日本ではもう手に入らないトヨタ「ランクル70」が世界で今も現役バリバリな訳

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東洋経済オンライン

■日本で販売終了の70系は今も世界で生産・販売  その一方、同じランクルを名乗りながらも「何も変えない、いや変えてはならない」というモデルがヘビーデューティ系の70系である。実は日本での販売は2004年に終了しているが(2014年に1年間限定で復活)、ワールドワイドでは今も現役で生産・販売が続けられている。  ちなみに2021年3月にはトヨタから70系のバリエーションの1つである78(トゥループキャリア)が「世界初、ワクチン保冷輸送車のWHO医療機材品質認証を取得」というリリースが発表された。道路インフラが未整備の途上国でもワクチンを低い温度に保ちながら病院や診療所まで輸送するための車両として、世界で唯一認められたクルマとなった。もともと新生児用ワクチンを想定して開発されたそうだが、新型コロナウイルスのワクチン輸送手段としても期待されている。

 「大きく変わった300系」に対して「何も変わらない70系」について改めて紹介したい。  70系はランクルの名を世界に知らしめた40系に代わって1984年に登場。「変わらない」と言ってもモデルライフの途中でいくつかの変更が行われている。まずは1990年にショート/ミドルホイールベースに加えて4ドアバンを追加。1999年に1回目の大幅改良が行われ、乗り心地改善のために前後リーフリジットのサスペンションが改良された(フロント:コイルスプリング化、リア:リーフスパンの変更)。

 続いて2007年に2回目の大幅改良が行われ、オーストラリアのユーロ4規制に合わせ、エンジンを従来の直6ディーゼル(NA)からV8ディーゼルターボ(海外向けの200系と同じエンジン)へと変更。従来のフレームではエンジンが搭載できないことからフロントのフレームが80mm拡幅された。それに伴い70系の特徴の1つだった分割式フェンダーや愛嬌のあるフロントマスクは近代的なデザインへと変更された。  その後、主要マーケットの1つとなるオーストラリアの鉱山会社の安全に対する意識が強いことから、2016年にはANCAP5☆のために横滑り防止装置(VSC)を設定。さらに2020年には、従来から装着される12Vソケットに加えてUSB電源も追加されている

 

 

 

 

 

 

インテリアは“質実剛健”を絵に描いたようなシンプルで機能的なインパネ回りを現代的(!? )にアップデート。しかし、これも単なる意匠変更ではなくエアバッグを装着させる必要があったため、つまり機能のためのデザイン変更だった。空調操造パネルは懐かしいレバー/ダイヤル併用式を採用。メーターも不整地走行での視認性を配慮した大型のアナログ式で、最近のクルマではすっかり見かけなくなった油圧計/電圧計を組み込む。トリップメーターをはじめとするスイッチ類が防水/防砂式なのはランクルならではの特徴だ。

 収納関係もほかのクルマと違い、キー付きのグローブボックスや、車体が傾斜した状態でも収納物が落下しないように深さを確保したコンソールボックスや小物入れを用意。さらに今や絶滅級の“灰皿”が今も用意される。  フロントシートは見た目こそシンプルな形状ながら長時間/長距離走行でも疲れにくい設計だが、リアシートは必要十分の居住性と快適性だ。ラゲッジスペースは広いスペースを確保。最大積載量はモデルによってさまざまだが、実際にはその数倍以上搭載してもへこたれない設計になっているそうだ。

■悪路走破のための耐久性と信頼性を確保  エンジンは仕向地によって異なるものの、現在はガソリンがV6-4.0L、ディーゼルがV8-4.5Lターボ/直6-4.2L(NA)の3種類を用意。トランスミッションは、過去には4ATの設定があったが、現在は副変速器付5速MTのみとなっている。  シャシーは伝統のラダーフレームなのは言うまでもないが、世界各地の過酷な環境下で使用することを想定した強度基準で設計されており抜群の耐久性を誇る。

 サスペンションは不整地走行に不可欠なサスペンションストロークを確保するために、前後ともにシンプルな構造のリジット式にこだわる。ステアリングシステムも現在主流のラック&ピニオンではなくリサーキュレーティングボール式。これも悪路走破の信頼性のためである。  AWDシステムはパートタイム式。最新モデルはデュアルモードオートマチックロッキングハブ、前後の電動デフロックなどを装備する。悪路走行をサポートするさまざまな電子制御デバイスが満載の現代のSUVと比べると極めてシンプルな機構だが、これも信頼性のためである。ホイールは今もスチール製がメインだが、今ではほとんど見かけないサイドリング付きで、どんな僻地でもタイヤレバー1本あればタイヤの交換造業が可能だ

 

 

 

このように、最新モデルと言っても基本的なメカニズムは1984年に登場した初期モデルと基本的には変わらない。とはいえ、今は時代の変化に合わせて必要最小限の安全装備は装備されるが、普通のクルマとは比べものにならない信頼性/耐久性の試験を行い、「前の仕様と変わらない」と確認されたうえで採用されている。ちなみにABSとパートタイムAWDとのマッチングはかなり難しかったようで、車輪速センサー(シャフトではなくタイヤで計測)は70系専用に開発されたそうだ。

■「クルマの故障=死」とならないために  なぜ、かたくなに変えないのか?  それは「構造がシンプルだと故障が少ない」「もし故障しても修理が簡単にできる」「補修部品がどこでも手に入る」などの理由が挙げられる。何かあればJAFがすぐに駆け付ける日本では考えられないが、世界には「クルマの故障=死」を意味する国や地域が存在する。そこでクルマを走らせるには、信頼性と耐久性、そして整備性の高さがどの性能よりも重要であり、それをかなえるクルマは世界中を探しても70系しか存在しないのだ。

 世界には70系でないといけない道があり、70系がなければ生活できない人、70系が止まると命を失う危険性がある人が数多く存在する。つまり、70系が今も生産・販売を続けるのは「ニーズがあるから」というビジネスうんぬんの話ではなく、「世界の命を守るクルマ」としての使命で造り続けられているのだろう。  大きく変わった300系と何も変わらない70系。「すべての人に幸せを届けることが原点」(豊田章男社長)を掲げるトヨタには、どちらも欠かすことができない。

山本 シンヤ :自動車研究家