4万円も納得、孤高の完全ワイヤレス

その音はイヤホンの枠を超える。本格的かつ上質、DEVIALETの完全ワイヤレス「Gemini」レビュー

 
岩井 喬
 

https://www.phileweb.com/review/article/202106/17/4377.html

 

 

個性的なフォルムが光るワイヤレススピーカー「Phantom」シリーズや、クロームメッキを施した薄型ボディに先端技術を詰め込んだオールインワン型ハイエンドオーディオシステム「EXPERT PRO」を展開する、フランスのオーディオブランド、DEVIALET(デビアレ)。

今回、その高い独自技術の数々を指先サイズにまで凝縮した完全ワイヤレスイヤホン「Gemini」が誕生した。


DEVIALET「Gemini」¥41,800(税込)


4万円を超えるプライスは、完全ワイヤレスイヤホンでは超ハイエンド機にあたる。しかしその中に積み込まれたテクノロジーの数々を知ることで、高いという感覚は払拭されることだろう。

ハイファイオーディオでも画期的新技術を数多く開発・搭載してきた

DEVIALETは2007年に創業し、EXPERT PROの前身となる「D-Premier」を2010年に発売。このD-Premierには創業者であるピエール・エマニュエル・カルメル氏が開発した「ADH」(Analog Digital Hybrid Intelligence)テクノロジーが取り入れられ、大きな話題となった。

コンパクトであっても上質なサウンドを再生できるHi-Fiアンプの開発を目指していたピエール氏は、小型でも高効率かつハイパワーを生み出すD級アンプと、小出力でも高音質なA級アンプ、それぞれの良さを組み合わせたハイブリッド構成を生み出した。


独自技術を多数搭載したオールインワン型ハイエンドオーディオシステム「EXPERT PRO」。写真のEXPERT 250 PROは2,618,000円(税込)


さらにコンパクトでも大出力を実現させるという目標があったというPhantom開発において、新たに生み出された技術が「SAM」(Speaker Active Matching Processing)だ。

スピーカーの持つ特徴を測定し、その特性を基に入力信号によってどのようにスピーカーが動くのかをDSPで予測。その上で理想の動きとなるようリアルタイムに処理を行い、入力信号を完璧に再現するよう働きかける技術だ。

現在ではEXPERT PROにもSAMが搭載されており、1000に及ぶ新旧様々なスピーカーを実測したプロファイルが用意されている。

独自のユニークな技術を完全ワイヤレスにも多数投入した

Geminiにもこうした独自の知見から導き出された技術が積み込まれているが、その最たるものが「EAM」(Ear Active Matching)だ。

このEAMは、まさに完全ワイヤレス版SAMといえる内容で、個人個人で異なる外耳道の形状に合わせて音楽信号を最適化するというものだ。

このEAMにはイヤーチップとのマッチングも含まれており、1秒当たり1万回のサイクルでリアルタイムモニタリングし、音楽信号を常に最適化し続けるという。


装着したところ。フィット感も良好。音楽再生中、音楽信号を常に最適化し続ける


さて、EAMを実現するうえで重要な要素の一つがドライバーユニットの素性である。入力信号、そして耳の環境を踏まえ、ドライバーを理想通りに動くようコントロールするうえで、ドライバーそのものの特性を理解していないとEAMが成り立たない。

DEVIALETではPhantom同様、Geminiのドライバーユニットも専用設計の10mmダイナミック型ドライバーを独自開発。ドライバーの素性も知り尽くしているからこそ、理想的なリスニング環境を実現できるのである

 

 

 

 

ノイキャンも独自開発。外音取り込みは人の声にフォーカス

そしてアクティブノイズキャンセリングについても、デジタルフィルターを用いた独自の特許技術「IDC」(Internal Delay Compensation)を採用した。独自のアルゴリズムによってノイズキャンセル効果に影響を及ぼす音声信号処理の遅延を完全に補正する。これにより、従来難しかった高い周波数帯域のノイズにまで効果を発揮できるという。

また外音取り込み機能も、外部の騒音をキャンセルしつつ、人の声の細やかなニュアンスを拾い上げるため、300Hz~3kHzの周波数帯域にフォーカスしたナチュラルなサウンドチューニングを行っている。

音響構造面ではイヤホン内部の空気圧を最適化する、カスケード式減圧チャンバーPBA(Pressure Balance Architecture)を採用。専用のメッシュ制音材によって外部からの音の侵入を防ぎ、アクティブノイズキャンセリングの効果をさらに向上させるという。


