ハイレゾロスレス配信時代に活躍する一台

“Mojoを超えるMojo”誕生。音質/機能とも格段グレードアップしたCHORD最新ポタアン「Mojo 2」を試す

 

山本 敦

“Mojoを超えるMojo”誕生。音質/機能とも格段グレードアップしたCHORD最新ポタアン「Mojo 2」を試す (1/3) - PHILE WEB

 

 

 

英Chord Electronicsから、約6年半ぶりにハイレゾ対応のポータブルヘッドホンアンプ「Mojo 2」が発売された。


Chord Electronics「Mojo 2」 価格:79,980円(税込)


2015年にCHORDが発売した先代の「Mojo」は、ブランドの創立者であるCEOジョン・フランクス氏が築いたアナログオーディオの技術と、アルゴリズム開発のエンジニアであるロバート・ワッツ氏の手によるカスタムメイドのオリジナルDACエンジンを搭載する高音質ポータブルヘッドホンアンプとして話題を呼んだ。

Mojoを完成させるうえで、両氏は「CHORDのサウンドを手軽に楽しめる価格」「コンパクトサイズ」「シンプルな使い心地」を3つの要点として追求した。そのコンセプトは新製品のMojo 2にも受け継がれている。それでは、Mojo 2は従来からどう変わったのか? 本記事では進化した最新機の性能と、その魅力に迫ってみよう。

独自FPGAが進化。高精度アルゴリズムによって旗艦モデルに迫る性能を実現!

CHORDのDAコンバーターを搭載する製品はすべて、市販のDACチップを使わずに、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)と呼ばれる、カスタムメイドのアルゴリズムが組み込めるチップセットを採用する。

ワッツ氏が、その演算処理能力の高さと開発の利便性から選択するザイリンクス(Xilinx)のFPGAチップをベースに、Mojo 2ではさらに高精度なアルゴリズムを載せることに挑んだ。結果、Mojo 2には計40基のDSPコアプロセッサーを使う40,960タップの最新版WTAフィルターが搭載されている。

デジタルフィルターの基本要素である “タップ” とは、その数が多いほどDA変換の処理精度が上がり、ジッターとノイズフロアのレベルを極限までピュアな原音に近い波形が再現できるようになる。比べると同社フラグシップモデルのポータブルヘッドホンアンプ「Hugo 2」が搭載するFPGA DACの精度は49,152タップであり、Mojo 2はそれに迫る性能を有している。

Mojo 2にはヘッドホン出力端子として3.5mmステレオミニ端子を2基搭載している。パラレル音声出力によるペアリスニングは可能だが、バランス出力には対応しない。


初代に引き続き、3.5mmステレオミニ端子を2基搭載する


筆者は以前、フランクス氏に同社のポータブルヘッドホンアンプがバランス接続機能を持たない理由を聞いた。フランクス氏は当時発売されて間もない初代Mojoを引き合いに出して、「シングルエンドで繋いでも十分にノイズフロアが低く、ハイパワーが得られるアンプなのでバランス対応は不要。回路が増えると本体のサイズも大きくなるため」だと理由を明快に答えてくれた。

Mojo 2は初代モデルと同じく、USB経由のデジタルデータ入力に対してPCM 768KHz/32bit、DSD 256のネイティブ再生に対応する。デジタル入力端子は従来の光/同軸デジタルとmicro-USBに加えて、新たにUSB-Cを搭載する。これにより、新しいMacBookシリーズやiPad Proと直接つなぐことが可能で、より手軽にハイレゾ再生を楽しむことができる。


新たにUSB-C端子を備えたことで、新しいMacBookシリーズやiPad Proと繋いで手軽にハイレゾ再生を楽しめる


Mojo 2が初代モデルから進化を遂げたポイントは、数え上げると枚挙に暇がない。本稿では主な3点について触れておきたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは先述したようにパフォーマンスが大幅に向上したDACエンジンに関わるところで、ソースの音質を劣化させることなく適切な効果がかけられるロスレス・トーン・コントロール(=イコライゼーション)機能が付いた。CHORDはこれを「UHD DSP」と名付けている。


