米国で大ヒット中の「VRゴッホ展」は、なぜアートレポーターから“酷評”されたのか
配信
米国で大ヒット中のVRゴッホ展「Van Gogh: The Immersive Experience」。
ゴッホの作品を新しい形で楽しめることはもちろん、SNS映えも狙えるとして好評を博している。しかし、米メディア『Star Tribune』のアートレポーター、アリシア・エラー氏は、辛口評価を下した。
本展では、壁や床に投影された作品400点を楽しむことができるほか、VRゴーグルを活用した、作品の世界への没入体験なども話題となっている。 しかしエラー氏は「この空間の雰囲気は、ひどいレイブ(夜通し行われる音楽イベント)とお化け屋敷を組み合わせたようなものだ」と酷評した。 VRゴッホ展を支持する人たちからは、「有名芸術や、グループでのアクティビティを体験できるクールな方法であり、ゴッホについてより深く学ぶことができるものだ」といった声が聞かれるが、エラー氏はこれにも同意できないとしている。「この展示会は、ゴッホの濃厚な絵の具の使用法や、精神的な葛藤、また表現力豊かで鮮やかなポスト印象派の傑作を体験するものではない。彼の芸術を見せ物にして、マーケティング目的で利用している」。 そして本展のマーケティングチームが、来場者に写真を撮ってSNSに投稿することを促していることも、「ショーの無償広告を作成している」と批判した。ゴッホのスケッチ『Three Cicadas(三匹の蝉)』を例に出し、「教育的なものが削ぎ落とされ、蝉の殻のように空っぽだ」としている。 また『郵便夫ジョゼフ・ルーラン』や『アルルの寝室』などの名作も映像として登場するものの、コンテキスト(前後の文脈)がないため「マニアックで長すぎるTikTok動画のように感じる」と述べた。 同氏は「生前はあまり知名度がなく、精神的な問題も抱えていたゴッホが、今では人々に大金を稼がせているなんてなんとも皮肉なことだ」と語った。ただし、コロナ禍で美術館は甚大な被害を受けており、彼らをサポートするためにも、美術館には足を運んでほしいと締め括っている。 専門家からすれば、本展の試みは「商業的」だと感じられたようだ。ただ普段馴染みがない人にとっては、アートに触れる良い機会となるのではないだろうか。コロナ禍で苦しい美術館や業界にとっても、「希望」となっているに違いない。
堀口佐知