エソテリックの旗艦プリアンプが正統進化。構成回路を一新し音楽の旨味をさらに引き出す

 
0.1dB刻みのボリューム回路を新開発
 
 
 

角田郁雄

 

 

 

 

 

エソテリックの最高峰であるGrandiosoシリーズのプリアンプ「C1」がXエディションへと進化を遂げた。セパレート2シャーシ構成の美しい外観はほぼ継承されているものの、その内容はフルモデルチェンジ。新たな回路技術を搭載した新時代の最高峰プリアンプにふさわしい仕上がりとなっている。同社の試聴室にて、従来機との比較を交えながらその技術と音に触れていくことにしよう。


ESOTERIC プリアンプ「Grandioso C1X」(3,500,000円/税抜)。右手前が本体、左奥が電源部(photo by 田代法生)


■プリアンプGrandioso C1が7年ぶりに刷新。Xエディションになってついに登場

愛用するスピーカーとコンビを組むオーディオシステムの中で、プリアンプの存在は非常に大きいと考えている。時にその力はSACDプレーヤーやアナログシステムなどの音質をいっそう高品位化させ、パワーアンプに再生する音楽のあるべき姿やダイナミックスを送り込むことができるからである。さらにボリュームは高精度であればあるほど、ほんのわずかな調整でリスナーの求める音楽の旨味を引き出すことができ、リスナーの感性をも高めてくれるように思えるのである。


電源部と本体を分けたセパレート2シャーシ式を「C1」から継承。ボリュームと入力セレクターのノブのデザインや、電源部のパワースイッチ下の表示が変更されている


さらに、存在感のある洗練されたデザインも重要で、プリアンプはオーディオシステムの顔ともいえる。見ているだけで所有の喜びまでも感じさせてくれる存在であってほしい。

こんな感覚を感じさせてくれるハイエンド・モデルがこの度登場した。それが今回紹介するエソテリックの最新フラグシップ・プリアンプ「Grandioso C1X」である。

Grandioso C1の後継にあたるモデルであるが、その姿を見て思わず感激してしまう。プリアンプ本体は上下左右シンメトリーのアルミニウム製。その絶妙なウェーブ・デザインは、喩えようもなく美しく、セッティングした部屋のイメージまで支配してしまいそうである。そして、同質素材の美しい外部電源装置との組み合わせでは、美しさだけではなく、凛とした佇まいも漂わせている。

機能も充実している。入力はXLRバランス(同社の電流伝送方式ES-LINK Analogに対応)が3系統、RCAを2系統装備。出力として、XLRバランスとES-LINK Analog対応のXLRバランスを各2系統装備している。


Grandioso C1Xのリアパネル。出力はXLRが2系統と、2系統のES-LINK Analog出力は接続間違えを防止するためXLR端子をあえて逆にしている。電源部はL/R完全独立の給電方式を採用


技術的なことは後述するが、内部回路は左右を完璧に分離したデュアル・モノ・コンストラクション構成で、全段フルバランス増幅回路を搭載している。そして、注目したいのは、外部電源である。電源入力コンセントを2式装備し、プリアンプ本体の左右のアナログ回路に対応させるために完璧な左右分離構造としているのである。

■オーディオマインドを掻き立てる精密感溢れる回路構成

ここからは、プリアンプ本体の技術について、少し詳しく説明しよう。まず内部を観察して感激することは、オーディオマインドが掻き立てられるほどの精密感に溢れた回路である。増幅回路は上段に入力系回路を、下段に出力系回路を配置している。

 
「Grandioso C1X」の本体の内部。完全フルバランス構成で、写真左の上段に入力系回路を、写真右の下段に出力系回路を配置している。C1X専用に新開発した独自の集積型アンプモジュールを搭載。ディスクリート回路と同じように自らパーツや回路を選定し高音質を追求している。なおこのプリアンプモジュールはシャーシに固定しないセミフローティング構造を採用している


信号の流れに従って説明すると、まず上段の基板では、全段バランス構成であることから、XLRのみならずRCA入力もまずはバランス化される。そしてセレクターとなるが、入力される信号を選択する素子として、今回はリレーを使わず画期的なFET素子を採用したことが注目点である。この採用により、リレー接点による音質変化や長期経年劣化を防ぐことが可能になるのである。

