音が猛烈に訴えかけてくる。AIRPULSE「A100 BT5.0」がアクティブスピーカーのイメージを変えた

土方久明

 

 

あのフィル・ジョーンズが設計を手がけ、日本でも人気を博したAIRPULSE(エアパルス)のアクティブスピーカー「A80」。その思想を引き継ぎながら、サイズアップによりサウンドのスケールを増した上位モデル「A100 BT5.0」が登場する。この最新モデルの魅力を、A80との比較試聴を交えながら早速レポートしたい。


AIRPULSE「A100 BT5.0」ブラック・ハイグロス(OPEN・予想実売税込価格108,900円前後/ペア)


品切れを起こす人気モデルをスケールアップ

アンプを内蔵するアクティブスピーカーと言えば、以前はあくまでもパソコン周辺機器として位置づけられるようなものが多く、ピュアオーディオ向けの製品は少なかった。

しかし近年、その固定概念を崩す本格派のモデルが国内外の数社から発売され、徐々に存在感が増している。その代表格の1台が、昨年に発売されるや否や品切れを起こす程ヒットした、エアパルスのA80だ。筆者は昨年6月にA80をレビューしたのだが、本スピーカーを初めて聴いたときの驚きは今でも鮮明に覚えている。


AIRPULSE「A80」(OPEN・予想実売税込価格84,700円前後/ペア)


A80のプロダクトデザインを担当するのは、スピーカー設計の名手であるフィル・ジョーンズ。ホーンロードがかけられたリボントゥイーターと11.5cmのアルミニウム合金コーンウーファーを搭載するという、オーディオ的なマニアック構成に加え、TI製のフルデジタルアンプモジュールとD/A変換回路を搭載し、さらにアナログ、デジタル、Bluetoothと豊富な入力に対応する。そして前へグイグイと飛び出す、鳴りっぷりの良い音を含めた圧倒的なパフォーマンスが魅力だ。

そんなA80の直系にあたるのが、今回の主役であるA100 BT5.0。筐体サイズを増した2ウェイ・バスレフ型のスピーカーだ。外形寸法は160W×255H×283Dmm、質量は1本5.5kgで、デスクトップ設置にベストマッチのA80よりひと回りほど大きく、ブックシェルフスピーカーとして本格的な環境でも使えそうな絶妙なサイズ感になった。

エンクロージャーは厚さ18mmの高強度なMDF製で、その内部には波状吸音材が貼り込まれている。良いなと思ったのは、外装にハイグロス・フィニッシュが施され、高級感が増したこと。カラーはブラックとレッドの2色から選択できる。また、背面には楕円形のバスレフ・ポートが備えられている。


レッド・ハイグロス色もラインナップされる(OPEN・予想実売税込価格115,500円前後/ペア)


そして本モデルのハイライトの1つが、ユニット構成だ。トゥイーターは、A80同様にホーンロードがかけられたアルミニウム・リボン・ダイヤフラムによるリボン型で、強力なネオジム・マグネットでドライブされる。


A80同様のホーンロード型リボントゥイーター。ネオジム・マグネットでドライブされ、優れた過渡応答と解像度を備える


12.7mmと大口径化されたウーファー部は、硬質アルマイト処理を施したアルミニウム合金コーン振動板を採用し、さらにこのクラスのドライバーでは使用例の少ない、35mm径大型のアルミ・ボイスコイルで駆動される。本ボイスコイルは、銅クラッド・アルミリボン線を採用することで高い導電性と効率に優れ、パワー・ハンドリング向上と低歪みを実現。


パワー・ハンドリング向上と低歪みを実現するアルミニウム合金コーンウーファー


さらに、磁気回路までを覆うダイキャスト・マグネシウム合金フレームに装着されることで、ユニット全体を低振動化している。加えて、内部配線はトランスペアレント社製で、圧着端子を使わないハンダ直付けで使用するこだわりようだ。

アンプ部はXMOSプロセッサーを搭載するとともに、Texas Instrument製「TAS5754」クラスDアンプを2基備えた。従来の2倍にあたる768kHz出力PMWキャリア周波数というスペックで、ウーファー(40W)、トゥイーター(10W)をそれぞれブリッジモードでドライブする。ホームオーディオでもコアなユーザーが行うマルチアンプ駆動をスピーカー単体で実現していることは魅力的で、音質のマッチングが取れるアンプを搭載したメリットは計り知れない。

また、後述するデジタル入力を活かせば、プレーヤーからアンプ部まで音声信号がデジタル伝送できるのでロスも最小限。改めてすごい時代が来たものだと感心する。

入出力インターフェースは充実しており、有線はUSB/光デジタル入力、アナログ音声入力(RCA)、サブウーファー出力とBluetoothはQualcomm Bluetooth V5.0チップセットによる、高音質コーデックaptXに対応している

 

 

低域の表現力が凄い! “本気”のサブシステムにも最適

試聴はA80とA100 BT5.0を比較しながら行った。まずは筆者所有のスタンドに設置してガッツリと聞いてみる。再生ソフト「Roon」をインストールしたMacBook Proをトランスポートに用い、AIM電子製のUSBケーブルでスピーカーと接続した。アンプとD/Aコンバーターを内蔵するので、有線接続であっても試聴環境の構築は驚くほど簡単。上記の接続を終わらせた後、2本のスピーカーそれぞれに電源ケーブルを接続して、両者を1本のケーブルで結ぶのみだ。


