隈研吾氏が語る、次代に続く設計事務所
営業も定例会議もいらない 創造力こそアトリエの存在意義
菅原 由依子
日経クロステック/日経アーキテクチュア
坂本 曜平
日経クロステック/日経アーキテクチュア
事務所の設立当初から「組織設計事務所にはしない」と公言してきた隈研吾氏。今もその理想は変わらない。一方で、他分野の拡張やアーカイブ事業など試みも始まっている。隈氏が見据える、次代に生き残る設計事務所像とは何かを聞いた。
北海道東川町で進行中のプロジェクトのため、敷地周辺を視察する隈研吾氏。発注者らが舌を巻くほど、建築に使う素材や、周辺環境を徹底的に調べ尽くし、それらが建築に与えるストーリーをつくる(写真:船戸 俊一)
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1990年に事務所を設立した当初から理念は変わらないですか。
変わらないね。大きくなるほど、いかに「組織設計事務所」にならないかを考えますね。
その「組織設計事務所」とは、何を指しているのですか。
厳密な定義はないけど、組織を維持することが目的になることかな。アトリエとは、クリエーションのために集まっている組織だと思っています。組織を維持するために集まっている雰囲気があれば、規模に関係なく「組織設計事務所」だなと感じます。
これまでは規模が大きくなると、組織を垂直的なヒエラルキーによって回さなければならないと思われてきましたが、DX(デジタルトランスフォーメーション)によってフラットな組織が実現しやすくなりました。
例えばザハ・ハディド・アーキテクツ(英国ロンドン)は400人以上を抱え、隈研吾建築都市設計事務所よりも大きくフラットな組織であり続けています。だからアトリエの大組織化はあり得ると僕は思っています。
ただし従来型の営業を頑張っても、日本という壁は越えられないし、規模の維持すらできなくなる。
隈事務所では中国の「竹屋」(2002年完成)を契機に、海外からのオファーが舞い込むようになりました。営業をしなくても、クリエーティビティーがあれば、インターネットで事務所のブランドを世界に発信できる時代であることを実感しました。
横型組織に必要なメリハリ
いわゆる「番頭」や営業・広報の専任を置かず、複数のパートナーを持つフラットな体制は隈事務所の特徴です。その意図は何でしょうか。
クリエーティビティーは横のつながりから生まれると思っているからです。縦型組織で中間に人が入ると、その下の人は中間の人に向けて話し、僕まで伝わらなくなります。だから僕自身が所員と直接コミュニケーションすることを大事にしています。
限られた時間で全てのコミュニケーションをとるのは困難です。どうメリハリをつけるのですか。
「会議のための会議」になる定例会議はしません。会議向けの能力で人を評価しないことが大事で、実質的に設計ができる人間を育てたいんです。しゃべりのうまい人間を育てたくはない。僕をプロジェクトのための駒の1つとして捉え、どんどん聞いて、主体的に状況を動かせる人間が建築には必要なのです。
そのエネルギーがないと、金融機関からのビジネス提案だとか、発注者が見たい物だとか、周囲の状況に巻き込まれてしまいます。そうすると面白い建築はできません。
日本では自分よりも下を管理することをマネジメントということが多い。でも僕は、発注者も僕も上司も使う、“下向き”ではなく“上向き”なマネジメントをできることが本当のマネジャーだと考えています。僕自身は事務所のリーダーでもあるけど、部下に使われているんだから受動的なリーダーなのかもしれませんね
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隈事務所はなぜ強い? 所員300人超「メガアトリエ」の秘密
佐々木 大輔
日経クロステック/日経アーキテクチュア
国立競技場の設計を手掛けるなど、今や一般でも知らない人はいないと言っても過言ではない建築家の隈研吾氏。なぜひっきりなしに仕事の依頼が舞い込むのか──。日経アーキテクチュア2021年7月22日号では特集「隈事務所、メガアトリエの挑戦」を組み、チームづくりに焦点を当てて快進撃の源泉に迫りました。
(写真:隈研吾建築都市設計事務所)
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隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈事務所)は1990年設立。10年前は100人に満たない事務所でしたが、いまや海外オフィスを含めて300人以上が所属する国内最大級のアトリエ設計事務所に変貌しました。外国籍の所員は約4割。2021年5月時点で進行中のプロジェクトは445件で、半数以上が海外の案件です。
毎月拡大し続ける事務所
海外案件が半数以上を占め、売り上げを伸ばし続ける隈事務所。所内の国際化やリモートワークの導入も進み、品質維持に向けた手立てが必要になってきた。新規開拓の「攻め」と同時に、隈研吾氏の譲れない一線の「守...
2021/07/21
アトリエの生命線である創造力を維持しつつ、どうやって大規模化に対応していくか。隈事務所では、コロナ禍を機に設計事務所はどうあるべきかを突き詰め、さらなる成長に向けてさまざまな変革の種をまいています。
その1つが、地域に根差した関係構築の拠点となる「サテライト」。隈事務所は、「木工の町」として知られる北海道東川町にサテライトオフィスを開設し、5人程度の所員を派遣する計画を進めています。所員の働き方の1つの選択肢として、今後も日本各地にサテライトを順次開設していく考えです。仕事の間口を広げる試みといえるでしょう。
地域密着で「身近な存在」に 多様な働き方にも対応
長年、東京都心の青山にオフィスを構えてきた隈研吾建築都市設計事務所。しかしコロナ禍を機に、地方に所員を送り込む「サテライトオフィス」計画が進行している。「木工の町」として知られる北海道東川町で何をた...
2021/07/21
もう1つが、CGやグラフィック、インテリアといった領域をカバーする「専門チーム」です。隈事務所には建築のプロジェクトだけでなく、アプリ開発や内装デザイン、日用品のプロダクト開発などさまざまな依頼が日々舞い込んできます。専門チームを内製化することで、発注者の依頼に建築以外の選択肢を用意できるメリットがあります。隈事務所の新領域開拓の原動力となっています。
目指すはデザインの専門集団 領域拡大で提案の幅広げる
異業種から隈事務所への“ラブコール”が止まらない──。建築のプロジェクトだけでなく、アプリ開発や内装デザイン、日用品のプロダクツ開発など様々な依頼が日々舞い込んでくる。あえて異分野の人材を確保し、所...
2021/07/21
この他にも、所員が担当プロジェクトをプレゼンして隈氏がレビューする「グローバルミーティング」、事務所のノウハウや哲学を伝える「用語集」、事務所が手掛けたプロジェクトの情報をデータベース化する「アーカイブ」といった基盤整備を進めています。いずれも所員のクリエーティビティーを高めるための取り組みです。
大ブレイクに隠れた強み
「意図的にポイントを絞る」、「トラブル回避のためのノウハウを持つ」──。隈事務所躍進の裏には、完成した建築を見るだけでは分からない強みがある。設立当初を知る横尾実代表をはじめ、長年関係が続くクライア...
2021/07/21
特集のインタビューでは、隈氏にアトリエ設計事務所の組織論について聞きました。事務所の設立当初から「組織設計事務所にはしない」と公言してきた隈氏は、「隈事務所に限らず、建築設計事務所の在り方はこれから変わってくる。建築だけではなく、クリエーター集団のようになっていく」「僕をプロジェクトのための駒の1つとして使う意識を持ち、自分でプロジェクトの状況を動かせる人間が増えてくるといい」と語ります。果たしてその真意は。進化する隈事務所に、今後も目が離せません。
営業も定例会議もいらない 創造力こそアトリエの存在意義
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2021/07/21
隈事務所、メガアトリエの挑戦
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2021/07/2