「ビズリーチ」のCMには営業に必要な「4つの要素」が詰まっている
CMが流れ始めた当初から「印象に残る!」「おもしろい」など、何かと話題になった「ビズリーチ」のCM。「ビズリーチ!」という決めフレーズもさることながら、実はあのCMには営業に必要な要素が詰め込まれている。そう語るのは、今「新しい営業の教科書」として話題の『NEW SALES ~新時代の営業に必要な7つの原則~』の著者・麻野耕司さん。 現代の営業は「顧客の課題をヒアリングして、その解決策を提供する」だけでは不十分で、顧客が理想とするストーリーを語ることが必要。そのストーリーをビズリーチのCMは30秒の中で実現していると、麻野さんは語る。今、あらゆる営業現場で求められる「ストーリー」とは何なのか。そして、ビズリーチのCMから私たちは何を学ぶべきなのか。そのあたりを麻野さんに詳しく聞いた。
(取材・構成/イイダテツヤ)
● ビズリーチのCMに盛り込まれた 新時代の営業に必須の要素とは ――『NEW SALES』のなかで「ビズリーチ」のCMには「ストーリー営業に必要な要素がすべて詰まっている」と書いてあって、すごくユニークでわかりやすいなと感じたんですが、実際のところどうなのでしょうか。 麻野耕司(以下、麻野):「ビズリーチ」のCMは本当にすごくよくできていますよ。じつは私も前職でテレビCMを作ったことがあるんです。モチベーションクラウドという事業を立ち上げていて、俳優の役所広司さんを登用したんです。ただ、いざCMを作ろうと思っても、最初はどうやって作ればいいのか全然わからないんです。「どうやったら自分たちのプロダクトの価値が伝わるのか」がわからなくて、とても苦労しました。 逆に言えば、あのとき30秒のCMを作ったことで、実は僕たちの営業スキルがすごく上がったんです。30秒で価値を伝えられるということは、それを伸ばして1時間でも価値を伝えられますし、30分でも、10分でも、1分でも伝えられる。 それまでは長々と商品の説明をしていたんですが、30秒CMを作る経験が私の営業力をものすごく高めてくれて、「これは絶対みんなやった方がいい」と思いましたね。 ――「ビズリーチ」のCMがなぜそれほど優れているのか、そこのところを解説してもらえますか。 麻野:そもそも「ストーリー営業」には「理想」「課題」「価値」「方法」の4つの要素があるんです。コンサルティングをするときに使う一般的なフレームワークです。「理想」あるいは「目指す姿」なんて言い方もされますが、それに対する現状があって、その差分が「課題」ですよね。 その課題を解決するために、商品やサービスによって実現しなければならない効果を認識するのが「価値」の部分です。その価値を生み出すために、最適な「方法」として顧客に「(自社の商品・サービスを)買う」を選択してもらう。 端的に言うと、これが「ストーリー営業」の流れです。このイメージを持って「ビズリーチ」のCMを見ていくと、見事に実現されていることがわかります。 ビズリーチのCMは、人を採用しようとしているある会社の社長が「どうせ、たいした候補はいないだろう」と言っているシーンから始まります。課題は見えているんだけど、どうすることもできない状態ですね。その後、すごい経歴の人材を目にして「すごい経歴だ。即戦力じゃないか。いったいどうしたんだ」と社長が言っているシーンになります。つまり、ここで理想の状態を目の当たりにするわけです。 すると社長は「一体、どうしたんだ?」と言って、女性社員が「ビズリーチ!」と決めのフレーズを言います。シンプルな作りですが、そこで終わるのではなく、ナレーションで「中途採用でも優秀な人材に出会えます」と価値を伝え、その方法として「即戦力採用ならビズリーチ」と伝えるわけです。 わずか30秒ですが、「課題」→「理想」→「価値」→「方法」のストーリーを顧客に思い描かせる内容になっています。 ――なるほど、言われてみるとめちゃくちゃ「うまいパッケージ」になっているわけですね。 麻野:本当にそうです。 ――ストーリー営業には「理想」「課題」「価値」「方法」の4つの要素が大切だと『NEW SALES』でも書かれているんですが、世の中の営業パーソンを見て、特に不足しているのはどの部分だと感じますか。 麻野:それはやっぱり「課題」だと思います。ここで勘違いしてほしくないのですが、ソリューション営業でよく「御社の課題はなんですか?」って尋ねる方法がありますよね。これって、ドクターが患者に向かって「あなたの病気は何ですか?」って聞いているのと同じなんです。 従来のソリューション営業と『NEW SALES』で語っているストーリー営業の大きな違いはここにあって、最初に「御社の課題は何ですか?」と尋ねるのではなく、「相手はこんなふうになったらいいだろうな」という理想(の仮説)があって、その理想を提示した上で、「あなたの課題って、ここですよね」と提案していく。これがストーリー営業の本質だと思っています。 そういう意味での「課題」の部分が欠けている人は多いような気がしますし、営業担当の成果や収入の格差にもつながっていると感じます
