“音質徹底追求”の特別機、パイオニア「Stellanova Limited」

 
 
山之内 正
 
PhileWeb
 
パイオニアのワイヤレスハイレゾ再生システム「Stellanova」に特別限定仕様モデルが登場。徹底的に音質へこだわった新モデルの実力を、評論家の山之内正氏が2回連続企画でチェックした。初回となる今回は、スピーカーでの比較試聴を実施。はたして、大きく価格差がある高級スピーカーでも鳴らすことができるのか!?


徹底的に音質へこだわったリミテッドモデル(左)をスタンダードモデル(右)と比較試聴


■基幹パーツの大幅変更で徹底的に音質を追求した特別仕様機

高音質とワイヤレスの利便性を両立させたパイオニアの「Stellanova」シリーズに、限定仕様の上位モデルが追加された。DAC内蔵アンプとワイヤレスユニットで構成されるStellanovaの使い勝手の良さを継承しつつ、出力向上と音質改善を実現したという特別仕様だ。ベース機との聴き比べも含め、Limited仕様の実力を検証する。


評論家の山之内正氏が製品の実力をチェック


特徴的な非対称デザインとスリムなボディはそのままだが、Limitedが独特の高級感をたたえているのは、質感の高いアルマイト加工をダブルで採用しているからだ。まずは全体をブラックアルマイトで仕上げ、さらにエッジ部にダイアモンドカットを施した上でカッパーアルマイト処理を行うことで、立体的な外観を獲得。あえて手間をかけ、手作業による加工にこだわっている。


“Stellanova Limited”「APS-S202J-LM」


ミニマムなサイズを維持したまま出力アップとノイズ低減を実現するため、Limitedバージョンではアンプ回路のLSIをはじめ、音を左右する基幹部品を大胆に変更した。変更点数はDACアンプで101点、ワイヤレスユニットでは32点に及ぶというから、回路構成はほぼ共通とはいえ中身は別物と言っていい。DACアンプICの出力は従来比2倍の30W+30Wに増え、ヘッドホンICの出力は25mWから138mWと5倍以上に強化されている。スピーカー、ヘッドホンどちらも低インピーダンスモデルへの対応を広げたことも見逃せない。


USB DACアンプの基板は101点ものパーツ変更を行っている


アンプ性能をそこまで強化したのはなぜか。それは、Stellanovaの利用スタイルが予想を超えて広がるなか、本格的なスピーカーやヘッドホンでも楽しみたいという要望に応えるためだ。スタンダードモデルはデスクトップ型などの小さなスピーカーに最適な規模のアンプを積んでいるのだが、上位グレードのスピーカーやヘッドホンを鳴らすとなると、出力も含めて少し役不足と言わざるを得ない。アンプ性能を大胆に見直し、余裕を持って鳴らすことを目指したのだ。

■スタンダードモデルとの違いを比較試聴

駆動力と音質の向上で再生音がどう変わるのかは、実際に聴いてみないとわからない。そこで、まずはStellanovaの純正スピーカー「APS-SP101J」と組み合わせて標準仕様とLimitedバージョンを聴き比べてみることにした。デスクトップ向けの小さなスピーカーで音の違いを聴き取れるのだろうか
 
 
 
 
 
 
スマホとパソコンの両方で音の違いを確かめる。まずはiPhoneに保存したハイレゾ音源とAAC音源を専用アプリ「Wireless Hi-Res Player~Stellanova」で再生し、Wi-Fi経由でStellanovaのワイヤレスユニットに送信、同ユニットとUSB接続したDACアンプでAPS-SP101Jを鳴らす。設定はBluetoothほど簡単ではないが、一度設定してしまえば選曲操作はスムーズで、StellanovaとiPhoneをダイレクトにつなぐアクセスポイントモードなら音の途切れもほとんど起こらない。


製品を確認する山之内氏


まずはスタンダードモデルから聴く。ハイレゾ音源だけでなく、ミュージックアプリに保存したAAC音源を聴いても、音のこもり感や歪っぽさのない澄んだ音が楽しめる。スリムなラウンド形状のキャビネットがプラスにはたらくためか、特にヴォーカルやギターに余分な音が乗らず、風通しの良さが印象的だ。

低音は絶対量としては限界があるが、ヴォーカルを支えるベースの動きやピアノの和音を支える低音が消えてしまうことはなく、バランスが高音寄りに偏ることもない。音圧感についても、このシステムで聴いている分には特に不満を感じないし、ハイレゾとAAC音源の違いはもちろんのこと、BluetoothとWi-Fiのクオリティ感の違いも確実に聴き取ることができる。


背面端子部(上:USB DACアンプ/下:ワイヤレスユニット)


