ロシア人僧侶心痛の日々 母国の侵攻「ただ悲しく、苦しい」
平和への願いを込め、お経を唱えるヴォルコゴノフ慈真さん=大阪市平野区
ロシアによるウクライナ侵攻で日を追うごとに両国の犠牲者が増え続ける中、厳しい現実に胸を痛めるロシア人僧侶が大阪の古刹(こさつ)にいる。平和への祈りと戦争を継続する母国への複雑な思いが交錯し、「ただ悲しく、苦しい」。戦況は先行きが見えない。遠く離れた日本から何ができるか、自らを問い直す日々が続く。(清水更沙)
ロシアにとってのナチス・ドイツ戦勝記念日にあたる9日、大阪市平野区の如願寺(にょがんじ)の堂内に、ヴォルコゴノフ・慈真(じしん)さん(32)のお経が響いた。静かに手を合わせながら「亡くなった人の魂を弔い、平和に生きていけるよう気持ちを込めています」。穏やかな表情の中に、力強い言葉があった。
ロシア極東のウラジオストク出身。
13歳のときに合気道に出合い、日本に興味を持った。
地元大学では真言宗の開祖、空海を研究した。
平成27(2015)年には、ツアーガイドとしてウラジオストクを訪れた日本人の奈央子さん(38)と結婚。奈央子さんの父、山本雅昭(がしょう)さん(77)は如願寺の住職で、
こうした縁から僧侶としての道を歩み始めた。
慈真さんは子供のころ、第二次大戦の対独戦の生き証人となる元兵士から戦争の話を聞いた。語られたのは戦果を挙げた喜びではなく、多くの犠牲者を生み出した戦争のむごたらしさ。「『戦争は悲劇だ』と話していたことを覚えている」。
この体験が平和への思いを強くする原点だった。 そんなとき、ロシアが隣国のウクライナに攻め込んだ。
「ロシアとウクライナの関係は良いと思っていたし、ウクライナにも親しみを持っていた。ショックだった」と慈真さん。連日の報道に心を痛めるとともに、人々の「分断」も気がかりだ。 幼なじみの女性はウクライナ人男性と結婚し、首都キーウ近郊の都市で暮らしていた。女性は侵攻開始後、ロシアに住む母親に連絡したが、返ってきた言葉は「戦争は起こらない。心配する必要はない」。ロシアの友人からも攻撃を正当化する発言があり、ショックを受けたという。次第に母国の関係者と距離を置くようになり、ドイツで避難生活を続ける女性。
今後、ウクライナ国籍の取得も検討しているという。
慈真さんは「人々が分断され、絆が断ち切られるのは本当に悲しい」とやるせない思いを口にする。
経済制裁が続く母国に残る家族も気がかりだ。
今夏大学を卒業する弟(21)は、順当にいけば徴兵となる。
「戦況によっては危険な場所へ配置される可能性もある。本当に心配だ」と表情を曇らせる。 大切にしている日本の教えがある。「初心忘るべからず」。自分を見つめ直し、謙虚な気持ちを忘れない姿勢が今、求められていると痛感する。
「世界中の一人一人が自分を見つめ直すことで、相手への思いやりの気持ちが増し、小さい衝突がなくなる」。こうした思いが集まって実を結べば、悲しい戦争も必ず終わると信じている
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