次に信号は下段の出力系回路に接続し、音量調整器に接続する。ここでは、同社が新規開発したこれも画期的な半導体ボリューム「UFA-1792(ウルトラ・フィデリティ・アッテネーター1792)に接続する。


ボリュームは固定抵抗切り替え式でありながら、0.1dB/1,120ステップという驚異的な解像度と滑らかなカーブを実現する新開発「ウルトラ・フィデリティー・アッテネーター・システム」を採用


これはGrandioso C1の0.5dB刻み200ステップから、0.1dB刻み1120ステップに精度を大幅に向上させていることが特徴。小さな半導体の中に最大1792通りのアッテネーター・マトリックス回路を内蔵しているのである。


両面にボタンを配した画期的なアルミ製リモコンが付属。Grandioso C1Xのほか、ESOTERIC製のSACDプレーヤーやネットワークプレーヤー、DACの基本操作が可能


これにより、ほとんど円形抵抗体をブラシで擦る軸摺動型ボリュームと同等の滑らかで連続的な音量調整が可能になり、しかも超高精度で、長期にわたり音質劣化のないボリュームを実現したのである。また、左右の高精度なバランス調整にも機能すると同時に、メカ的にも手動操作感も高めているのである。

このボリュームを通過した信号は、最終増幅を行う前述の電流強化型バッファー「ESOTERIC-HCLD」に接続し増幅され、アナログ出力される。ここには、大容量のコンデンサーであるEDLCアレー(スーパー・キャパシター)を使用した安定化電源回路を配置している。この回路は、バッテリーと同等のピュアで余裕のある電源をHCLDアンプに供給し、ドライブ力とダイナミックレンジ拡張を実現していると推察している。


スルーレート2,000V/μsを誇る電流伝送強化型出力バッファー回路「ESOTERIC-HCLD」。ここで増幅され、アナログ出力される仕組み


ここで筆者が驚嘆したことは、XLRバランス出力の1出力ごとにHCLDバッファーを2パラレルで使用していることである。ここまでやってしまうのか、と思うほど、超強力にドライブ力を高めていることに驚いてしまったのである

 

 

 

ディスクリートのアンプモジュールや重量級の外部電源を新設計

C1Xの魅力はそれだけではない。同社は半導体ディスクリート・アンプモジュール「IDM-01(インテグレーテッド・ディスクリート・アンプモジュール01)を開発。独自の電流伝送方式である「ES-LINK Analog」の入力アンプ(電流/電圧変換)と出力アンプ(電圧/電流変換)に使用したのである。

この素子はパーツを選択して使用できるディスクリート回路の特徴を備えていることが大きな特徴。しかも、回路面積が狭くでき、外来ノイズの影響を受けず、伝送距離を最短にできる優位性も備えているのである。なお、これらの技術を搭載する基板は、音質を維持し振動の影響を受けないようにするため、筐体からフローティング設置されている。

次に重量級の外部電源に注目しよう。内部には4つのトロイダルトランスと大容量ブロックコンデンサーを搭載。これも左右ホット/コールドの独立構成で、プリアンプ本体にクリーンで余裕のある高品位な電源を供給している。


電源部の内部。デュアルAC入力、デュアルDC出力のDCパワーサプライを実現すべく、4基の大容量トロイダルコアとRコア1基による5トランス構成を採用


さらにRコアトランスを使用する制御回路専用電源も搭載し、 まさにマッシブな電源回路を実現しているのである。なお、C1Xでは制御回路がアナログ回路に影響しないように光フォトカプラーを使用するほか、再生中のCPUの動作停止、天板のフローティングなど、多数の配慮がなされている。そして、底板やフットにも独創的な機構を採用しているのである。

■演奏前のわずかな空気感をクローズアップ。高解像度で空間描写に優れる

今回は同社のリスニングルームで試聴する機会を得た。最初に楽器数が少なく穏やかなヴォーカル曲『クワイエット・ウィンター・ナイト』を再生した。ここですぐさま感じ取ったことは、格別にS/Nに優れ、高解像度で空間描写に優れていることだ。


