日本の検査は古典的…視覚障害者認定基準の国際事情

配信

 

読売新聞(ヨミドクター)

Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

 米国で考案され、今日では国際的視機能障害の基準として評価を得ている「機能的視覚スコア」(Functional Vision Score)(FVS)という評価法があります。  コーレンブランダー(Colenbrander)という医師が1993年に初めて発表したもので、視力と視野の検査結果を別々に評価する古典的な方式ではなく、日常視をより意識し、両目で見る視力と視野を複合・統合する計算式に基づき、結果を100点満点で表して評価する方法です。何度か改訂された後、米国医学会で公認され、障害基準判定に使用するに至ります。

イメージ

 2002年にこの方式が国際学会で発表されると、非常に高い評価を得て、国際眼科学会やロービジョン(低視力)学会がお墨付きを与えました。中でもカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどはすぐにこの評価法を取り入れました。さらにオランダ、スカンジナビアの国々、中東諸国などでは福祉、保険の領域で応用され、アジアでは、マレーシア、シンガポールで公的に使われているほか、韓国も取り入れています。  このように、機能的視覚スコアは、次第に視覚障害の国際基準として広く用いられるようになってきていますが、日本の基準はまだ古典的な方法を踏襲しており、厚生労働省で認定基準の見直しが検討された2017年の会議でも、評価はするものの、取り入れるというところまでには至っていません。

 先ごろ、米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology)の学術誌で、先のコーレンブランダー医師が「視覚(ビジョン)の展望」と題して重要なことを述べています。これは機能的視覚スコアの位置づけを知るのに、大変重要な記載です。  眼科医は視覚情報が眼球などの視覚系にうまく届いているか、その入力がうまくいっているかにもっぱら関心を寄せるのに対し、患者は日々の活動がうまくいっているかの出力に最大の関心があります。医師は視力、つまり目に関心を持ち、患者はビジョン、すなわち視覚を利用して生活している個人に関心が行くのです。言い換えると、視力はいくつかという数字が医師としては大事ですが、患者としては読みたいものが読めるか、視覚からきちんと情報が得られるかが大事なのです。  彼は、米眼科学会は視覚の保護と同時に、視覚を利用した活動に視点を置くべきだと、この論文で主張しています。  その間をつなぐものは、その人の脳の力であることは言うまでもありません。  

 

 

若倉雅登(わかくら まさと)

若倉雅登

 井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長 1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花(つばな)流しの診療所」「蓮花谷話譚(れんげだにわたん)」(以上、青志社)などの小説もある