● 「理想」を提示するところから 「ストーリー」が始まる ――相手にとっての「理想の姿」の仮説を立てて、そこに至るための課題を提案するのは素晴らしいと思うのですが、「理想」という部分に関して、しっかりヒアリングするのではなく、こちらで仮説を立てていくのは、相当難しくないですか。 麻野:もちろん簡単ではありません。だからこそ、ここで大事になってくるのが「顧客事例」です。わかりやすいのが「ライザップ」のテレビCMです。ライザップでは、太った人が痩せた姿になっていく「ビフォー・アフター」を見せますよね。 つまり「あなたたちも、こんなふうになりたいですよね」と顧客事例を使って理想を提案しているんです。 これがもし「ヒアリングをしっかりしないと、それぞれの人が望んでいる理想の体型なんてわかりません」ってことだったら、あんなCMにはならないわけです。つまり、ライザップは「あなた、こんなふうになりたいですよね」という理想の仮説を思い切ってぶつけてきているんです。 それがもし「共感を得られる顧客事例」に基づいた「理想の仮説」だとしたら、相手は「そうだ、そんなふうに私もなりたい」(理想)と思うでしょうし、「そのために、こんな課題がありますよね」(課題)という提案にも乗ってきます。そこからストーリーが始まるわけです。 ストーリー営業において、それぞれの顧客に合わせた「顧客が共感しそうな事例」をいかに引っ張り出せるか。ここがすごく差がつくところなんです。 ――「顧客が共感しそうな事例」を引っ張り出せるようになるためには、まず何から始めればいいですか。 麻野:最初にぜひやってほしいのは「1枚シート」を作ることです。自分の商品やサービスを買ってくれたお客様に「どんな課題があったのか」「商品を買ってくれた理由」「実施した内容」「どんな効果があったのか」を聞いて、それをまとめておくんです。 たとえば、生命保険を買ってくれたお客様だったら「もともとどんな課題があったのか」「保険に入る前は、どんなことに不安を感じていたのか」「どうして、当社の保険に加入してくださったのか」「実際に、どんな保険を選んだのか」「今、どんなことがよかったのか」を聞いてみるんです。すると、一つの顧客事例ができあがりますよね。 そうなると、また別の「保険をどうしようかな」と思っているお客様に対して「私の担当しているお客様が、あなたと同じ20代の独身女性なんですが、もともとこんなところに不安を感じていらっしゃったんです。それで、こんな理由で、こんな保険を選んでくださって、今は、こんなふうに喜んでくださっているんです」と話せば、「ああ、私もそこに不安を感じている」「そんなふうに安心したい」と感じてもらえるかもしれません。 そういった「顧客事例」をいかに自分で持っておけるか。さらには、それぞれの顧客に対して魅力的な事例を示すことができるのか。これがものすごく大事なんです。 【大好評連載】 第1回 なぜ今、これまでの営業スタイルが通用しないのか? 新時代の営業「ストーリー営業」が必要なワケ ■著者紹介 麻野耕司(あさの・こうじ) 株式会社ナレッジワークCEO 1979年兵庫県生まれ。2003年慶應義塾大学法学卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティングの執行役員に最年少(当時)で着任。気鋭のコンサルタントとして、成長企業の組織変革を手掛ける。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ、多数の大手企業に導入。国内HRTechの牽引役となる。2018年同社取締役に就任。2020年、「できる喜びが巡る日々を届ける」をミッションに、株式会社ナレッジワークを創業。2022年、「みんなが売れる営業になる」を実現するセールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。営業ナレッジの展開や営業ラーニングの提供を通じた営業生産性の向上や営業力強化を支援する。主な著書は『THE TEAM』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)。
ダイヤモンド社書籍編集
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