XS/S/M/Lサイズのイヤーチップを同梱する


ボディはIPX4の防滴仕様で、ガンメタル調の落ち着きと重厚感を兼ね備えたカラーリングが施されている。ブランドロゴが記されたサークル部がタッチセンサーだ。

SoCはクアルコム製で、対応コーデックはSBC、AAC、aptX。イヤホン本体では6時間再生、ワイヤレス充電規格Qiに対応したケースでの充電込みで24時間の再生に対応する。

専用アプリ『DEVIALET Gemini』を使うことで、ノイズキャンセル効果を3段階(Low、High、航空機)、外音取り込み2段階(Low、High)を切り替えることができる。どちらも使わない場合はニュートラルを選択すればよい。そのほか、イヤーチッププリセットが用意された6バンドのグラフィックEQもアプリ上で設定可能だ。


イヤーチップを外したところ。ノズル形状も独特だ


高いノイキャン効果。音質重視なら「ニュートラル」がおすすめ

アプリを使いつつ、Geminiを装着。まずシリコン製イヤーチップを最適なサイズにするよう促され(XS/S/M/Lの4種類が同梱)、アプリトップ画面へと移る。ノイズキャンセル、ニュートラル、外音取り込みの3種類から選択できるようになっており、右上の設定を選択するとオーディオ設定からEQ調整も行える(試聴では“デフォルト(フラット)”を選択した)。


ノイキャン効果は3段階から選択可能


外部音取り込みもLOWとHIGHから選択できる


アプリではイコライザー調整も行える


ノイズキャンセリングはLowでも十分に効きが強く、室内のエアコン音や地下鉄車内では低域方向のノイズを抑え、静寂さを感じられた。Highではホワイトノイズが少し気になるが、ノイズ抑制効果はさらに高まる。

モードをニュートラルにすると低域方向の厚みが抑えられ、よりナチュラルでほぐれの良いサウンドに変化。音質の善し悪しで言えば、ニュートラルが最もGeminiの持つポテンシャルを引き出してくれるようだ

 

 

 

 

ヘッドホンのような開放的な音。ディテール表現にも優れる

続いてAstell&Kern『SP1000M』を使い、aptXコーデックで接続。サウンドを確認してみる。

非常に空間性、S/Nの高いクリアなサウンド傾向で、全体的に広がり良く見通しもクリアで音ヌケも良好。EAMの効果なのか、耳の中で音が出ている感覚を強く感じるイヤホン特有の響きや閉塞感はなく、ヘッドホンに近い開放的な音質だ。


ヘッドホンに近い開放的な音が楽しめる


なかでも低域方向の密度感、ボーカル帯域のナチュラルさが印象的である。オーケストラの管弦楽器は立ち上がりのハリ感も丁寧に描き、ボトムの太さも十分だ。ローエンドの張り出しも豊かでティンパニーなどの太鼓の皮のニュアンスも良く引き出す。

ジャズピアノの響きも低域から高域まで安定した音伸びを見せ、ホーンセクションもコシのある存在感のある音像表現としており、伸びやかでスッキリとした余韻を聴かせてくれる。ウッドベースの胴鳴りはむっちりとした艶と弾力良いボディの響きをバランス良く融合。ドラムの響きも落ち着き良く、シンバルの輝きも上質だ。

ロック音源でも破綻なくまとめ、ディストーションギターのリフも程よい厚みを持たせつつ、ザクザクと小気味良く聴かせる。リズム隊の押し出しは高密度であり、アタックをグッとパワフルに繰り出す。

ボーカルの質感もハリ感を滑らかにまとめ、ボディの厚みや口元の動きをスムーズに描写する。特に印象的なのが中低域の充実さで、スラップベースの生き生きとした躍動感はフラットなEQのままでもグイグイと迫ってくる。
 


完全ワイヤレスとしては大口径なシングル・ダイナミック型ドライバーならではのパワー感、シームレスな低域~高域の音の繋がりもGeminiの特徴だが、加えて独自技術であるPBAやEAMとの連携によって得られる、イヤホンの枠を超える音場の広さ、ナチュラルな描写性は、他では味わえない唯一の世界観だ。

既存の完全ワイヤレスイヤホンに満足できない、本格志向のサウンドと上質なディテール表現、ナチュラルなノイズキャンセル効果をすべて味わいたい方へお薦めしたい、孤高の完全ワイヤレスイヤホンである。


イヤホンの枠を超える音場の広さ、ナチュラルな描写は、他のモデルでは味わえない


■試聴音源
・レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『惑星』~木星(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』~ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』~メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit・WAV)
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』~届かない恋(2.8MHz・DSD)
・ツキカゲ『スパッと!スパイ&スパイス』(96kHz/24bit・FLAC)

(協力:Devialet株式会社