ついにロシア国営TVが「わが軍は苦戦」、プロパガンダ信じた国民が受けた衝撃

ニューズウィーク日本版

<愛国心むき出しに戦果を強調してきた国営テレビで、「ロシア軍の状況は悪化する」との見通しを述べたことに視聴者やネット民から驚きの声>

@francis_scarr/Twitter

 

 

 

これまでプーチン政権を擁護し続け、プロパガンダ的な情報を流してきたロシア国営テレビ「ロシア1」。そんなテレビ局の番組で、軍事アナリストがロシアによるウクライナ侵攻を厳しく批判する一幕があった。同局などによるプロパガンダを信じ、ロシア軍の強さと正しさを疑わなかったロシア語圏の視聴者たちからは、驚きの声が上がっている。

 

 

  【動画】司会者は渋い顔…ロシア軍の苦戦を率直に語り、視聴者を動揺させた軍事専門家

 

 

ソーシャルメディア上で話題になっているのは、軍事アナリストのミハイル・キョーダリョノクによる発言だ。「ロシア1」は通常、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻について愛国的なトーンで報道を行っているが、キョーダリョノクは同チャンネルの番組「60ミニッツ」の中で、ロシア軍の部隊がウクライナで直面している状況について、「愛国的」とは程遠い、厳しい指摘を行った。 防空司令官から軍事評論家に転身し、2020年には「祖国貢献勲章」を受賞したキョーダリョノクは、「事実上、全世界が我々に反対している」と、ロシアが国際社会で孤立していると主張。さらに、ロシア軍は士気の高いウクライナ軍を相手に、厳しい戦いに直面することになるだろうと述べた。 キョーダリョノクは、ウクライナ軍の士気が低下しつつあるという「誤った」報道を信じてはならないと主張。ウクライナ政府は、100万人を動員して、西側諸国から供与を受けた武器で武装させることができると述べ、ロシア軍にとっての状況は「率直に言って悪化するだろう」と指摘した。

 

 

 ■司会者のプロパガンダ的主張を一蹴 番組司会者のオリガ・スカベエワ――ロシア政府の「最高プロパガンダ責任者」と呼ばれている人物――がこの指摘を受けて、「ウクライナ軍の部隊はプロではなく、さほど大きな脅威ではない」と反論したものの、キョーダリョノクはその主張を一蹴。ウクライナ軍が徴兵によって集められた兵士の集まりかどうかは大した問題ではないと述べ、重要なのは彼らが「最後の一人になるまで戦う」意思を持っていることだと述べた。 また彼は、フィンランドがNATOへの加盟申請を決定したことを受けて、ロシア政府が核の「脅しをちらつかせている」ことについても批判した。 ロシアの科学者で政治アナリストのアンドレイ・ピオントコフスキーは、キョーダリョノクの発言を受けて次のようにツイートした。「キョーダリョノクが、ロシア軍からの最初の降伏文書を運んできた

 

 

 

 