試聴は同社の試聴室で行った。スピーカーはavantgardeの「UNO XD」。SACDプレーヤーは「Grandioso K1X」+専用強化電源「Grandioso PS1」を、パワーアンプは「Grandioso M1」を組み合わせ(photo by 君嶋寛慶)


演奏前のわずかな空気感をC1以上にクローズアップし、バスドラムでは微細な響きを伴いながら、タイトに鳴り響いた。中央には微妙に身体の向きを変えながら歌唱する女性ヴォーカルが定位し、その声質には息遣いや粘るかのようなウェットな質感までも再現された。

まさにホログラフィカルな空間描写性で、聴いているとあたかも生演奏を聴くかのような感覚である。そして、右からは木質感を鮮明にしたベースが定位し、中央付近には鈴のようなパーカションの響きが倍音豊かに流れてくる。空間の幅、奥行きをよく再現することも理解できた。

次にアラベラ・美歩・シュタインバッハーの『ヴィヴァルディ:四季&ピアソラ:ブエノスアイレスの四季』を再生した。ここで私が注目したことは、極めてワイドレンジで、音の立ち上がりが素早いことであった。冒頭のピアソラでは、音数が多く膨らみのある弦楽パートが立ち上がり良く鳴り響き、その中央にストラディヴァリウスを奏するアラベラがリアルに定位。まさに切れ味が良くスリリングと言えるソロが堪能できる。


アラベラ・美歩・シュタインバッハー、ミュンヘン室内管弦楽団『ヴィヴァルディ:四季&ピアソラ:ブエノスアイレスの四季』(PENTATONE PTC5186746)


しかも、実に濃厚な響きを聴かせてくれるのである。この響きにはクラシックファンもきっと惚れ込むことであろう。立ち上がりが俊敏であっても、アタック感や硬さを不自然に強調することはなく、音楽に内包する繊細さや柔らかさや空間性、躍動感を鮮明にするのである。C1Xはこういったサウンド・テイストの再現力が素晴らしいのである。

最近発売されたブルーノ・ワルター指揮、コロンビア交響楽団による最新リマスターSACD『モーツァルト&ハイドン/交響曲集・管弦楽曲集』も聴いてみた。その音質はレコードとは味わいが異なり、ダイナミックレンジが広く、高解像度で臨場感に溢れた演奏が体験できた。C1Xの音を体験したい読者には、ぜひともこのダイナミックレンジの広さにも注目して欲しいし、音量を大小に可変しても、音像定位が変化せず、ここまで滑らかに音量可変できるのには驚いた。

最後にパトリシア・バーバーの『コンパニオン』の中から「ブラック・マジック・ウーマン」を再生した。あたかも最新リマスターしたかのような、生々しくダイナミックな演奏が空間描写され、ここでも驚愕した。

ほかにももっとたくさんの音楽を聴きたい欲求にかられてしまう。なぜなら本機、Grandioso C1Xを通した音楽は、生演奏のように昇華してしまうからだ。これは技術に裏打ちされた音楽の世界だ、と納得させられるのであった。私は本機の誕生に喝采を贈りたい。


 

開発者から

 


エソテリック(株) 取締役、開発・企画本部長 加藤徹也氏


型番にXが足されるだけで、外観はボリュームノブの仕上げが違うのみ……。簡単なマイナーチェンジと思われてしまいそうな変化ですが、中身はオリジナルC1とはまったく別物なんです。プリアンプを構成する「入力切り替え回路」、「ボリュームコントロール回路」、「出力回路」の全てを一新させる挑戦をC1Xに注ぎ込みました。

独自の電流伝送ES-LINK Analogの入出力への対応、全音量域で0.1dBステップのコントロールを可能にするオリジナルアッテネーター素子UFA-1792、ディスクリートアンプと集積回路、双方の有利な点を併せ持つオリジナルアンプモジュール素子IDM-01、各パートの振動を音質的に最適化するシャーシ構造など、エソテリックの新たな挑戦をご自身の耳で確かめてください。

(提供:エソテリック