ドイツも部分的ロックダウン ワクチン普及70%でも感染拡大のなぜ
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──再び感染が急拡大しているドイツ。どうして急拡大したのか、また現地の反応は......
ワクチン接種済みまたは感染から回復済みの人のみ入場できる......
昨年を超える勢いで感染が拡大しているドイツ。夏頃から各種規制が緩和されていたが、感染拡大を受けてコロナ規制が復活し、特に感染率の高い地域では、おもにワクチン未接種者を対象とした事実上のロックダウン状態に入る。ドイツ全人口の70%近くがワクチン接種済みであるにもかかわらず、なぜ今感染拡大なのだろうか。
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■ 冬の終わりまでに「ワクチン接種か、回復か、あるいは死か」
感染が他の地域より多い南部のバイエルン州ではマルクス・ゼーダー州首相が州全土での2Gルール(ワクチン接種済みまたは感染から回復済み)の徹底導入を発表、 これによりワクチン未接種の人々に「事実上のロックダウン」が課されることとなった。ロベルト・コッホ研究所(RKI)によると、バイエルン州では19日に10万人あたり約625の感染が記録されており、全国平均の約341をはるかに上回っている。また州政府は7日間の発生率が10万人あたり1,000を超えるすべての地区に封鎖を課した。これらの場所では、バー、クラブ、レストラン、文化施設、スポーツ施設が閉鎖される。 12月といえばクリスマスマーケットの季節で、ニュルンベルクやミュンヘンなどではすでに建設が始まっていたがそれも中止となり、デコレーションを片付ける人々の姿がもの悲しい。2年ぶりのマーケット開催となるはずだったため、市民の落胆も大きい。ただし、学校や幼稚園は継続される模様だ。 発生率が1,000未満の地域でも制限がある。スポーツや文化イベント、小売店など、条件や施設、時間帯などにより入場制限や「2G +」ルール(2Gの条件を満たしている人でも陰性のテスト結果が必要)が適応される。また公共交通機関にも今後「3G」ルール(接種済み、回復済み、あるいはテスト陰性)が適応される。 ワクチン未接種者は美容院や大学などにもアクセスできなくなり、他人との接触制限も課される。ドイツでは現在感染者数ではなく病院の病床占有数で「赤・黄・緑」信号の呼称を用いているが、赤信号の現在、入院中の新型コロナ患者の約90%がワクチン接種を受けていないとゼーダー州首相は指摘している。 バイエルンと国境を接するオーストリアでは感染がさらに深刻な状況で、全国的なロックダウンとワクチン接種義務に踏み切ったが、ゼーダーもこのような措置の必要性を強調している。また、イエンツ・シュパーン連邦保健相は、ドイツ国内のほとんどの人間がこの冬の終わりまでに「ワクチンを接種しているか、回復しているか、あるいは死んでいるだろう」と警告し、世界を驚愕させた。
■ 右翼と感染増加の関連性 バイエルン以上に発生率が高い州は東部のテューリンゲン州とザクセン州だけだ。これらの州ではワクチン接種率が全国平均を下回っている。 発生率の高いバイエルンの大部分がオーストリアと国境を接していることは関連があるようだ。この地域には越境通勤者や週末を国境付近のアルプスで過ごす旅行者も多い。ミュンヘン工科大学のウイルス学者ウリケ・プロッツアーによるとドイツで登録されている約46,000人の越境通勤者のほとんどがバイエルンで働いているという。 また、この地域は保守的でもあり、山間部に近い中堅都市のローゼンハイムでは、ワクチン完全接種率が全国平均を10%近く下回っている。保守的な山間部では多くの人々にワクチン接種リスクの過大評価、コロナの過小評価、あるいは自然療法への傾倒が見られるという。イタリアでも同様に、オーストリアに近いドイツ語圏(南チロル地方)での接種率低迷が報告されている。 一方、東部のテューリンゲン州とザクセン州では話が異なる。これらの地域では極右政党AfDの支持率が極端に高い。9月の総選挙で30%以上を獲得しAfDが最強の党となったザクセンでは接種率わずか52%だ。AfDは以前から政府の対コロナ措置に非協力的だ。ザクセンと、最高接種率・最低発生率の北部ブレーメン州を比較すると、ブレーメンではAfDへの支持も7%未満と非常に低く、見事に対照的な結果となっている。 また、教育水準の低さが右翼的思想と結び易いことはドイツに限らず以前から世界中で指摘されているが、ベルリンのフンボルト大学社会科学研究所のハイケ・クレーバー教授も、今年3月に2万人以上を対象に行われた調査に基づく結果として「教育とワクチン拒否に著しい相関性がある。教育レベルが低いほど拒絶も高い。そしてワクチンを拒否する人はAfDへの投票率が高く、右翼思想である傾向が高い。加えて、政治や政府、メディア、ヘルスケアシステムへの信頼度が低い」とドイチェ・ウェレに語っている。 シュピーゲル・インターナショナルの作成した地図でも、発生率とAfD支持率の関連性は一目瞭然だ。第五波を「反ワクチン主義者のパンデミック」「愚か者のパンデミック」などと呼ぶ政治家や科学者も出てきているなか、ウイルス学者のクリステアン・ドロステンなどはそのような見方に懐疑的で、パンデミックはパンデミックでしかないとしている。
■ カギはやはりワクチンの更なる普及 ドイツの近況は世界的にも大きく報道されているが、実際のところ、ワクチンを完全接種した身としてはそれほどの不自由や脅威は感じない。基本的なルールさえ守っていれば、そこそこ普通の生活ができる。特に昨年~今年前半の非常に厳しいロックダウンを耐えたあとでは、なおさらそう感じる。筆者はバイエルン州に暮らしているが、感染は確かに周りでも徐々に増えている。ワクチン完全接種済みの人でも罹っているし、児童の感染も多いようだ。 ただ、昨年以上に感染が多いからといってワクチンに懐疑的になるのは短絡的だ。現在猛威を奮っているのはおもにデルタ変異株であり、昨年の今頃とは状況が違う。昨年はテストセンターや自己テストなども今ほど普及していなかったため、未報告のケースも多かったと思われる。また1年前は、接触制限や外出制限、さらには夜間外出禁止令など、現在よりもはるかに厳しい規則があった。一方現在は、感染は増えていても死亡するケースは減少している。 カギはやはりワクチンの更なる普及だろう。現在入院中の患者のほとんどがワクチン未接種者か、60歳以上の高齢者だ。高齢者は早くにワクチンを接種したが、接種後の免疫反応の低下が若者より早い。 さらに、人々の気の緩みもある。先月、他州でライブハウスのギグに行ったが、2Gイベントとはいってもマスクなしの蜜の状態で何時間も過ごすのは、あとから考えると気持ちのいいものではなかった。ワクチンを接種していてもウイルスを拡散する可能性はあるし、パスポート有効化のための偽造コードもかなりの数出回っており、実際に2Gイベントでのクラスター発生も起こっている。 ワクチンが完全ではないにしても、接種率と感染率増加の関連性がこれだけ明白に出ているのだから、ワクチンは接種すべきだろう。ただ、反ワクチン派への非難が高まるなか、何らかの理由でワクチンを接種できない人々への更なる配慮も必要と思われる。 バイエルン州では24日0時からさらに厳しい制限が敷かれる。今週は親しいアメリカ人友人宅にサンクスギビングの祝宴に呼ばれているが、個人宅での集いにも2G+が当てはまる。ワクチン未接種者にはさらに、最高2家族5人までの接触制限が課される。
モーゲンスタン陽子