「あの部屋の中で彼が最もまともだった」

キョーダリョノクとスカベエワのやり取りの動画は、ロシアのソーシャルメディアサイト「フコンタクテ」上で拡散され、5月17日朝の時点で380万回以上視聴されている。 戦争反対を掲げるユーザー「History of the War」は、「ロシア国営テレビのトーク番組で、ウクライナについて驚くべき意見のやり取りが行われた」とコメントし、さらにこう続けた。「ロシアにとって唯一の脅威は、オリガ・スカベエワのような妄想にとらわれた人物だ」 オルガ・レベデワは「ミハイル・キョーダリョノク大佐はおそらく、この『変人集団』の中で最も分別のある専門家の一人なのだろう」とコメントし、こうつけ加えた。「彼がもう(番組に)呼ばれないのではないかと心配だ」 ナターシャ・ティモフェーバは、「この発言を軸に、ロシアの状況を変えることができる政治勢力が形成される可能性がある」と書き込み、別のあるユーザーは、国営テレビで「常識のある意見」が放送されたと書き込んだ。また別のユーザーは、「国営テレビで、現在起きていることについての客観的な見解が放送された」とコメントし、「近代では滅多にない」ことだったと述べた。 ロシアの国営テレビで、ウクライナでの戦闘について今回のような否定的な意見が放送されたことに、ツイッター上でも多くのユーザーが反応した。ロシア国営テレビはこれまで、ウクライナでの軍事作戦の成功を大々的に吹聴し、西側諸国に対して脅しをかけてきたからだ。 コラムニストのノア・スミスは、「勇気ある発言だった。現実が広まりつつあるのは嬉しい」とツイートした。この書き込みをさらに、ウッドロー・ウィルソン国際研究センターの研究員であるカミル・ガレエフがリツイートした。 ガレエフは「あの部屋にいた全ての人の中で、彼が最もまともだった。それはおそらく、軍での十分な経験を持っている唯一の人物だったからだろう」と書き込み、さらにこう続けた。「ロシアの多くの有識者は、政府のプロパガンダを基にロシア軍の能力を評価した。キョーダリョノクは、自らの実体験に基づいて評価した。ウクライナでの戦闘について、彼がほかの面々よりもずっと悲観的な意見を述べたのも当然だろう

 

 

 

 

だがプーチン体制に害を及ぼすものではない

キョーダリョノクがウクライナでの戦闘について批判的な意見を述べたのは、今回が初めてではない。ロシアがウクライナに侵攻する3週間前、彼はネザビシマヤ・ガゼタ紙への寄稿の中で、ロシア軍がウクライナ軍を迅速に打ち負かすことができる可能性を否定し、「今、ウクライナとの武装紛争を起こすことは、ロシアのためにはならない」と書いていた。 また彼は5月に入って「ロシア1」に出演した際に、ロシア国民を総動員しても、大した戦果は挙げられないと述べ、その理由として、ロシアが保有する時代遅れの兵器では、NATOが(ウクライナに)供与した兵器には太刀打ちできないからだと指摘していた。 ロシアメディア・ウォッチャーのジュリア・デイビスは、キョーダリョノクの今回の発言を受けて、次のようにツイートした。「(政府に)異論を唱えることが許されないロシアのテレビに、なぜキョーダリョノクが出演を許され続けているのか。多くの人が疑問に思っているが、その理由は、彼の言葉がプーチン体制に害を及ぼすものではないから。ほかの有識者たちが迅速で簡単な勝利を約束するなか、彼の意見は国民の期待値を引き下げるのに役立つからだ」

ブレンダン・コール

 

 

ついにロシア国営TVが「わが軍は苦戦」、プロパガンダ信じた国民が受けた衝撃(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

 

 

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恥ずべきほど成果がない」 ロシア国営メディアが異例の軍部批判を流しはじめた

ニューズウィーク日本版

──貧弱な装備に、頼りない補給網、そして終わりのみえない「特別軍事作戦」……。これまで積極的にプロパガンダを流していたロシアのTVで、戦況に対する不満が噴出している

ロシア国営メディアが軍部を公然と批判しはじめた......

 

 

 

ロシア国営チャンネルやプロパガンダを積極的に伝えていた特派員などから、従来であれば考えられなかったようなロシア軍への批判が聴かれるようになった。

 

 

 

 

  ●動画:ロシア国営TVトークショーで、軍部を公然と批判 

 

 

 

国営TV局『ロシア1』のトークショーでは、番組司会者のウラジミール・ソロヴィヨフ氏が兵站への不満をぶちまけた。「けれど、我々の兵に何かを届けるのは事実上不可能では。この不満は100回も述べてきた。」 氏は補給網に問題があると指摘し、前線の兵士に物資を届けるまでに長時間を要していると指摘している。 ウクライナ戦線で重要な役割を占めるドローンについても、生産数の少なさと輸送網の貧弱さが足かせになっていると氏は嘆く。「ドンバス地方に何かを持ち込みたいなら、(西部)リヴィウのウクライナ税関を通す方がまだ早い」との皮肉だ。 ソロヴィヨフ氏はこれまでプーチン政権のプロパガンダを積極的に担っており、国家批判の発言は異例だ。デイリー・メール紙は「プーチンの最も有名な操り人形のひとつ」であるソロヴィヨフ氏が軍部を「公然と批判しはじめた」と報じた。 同紙は続ける。「ウクライナ政府転覆をねらう『特別軍事作戦』に数日間を見込んでいたところ、突入から2ヶ月以上が経つ。プーチンの太鼓持ちたちでさえ、進展のなさに言い訳が尽きたようだ。」 ここ数日でウクライナは猛烈な反撃をみせており、5月9日にはハルキウ北部の2つの都市を配下に取り戻した。少なくともこの地方においては、ロシアとの国境から約16キロの地点まで押し返したことになる。ロシア軍としては、ウクライナ深部に取り残された部隊への補給線の寸断の可能性も現実味を帯びてきた。

