悼式典(2013年8月) Lee Jae-Won-REUTERS

 

 

 

安倍晋三元首相が奈良県で遊説中に銃撃されたというニュースが日本を震撼させたとき、誰がこんな展開を予想していただろうか。

 

 

 

  【動画】アメリカで「韓国政治」のための活動も...統一教会の日米での活動を「解説動画」で見る 

 

 

今回の暗殺事件の背景には、宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の存在があった。 逮捕された山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会の信者として多額の寄付をしてきたことが彼の人生を狂わせたとし、同団体と付き合いのあった安倍元首相を殺害することを決めたと供述している。

 

 

そしてそこから、旧統一教会と自民党、さらに、宗教と政治といった議論にまで発展している。とにかく、事件は思わぬ方向に転がっていると言えるだろう。 旧統一教会といえば、1980年~90年代に霊感商法で活動を活発化させており、日本では大きな社会問題になった。日本が好景気に沸いていた時代にも重なっており、日本で行った「霊感商法」で驚くようなカネを稼いだ。 そして旧統一教会の資金のほとんどを占めたそうした日本のカネは、創立者である文鮮明総裁が影響力を広げるために軸足を置いていたアメリカでの活動資金に使われた。

 

米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、1976年から2010年までの間に、資金として日本で集められてアメリカの旧統一教会に送金された額は、

 

実に36億ドル以上にもなるという。 

 

そんな統一教会だが、そもそも目的は金儲けだけではなかったようだ。それは、旧統一教会の過去を振り返ると見えてくる。スパイ・影響工作を使った政治的な動きなども見え隠れするのである。

 

 

 

 ■韓国中央情報部とも密接なかかわり もともと旧統一教会は、1954年に文鮮明氏によって韓国で設立された。韓国ではすぐに信者を増やし、その後は日本などでも布教を始めている。反共ということで韓国で逮捕歴もある文鮮明の率いる旧統一教会は、反共産主義の軍事独裁政権だった朴正煕政権の流れに乗り、1961年に設立されたスパイ機関であるKCIA(中央情報部)の初代局長である金鍾泌氏が信者の増加に貢献した。金鍾泌は後に首相にもなった人物だ。 1963年にまとめられたCIAの内部文書を読むと、そこにはこう書かれている。「金鍾泌はKCIAの長官として統一教会を組織化し、2万7000人の信者がいる同教会を政治的なツールとして使っていた」 こうした背景もあって、朴正煕政権のKCIAが背後にいて、旧統一教会と密につながっていた

 

 

■イベントではブッシュやトランプが講演

日本でも、反共産主義を推し進めることにアメリカ側と合意して、後ろ盾をもらっていた安倍元首相の祖父である岸信介元首相が、同じ流れで旧統一教会と関与するようになっていった。もちろん、その背後には、アジアの共産化を阻止したいアメリカとCIAの動きがあったのは間違いない。 ところが、文鮮明氏が1972年にアメリカに移住し、アメリカでの活動を活発化させるようになると、今度はアメリカ国内での影響力が広がることへの懸念が、米政界で強まるようになる。1977年には米下院の国際情勢委員会で、民主党議員を中心に報告書がまとめられ、KCIAが文鮮明氏と結託して進めた韓国の影響工作に米議会の100人以上が関与したと指摘している。この騒動は「コリア・ゲート」と呼ばれた。 旧統一教会は、その後も引き続き米政界に近づいた。例えば、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領は多額の講演料で旧統一教会のイベントに多数登場して、密接さを見せつけていた。ブッシュの1回の講演料は8万ドル以上だった可能性があると米ワシントン・ポスト紙は指摘している。 2021年5月には、旧統一教会の関連イベントに、アメリカのマイク・ペンス前副大統領と、マイク・ポンペオ前国務長官、マーク・エスパー元国防長官が登場。潘基文・元国連事務総長も登場した。同年9月には、ドナルド・トランプ前大統領も別の旧統一教会系のイベントでスピーチしている。そもそも共和党は旧統一教会と繋がりを持っていた。

 

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