新開発のロスレスDSPを搭載


PCにDAP、スマホやタブレットのようなモバイル端末など様々なソースコンポーネントにMojo 2をつなぎ、出力側にも幅広いタイプのヘッドホン・イヤホンを組み合わせることを想定して、「ベストなリスニング環境」をユーザー自身がパーソナライズできる機能だ。


あらゆる環境でベストなリスニングを実現することを目指した


この機能の新設に伴い、本体に搭載する球体のボタンインターフェースの数が1つ増えて4基になった。様々な色に光る球体ボタンは、そのサイズこそ初代モデルよりも少し小さくなっているものの、押し込んだときにカチっと小気味よい手応えを返す操作性は変わっていない。

ボタンの数が増えたこと以外、コーナーに柔らかな曲線をつけたアルミニウム筐体による本体のデザインとサイズは、初代モデルとほぼ同じだ。天板のモデルネームのプリントは少しトーンを落とした穏やかなホワイトになった。


特徴的なボタンは4つに増加。押した時のクリック感がきちんと感じられる操作性は、初代から継承されている


そして3点目に挙げる進化点は、FPGAベースの新しいバッテリー充電システムが採用されたこと。充電速度が向上し、電力損失を75%削減している。バッテリーの容量も9%とわずかながら増えて、内蔵バッテリーによる約8時間の安定駆動を実現する。

上位モデルのHugo 2にも搭載する「インテリジェントデスクトップモード」により、満充電後のバッテリーセルに過充電による負担がかかることを回避するため、同モードが自動で立ち上がり、充電を調整する。Mojo 2を電源に接続したまま長時間リスニングに使用する場面で効果的だ。

Mojo 2を充電するためのmicro-USB端子は、データ入力用のmicro-USB/USB-C端子とは別に設けられている。そのため、初代のMojoにワイヤレスストリーミング機能を付与するオプションモジュールとして発売された「Poly」が、Mojo 2にもそのまま使えるのだ。なお、micro-USBとUSB-Cは排他仕様となり、同時に別々のソース機器からMojo 2にデータを送り込むことはできない。

“Mojoを超えるMojo” が誕生。より一段とリアルに、パワフルに音楽を鳴らす

Mojo 2のサウンドを初代のMojoと比べながら聴いた。はじめにMacBook AirとAudirvanaをソース機器として、FitEarのイヤモニ「TG334」を組み合わせてハイレゾの楽曲を試聴した。


Mojo 2のサウンドを初代のMojoと比較試聴


YOASOBIの「夜に駆ける」ではボーカルの透明感がさらに際立った。初代モデルに比べると、Mojo 2は声の輪郭が格段にきめ細かくなって、声の繊細なニュアンスの変化を的確に捉え、ボーカリストの淡い声のトーンが一段とリアルに蘇ってくる。

ドラムやベースのリズムからは、より充実したバイタリティが伝わってくる。一粒ずつ音の鮮度が高く、Mojo 2ではベースの音色がより華やかになった印象を受ける。言うまでもなく、ギターやシンセサイザーのメロディもまた活き活きとしていて、バンドの演奏がとても力強くグルーヴする。音楽が立体的に浮かび上がるような臨場感に思い切り身を任せながら、楽しくMojo 2のサウンドを聴くことができた。

山中千尋のアルバム『ローザ』から「ドナ・リー」を続けて試聴した。ピアノにギター、ベース、ドラムスという比較的シンプルな構成によるアップテンポなジャズなのだが、演奏がとても活き活きとしていて、熱量を側に感じられる。

エレキギターやピアノの非常に濃厚な余韻に優しく包み込まれる。こちらもまた、リズムセクションの爽やかな疾走感がとても心地よかった。初代モデルのMojoよりも、さらに空気の見晴らしが格段に良くなっている。「Mojoを超えるMojo」が誕生したことにただ驚くばかりだ

 

 

 

 