 

 

 

 

 

 

 ■ 「ロシア軍総動員でも効果薄い」 元大佐が見解 軍への怒りを爆発させるのは、ソロヴィヨフ氏だけではない。番組内にゲスト出演したロシア国家院(下院)のセミョーン・バグダサロフ議員は、司会を務めるソロヴィヨフ氏の主張に大いに同調し、貧弱な物資補給に怒りを示した。「国(ロシア)は、戦時中のアプローチに移行する必要がある。馬鹿げた行動はもう十分だ。」 番組出演者らはさらに、兵士たちが「去年の装備(もはや旧式となった装備)」で戦地に送り出されているとも述べ、近代化が遅れるロシア軍の状況を憂慮している。 英メトロ紙は、NATOの支援を受けるウクライナ側が対戦車ミサイルやドローンなどで成果を挙げている点と対比しながら、ロシア側の兵器の古さを指摘している。 ロシア有利と思われた兵力差に関しても、もはや顕著な利点にはならないとの主張が出てきた。元ロシア軍大佐のミハイル・キョーダリョノク氏は国営TVへの出演を通じ、ロシア軍には物資も兵力も不足していることから、兵を総動員しても戦況が大きく好転することはないだろうとの予測を語った。「我々には、(前線への投入に備える)予備隊がないのだ」と氏は述べている。 これまでプロパガンダを積極的に展開してきた戦争特派員のアレクサンドル・スラドコフ氏も、ロシア軍の糾弾に転じた。ウクライナ軍を「卑劣」と批判しながらも、ロシア側も「(敵勢の人数と)1対1の割合」で村の強襲に臨んでいる、と苛立ちを募らせる。数の優位をまったく生かせていないため、「ウクライナ軍を押し返すことはできない」と断言している。 この特派員はまた、日々押し寄せるウクライナ軍に対してロシア軍がかろうじて対処しているのみであり、「ルーティーンであるべき事柄をさも手柄のように語っている」とも述べる。ロシア軍の指揮官たちは「恥ずべきほど成果を出していない」と痛烈に批判した。

 

 

 

 

 

 ■ 軍の需要に耐えられないロシア経済 戦地での局所的な問題だけでなく、ロシアには国家として長期化する戦線を支えるだけの経済力が残っていないのではないかとの指摘も国内から出はじめている。軍事評論家のコンスタンティン・シヴコフ氏はTV出演を通じ、「我々の現行の市場経済は、我々の軍の需要に耐えることができない」との分析を示した。 豪ニュースメディアの『news.com.au』はこうした一連の批判劇を動画で取り上げ、「ウラジミール・プーチンのくぐつメディアがついにプーチンに背を向けた」と報じる。「プーチンのプロパガンダ機関らが、ロシア軍の状況をおおっぴらに批判しはじめた」とし、軍部への不満が表面化していると指摘している。 動画視聴者からは、ロシア軍に対する皮肉が相次いだ。ある視聴者は「『去年の装備』をもたされ、去年の戦争に、去年の思考と信念をもった指導者によって送り出される。あなた方の華麗な失敗に祝福を。ウクライナに栄光あれ」とのコメントを残した。 侵攻の泥沼化で出口を見失うロシアに、国内外から批判が集中している

 

 

「恥ずべきほど成果がない」 ロシア国営メディアが異例の軍部批判を流しはじめた(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース