東京五輪開催の可否を国内スポンサーに質問 「賛成」は71社中6社
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7月23日の東京五輪開幕まで残り2か月を切った今、開催を疑問視する世論と、予定通りの開催を目指す「五輪ムラの住人」との乖離が深まっている。5月に報じられた各紙の世論調査でも、反対する声が8割超と大多数を占めた。しかし、菅義偉首相は14日の記者会見で、「国際オリンピック委員会(IOC)は7月開催をすでに決定している」と回答。「開催ありき」の姿勢を崩していない。
【表3つ】<7月開催に賛成か>「分からない」(トヨタ)、「賛成」「大会の成功に交通の面から貢献したい」(東京メトロ)、ANA、ダイワハウス、三井不動産…五輪開催についてのスポンサー71社の意見
そうしたなかで、大会を支える「五輪スポンサー企業」はどう考えているのか。IOCと直接契約を結ぶ
最上位の「ワールドワイドパートナー」国内3社(トヨタ自動車、パナソニック、ブリヂストン)を筆頭に、
今大会の国内スポンサー企業は全71社。
国内スポンサーは出資額に応じて
ゴールドパートナー(ティア1。15社)、
オフィシャルパートナー(ティア2。32社)、
オフィシャルサポーター(ティア3。21社)
にランク分けされている。
出資額が最も少ないティア3でも推定15億円以上
を拠出していると報じられており、協賛金の総額は3720億円に上った。
これは過去最高だった2008年北京大会の3倍に当たる。
多くの企業が多額の金を拠出し協賛した理由を、元JOC職員でスポーツコンサルタントの春日良一氏が解説する。 「84年のロス五輪以降、スポンサー企業は『1業種1社』の原則がありました。しかし、今大会では組織委がその原則を曲げて多数の企業と契約し、多額のスポンサー料を集めることに成功した」 開催の是非についてスポンサー各社が言及することはほとんどない。元毎日新聞記者でジャーナリストの後藤逸郎氏が語る。 「開催を前提に延期の際にも追加で協賛金を支払っている以上、『賛成』を主張するのが自然ですが、中止論が高まっている日本で積極的に唱えればマイナスイメージになりかねない。かといって、注ぎ込んできた多額のカネをドブに捨てることになる『中止』も言い出せないのでしょう」
米メディアが「IOCが五輪をやりたがる理由は3つある。
カネ、カネ、カネだ」と批判したように、
強行開催に突き進む背景には「五輪貴族たちの利権」がある。
ならば、その「カネ」を出しているスポンサーの意見・見解は重要な意味を持つ。そこで日本国内のスポンサー企業71社に質した
社員の会場観戦も「推奨」
質問は以下の3つ。
【1】7月開催に賛成か
【2】開催する場合は無観客にすべきか
【3】有観客で開催された場合、社員に会場での観戦を推奨するか。
回答は
「賛成(推奨)」
「反対」
「分からない」
の3択とし、各社の回答は別掲の表で全文を示した。
選択肢に基づいて回答した企業は8社で、
開催に「賛成」としたのは、ANAホールディングス、東日本旅客鉄道、東京地下鉄など6社にとどまった。
コロナ禍がなければ「賛成100%」になっただろうが、現在の“賛成率”は10%にも満たない。
そのなかで世界で語学教育事業を展開するEFは社員の会場での観戦も「推奨する」と答えた。東京メトロは「賛成」の理由を、 〈様々な声があることは承知しているが、大会輸送を担う交通事業者として(中略)大会の成功に交通の面から貢献したい〉 とした。『経済界』編集局長の関慎夫氏が語る。 「交通インフラ企業は昨年度、軒並み過去最大の赤字を記録。開催で業績を回復したいとの期待もあるだろうが、無観客での開催となれば、それも望み薄の状況です。それでも『賛成』を表明した姿勢には、大会運営の一端を担う交通事業者としての覚悟が滲みます」
トヨタ自動車はすべての質問に「分からない」と回答した。
トヨタは年間200億円以上といわれる協賛金を出資する「ワールドワイドパートナー」だが、それでも「賛成」と言えない苦しい状況が窺える。
※週刊ポスト2021年6月4日号