続いて第6世代のiPad miniにMojo 2を接続して、Apple Musicのハイレゾロスレス楽曲を聴いた。インピーダンスが600Ωのプレミアムヘッドホン、ベイヤーダイナミック「T1 2nd」が気持ちよく鳴らせるか試す機会としたが、Mojo 2はいとも軽やかにT1の実力を引き出してみせた。

上原ひろみのアルバム『Silver Lining Suite』から「フォーティチュード」を聴くと、ピアノや弦楽器の艶っぽさがあふれんばかりに漂う。特にピアノのエネルギー、弦楽器のハーモニーによる倍音成分の広がりをふくよかに、かつ丁寧に描ききる。描かれる音場の情景も実に雄大だ。生の演奏に触れているような緊張感が味わえる。

ふたたび環境をMacBookに戻して、Mojo 2の新機能であるUHD DSPによる多彩なイコライゼーションの効果を検証した。Mojo 2を正面に見て、左端のメニューボタンをダブルクリックすると、ランプの点灯が赤色に切り替わり、イコライゼーションモードが起動したことを知らせる。


イコライゼーションはどんな試聴環境でも効果抜群!ぜひ活用したい機能だ


これまでに試聴した「フラット」のモード以外に、ローベース(メニューボタン赤色)/ミッドベース(黄色)/ロートレブル(緑色)/ハイトレブル(青色)の音域を分けたイコライゼーションモードが、それぞれに1dB単位プラスマイナス9段階でブースト/カットを細かく調整できる。

イコライゼーションモードに入ってからメニューボタンを続けてクリックすると、4種類のモードが切り替わり、音楽を再生しながらボリュームのアップダウンボタンでブースト/カットを細かく追い込む。

音質の劣化を伴わずに、音楽のトーンをリスニング環境に合わせて自由に「遊べる」機能がとても面白い。パーソナライゼーションの効果は明らかなものなので、ポータブルヘッドホンアンプのエントリーユーザーも楽しみやすいと思う。ぜひ積極的に活用することをおすすめしたい。

最後にPolyを組み合わせて、iPhoneとの連携によるストリーミング再生も確認してみた。PolyのセットアップはiOS/Androidに対応するCHORDのモバイルアプリ「Gofigure」を使うと簡単にできる。PHILE WEBにはPolyの機能や使い方に関するレポートも掲載されているので、合わせて参照してほしい。


Polyと連携すればストリーミング再生も簡単


Mojo 2も初代モデルと同じ手順でPolyに接続ができる。過去にCHORDのフランクスCEOは、Mojoをできる限りコンパクトでシンプルに使えるデバイスとするためにネットワーク再生機能の一切を省いたと述べていた。

Mojo 2もやはり単体で使う場合はパソコンやモバイル機器とのワイヤード接続が基本となるが、Polyを組み合わせることにより、有線のヘッドホン・イヤホンをつなぐだけでMojo 2をポータブルミュージックプレーヤーのように楽しめるところもまた大きな魅力だ。

iPhoneやMacのミュージックアプリからWi-Fiネットワークを介して楽しむAirPlay再生でもまた、Mojo 2と良質なヘッドホン・イヤホンによる再生環境のステップアップを工夫できる面白さが味わえる。そしてNetflixやYouTubeのコンテンツもまた、Mojo 2を組み合わせることで目が覚めるほど高音質になる。Polyは色んな用途に “使える” アイテムだ。
 



新しいMojo 2は6年半の時を経て、音質と機能が共に大きなアップグレードを果たしていた。初代のMojoを愛用するユーザーも買い足す価値があるアイテムだと思う。

このようにコンパクトで手軽に使えるポータブルヘッドホンアンプが、Amazon Music UnlimitedやApple Musicからハイレゾロスレス品質の音楽配信が提供されている今の時代に発売されることを、大いに歓迎したい。スマホにタブレット、モバイルPCを含む組み合わせで、手軽にハイレゾ再生が楽しめる、 “ちょっと贅沢なオーディオデバイス” としてMojo 2をすべての音楽ファンに推薦したい。

(協力:アユート