「A100 BT5.0」(写真左)と「A80」(写真右)を比較試聴。筐体サイズはひと回りほどの差がある


まずは、ダイアナ・クラールが昨年6月に発売した『ディス・ドリーム・オブ・ユー』(96kHz/24bit)をA80で再生した。リボン型トゥイーターを採用しているだけあって、中高域の再生音は絶品だ。透明感があり、しかもハイスピード。彼女のボーカルは積極的な表情を聴かせ、ベースの明瞭度やレスポンスも秀逸。

A100 BT5.0に切り替えて同曲を再生すると、これが予想以上の違いを見せつけてきた。A80の個性を残しながらその枠から脱却したような、さらに聴き手に猛烈に訴えかけてくる音なのだ。その理由は間違いなく低域の表現力向上によるもので、ワイドレンジになりスケール感が大きく上がっている。

リボントゥイーターとホーンロードによってもたらされた、見晴らしが良くクリアな中高域に加え、低域方向のfレンジ向上と力感が備わったことで、どのジャンルの楽曲もダイナミックで堂々としている。ジョン・ウィリアムズ 『ライヴ・イン・ウィーン』(96kHz/24bit)は、押しがある圧倒的なオーケストラ表現で、サウンドステージの立体感や左右方向、奥行き方向もよく広がっている。


デスクトップシステムなどで壁際に設置するような場合でも、最適なサウンドが楽しめる


次に机の上のデスクトップ環境に設置し、aptXに対応するAstell&Kern「SE100」と組み合わせて、メロディ・ガルドー『サンセット・イン・ザ・ブルー』をワイヤレス再生した。この場合、理論的には有線接続した場合より音質が低下する。しかしaptXで接続されていることもあり、実用的には十分な音質である。A80は透明でさわやかな高域と歯切れの良い低音で、A100 BT5.0は先ほどと同様にダイナミックで押しの良さが付加される。

リボントゥイーターは聴感上の解像感があり、ベースラインにギターやボーカルがスポイルされないのも嬉しい。しかもこの再生システムの場合は、スピーカーの他に用意するのはDAPもしくはスマホだけで良いのだ。また、背面にあるダイヤルを動かすことで、Treble(高域)/Bass(低域)をそれぞれ±3dB調整できる。特にスピーカー背面が壁に近い環境になりがちなデスクトップ周りでは、ソース音源に対してアキュレイトなサウンドに調整できるのが嬉しい。


背面部には楕円形のバスレフ・ポートが備えられているほか、高域/低域を3dbずつ調整可能なダイヤルを装備する


圧倒的な音質向上。インテリアとのマッチングも良好

最後は筆者所有のテレビと組み合わせて使用した。これが可能なのもA80/A100 BT5.0には光TOSのデジタル入力が付いているからで、テレビとスピーカー単体を光デジタルケーブルで結ぶだけでテレビの音を高音質化できる。今回は、映像ソースにApple TV 4Kを用いて『フォード vs フェラーリ』を再生した。

作品冒頭のレースシーンでは、70年代のレーシングカーのエグゾーストノートが迫力満点だが、ここで大型化されたウーファーの威力が活きる。サーキットに反響するエグゾーストノートが広大に描画され、セリフもたいへん明瞭になるなど、その音質向上は圧倒的だ。最近のテレビはベゼルが細くなり、音質的に不利なので、追加でスピーカーを設置するメリットは大きい。しかもそのケースにおいては、アンプを内蔵して入力端子も豊富なA80/A100 BT5.0のアドバンテージが生かされる。

つまりテレビとも組み合わせることで、本スピーカーをコアとするシンプルかつ多ソース対応のオーディオ/ビジュアルシステムを構築できるのだ。また、ブラックが選択できるようになり、グロスカラーによってキャビネットの品が上がっているため、テレビまわりのインテリアとのマッチングも良好なことも記しておきたい。


スピーカーとしてのパフォーマンスの高さに加えて、テレビまわりのインテリアとのマッチングが良好なのも嬉しいところ


従来のオーディオは、アンプとスピーカーは別に用意するというセパレート思想を大切にしてきた。筆者自身、それを具現化するシステムを導入している1人だが、最近のアクティブスピーカーの音を聴いていると、「一体型も侮れないな」という気持ちが強くなる。

さらに新モデルのA100 BT5.0は、オーディオファイルの憧れの1つ、ホーンロードとリボントゥイーターを搭載したマニアックな内容はそのままに、A80よりもキャビネットサイズをひと回り大きくして、そこに大口径かつ強力な磁気回路を持つウーファーを搭載することで、低域の迫力や表現力を大きく向上している。これにより、オーディオ的再生能力および音楽性の両方が向上した。

また、A80譲りの設置性の高さをA100 BT5.0が引き継いでいるのも魅力。リスナーに向けて角度を変えることができるウレタン製アングルベースが付属するので、デスクトップなどのニアフィールドにも設置できるが、ここまでの音質を持つなら、メインシステムとしても使えるし、 “本気” のサブシステムにも最適だろう。そして相変わらずコストパフォーマンスが高い。

プロフェッショナルユースでは既にアクティブスピーカーが主流となっているが、システムをシンプルに構築できること、デジタル伝送とマルチアンプ駆動による鮮度の高い音が享受できること、さらにBluetoothの利便性の高さも利用できるなど、A100 BT5.0には多くのアドバンテージがある。そして、デジタルケーブルや電源ケーブルを変えて音質を上げる楽しみも残されているのも嬉しい。シンプルだが、たいへん使いがいのあるスピーカーだ。

(協力:株式会社ユキム