衝撃事件の核心

挫折の東大前刺傷少年も 「上京型」襲撃の連鎖

刺傷事件があった東京大学前で警備にあたる警察官=16日午前、東京都文京区(桐山弘太撮影)

刺傷事件があった東京大学前で警備にあたる警察官=16日午前、東京都文京区(桐山弘太撮影)

大学入学共通テスト初日に試験会場の東京大学(東京都文京区)の前で、受験生ら3人が包丁で刺された事件は22日で発生から1週間となった。殺人未遂容疑で逮捕された名古屋市の私立高2年の少年(17)は医師を志し東大を目指していたが、成績不振に悩み、警視庁の調べに「人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと思った」と供述した。人を助ける医師を目指していたはずの少年。なぜ、犯行場所を東大前に選び、人を傷つける道を選んでしまったのか。

勉強への執着

《「勉強」というものが一番長く経験したものでもあり、自分をときに苦(し)めたものであり、助けてくれたものでもありました》

「勉強」というタイトルで中学の卒業文集にそうつづっていた少年。中学から成績や順位への思いがより強くなったことがうかがえる。結びには《中学校で学んだ勉強の重要さ、苦しさ、楽しさを忘れず「勉強」をやり続けていきます》と記していた。

関係者によると、少年は多くの生徒が東大を含む国公立大医学部などに合格する愛知県内屈指の名門進学校に進んだ。少年を知る同校の生徒は「非常にまじめで、成績上位だった」とするが、決して順風満帆ではなかったようだ。

捜査関係者によると、少年は逮捕後の調べで、「医者になるため東大を目指していたが、1年くらい前から成績が上がらず自信をなくした」と供述。さらに、「(学校での)面談で『東大は無理』という話になって心が折れた」などとも説明している。

無差別に狙ったか

少年は1月14日夜に名古屋から高速バスに乗り、15日朝に東京に着いた。事件直前には東京メトロ南北線車内、東大前駅構内でも着火剤に火をつけるなどして放火を試みたが、いずれも失敗した。

東大前駅を出てすぐに72歳の男性を後ろから刺し、受験生の高校生の男女2人を次々と襲った。男子生徒は入院したが、すでに退院。重傷となった男性は回復に向かっているという。

逮捕当時、少年は包丁など刃物計3本のほかに、約4リットルもの可燃性液体を事前に用意。無差別かつ大勢の人間を襲撃しようと計画していた可能性がある。

携帯電話は持っておらず、捜査関係者によると、少年は携帯電話を捨てたといい、「携帯の電源は切った」という趣旨の供述をしているという。

少年からは、東大への強いこだわりが伺えるものの、なぜ東京を訪れたのか詳しい状況はまだ分かっていない。警視庁は引き続き少年の詳しい足取りや動機の解明を進める。

相次ぐ「上京型」襲撃

こうした地方から上京して無差別に人を襲う事件は過去にも起きている。

平成20年に東京・秋葉原で発生した無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚(39)は当時、静岡県裾野市に居住し、事件を起こすために上京していた。

昨年10月、調布市の京王線特急内で刺傷事件を起こした服部恭太容疑者(25)も地元は福岡市だった。

共通点は鬱憤を社会にぶつけ、自らを誇示するような行為だ。加藤死刑囚は事件前、携帯サイトの掲示板に犯行を予告する書き込みをし、逮捕後の調べに対して「ネットの人間に存在を気づかせたくて大きな事件を起こそうと思った」と供述。服部容疑者も米人気コミック「バットマン」シリーズの悪役「ジョーカー」にふんし、「憧れていた」と供述していた。

「上京型」の無差別襲撃事件について、日本大危機管理学部の福田充教授は、会員制交流サイト(SNS)の普及などで個人が持つ承認欲求が高まる中、社会から孤立してしまうと「欲求が満たされず、東京で事件を起こして目立ちたい、社会を騒がせたいという心理が生まれるのではないか」と分析する。

凶悪な襲撃事件を防止するため、政府や関係機関も対策に乗り出している。秋葉原の事件後の平成21年1月には銃刀法が改正され、刃渡り5・5センチ以上の剣の所持が違法に。京王線の事件後には、鉄道各社が車内の防犯カメラ設置を加速させている。

しかし、こうした対策は抑止力となる一方、逮捕や死亡を恐れない、いわゆる〝無敵の人〟には効果が薄く、対症療法的であることは否めない。

福田教授は「家庭を持たない若者や退職後の高齢者など、社会とのつながりが薄い人たちをいかにケアするかを、長期的な視点で考えなければ、根本的な解決にはならない」と話している。(宮野佳幸、吉沢智美、根本和哉

 

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