■Limitedモデルは「一音一音の質感が高まり、発音がクリアに」

Limitedで同じ曲を聴くと、見通しの良さに加えて、声の潤いや息遣いの生々しさ、そしてアコースティックギターの発音の鮮やかさなどが実感できる。

一音一音の質感が高まり、発音がクリアになるなど、特にハイレゾやロスレスの音源で違いがわかりやすいが、圧縮音源についても、アプリのアップコンバート機能「マスターサウンドリバイブ」をオンにすると鮮度が上がる印象を受けた。曲によっては音圧が上がったように感じられることもあるので、ぜひ試してみることをお薦めする。


CD音源や圧縮音源の高周波成分復元や量子化ノイズ除去などを行い高音質化する独自技術「マスターサウンドリバイブ」を利用可能


次にStellanovaのDACアンプにMacBook ProをUSBケーブルで直接つなぎ、ハイレゾ音源を聴いてみた。使い慣れた再生ソフトやストリーミングサービスのアプリをそのまま使えるし、デスクトップで聴くなら有線接続でもケーブルの取り回しに苦労することはない。

レンジの広いクラシックのピアノ作品を再生すると、スタンダードモデルとLimitedモデルで低音の鳴り方が明らかに違うことに気付いた。Limitedにつなぎ替えると、低音の響きの違いで演奏している楽器のサイズやメーカーごとの特徴が聴き分けられるのだ。

低音の豊かさに定評のあるベーゼンドルファーらしい音が、スリムなDACアンプと小さなスピーカーの組み合わせからも聴き取れるのだ。StellanovaのDACとオーディオ回路は基本的に原音に忠実な信号処理を行っているはずなので、ここではアンプの性能の違いがそのまま音に現れたと考えるべきだろう。

■難敵・高級スピーカーも鳴らせるのか?

Limitedのアンプ性能はかなり期待できそうなので、ここでフロア型スピーカーで聴いてみることにしよう。用意したのはモニターオーディオのPlatinum 200 II。ペアで100万円を超える高級スピーカーというだけでも無理のある組み合わせに思えるが、インピーダンスが4Ωで推奨アンプ出力100W以上というスペックの記載を見ると、ますます不安になってくる。


小型なStellanovaでも大型のフロア型スピーカーを鳴らせるのか!?

 

 

 

 

Stellanovaのスタンダードモデルで試しに鳴らしてみると、案の定あまり思わしくない。低音が緩めでインパクトが弱く、声やホーン楽器の音圧感が物足りないし、音量を絞ってもなんだか距離が遠く感じられるだけで、音が前に出てこないのだ。少なくともミドルクラス以上の本格的なプリメインアンプで鳴らすべきスピーカーだから、最初から無理がある。ここは早々に諦めて、Limitedにつなぎ替えた。


USB DACアンプのボリュームコントロールノブ


アンプでここまで音が変わるかと思うほど、結果は明らかだった。ベースは一音一音のグリップが緩まず音に芯があるし、ヴォーカルやサックスはスーッと前に出て実在感のある音像が浮かぶ。河村尚⼦のベートーヴェン《ハンマークラヴィーア》は楽器が隅々まで鳴り切っているのにフォルテシモでも響きが濁らず、力強い低音がフルサイズのグランドピアノならではの重量感を伝える。

小型スピーカーではあえて聴かなかったオーケストラも聴いてみる。ムターが独奏ヴァイオリンを弾いたジョン・ウィリアムズ《ドニーブルーク・フェア》の管弦楽は重心が低く、ステージの奥まで楽器が立体的に並ぶ。その手前中央にヴァイオリンソロのイメージが安定して定位し、オーケストラの関係がとても立体的だ。


取材時の様子


また、今回は本誌試聴室だけでなく、筆者の試聴室にもStellanova Limitedを持ち込み、ブックシェルフ型スピーカーとも組み合わせてみた。

特に相性が良かったKEFのLS50では、フォーカスの良いヴォーカルとリズム楽器がクリアに分離し、前後の奥行きを感じさせるサウンドステージを再現した。Platinum 200 IIに比べるとかなり低能率のスピーカーだが、フロア型スタンドに載せて2メートルほどの距離で聴いた限りではまったく音圧不足を感じることはなかった。Stellanova LimitedのDACアンプは侮れない性能の持ち主だ。

■「ダイナミックレンジも広がり、重要な微小信号も失っていない」

Limitedに替えることで生まれた音の変化は、チャンネルあたりの出力が倍増したことだけでは説明がつかない。ノイズと歪を抑えることでS/Nが改善し、ダイナミックレンジが広がっていることは明らかだし、音の立ち上がりや空間情報など微小だが重要な信号も失っていない。

今回聴いた曲では、音圧の点でも不満は感じなかった。部屋を鳴らし切るほどの大音量を望むなら別だが、常識的な音量の範囲ならこれで十分に楽しめる。

次回はStellanova Limitedの実力をヘッドホンで検証する。

(提供:パイオニア株式会社)