米軍がポニーテールを解禁した深い理由
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Photo: Romilly Lockyer / Getty Images
米空軍と米陸軍がこのたび、身だしなみ規定の変更を相次いで発表した。両軍とも2月中に新規定を実施する。多くの変更があったが、特に注目されたのはポニーテール解禁などの髪型に関する規定だ。かつては両軍とも女性軍人は、頭髪が長い場合、きつめのお団子にまとめなければいけなかった。 空軍は、ある一定の長さまでなら、ポニーテールやツインテールの三つ編みも許可。また、目を覆わない長さなら前髪も下ろしていいことになった。 陸軍でも短めのポニーテールが許可される。また、以前は禁止されていた女性兵士の丸刈りもOKになるなどの変更が行われた。 一見すると、おしゃれの選択肢が広がったというニュースのようだが、実際にはそれ以上の意味があるようだ。 従来の規則下では、多様な髪質を考慮されておらず、特に有色人種の女性は規則を守るために、脱毛や頭痛などの健康被害に苦しむこともあったという。 そのため今回の一連の変更は重要で、米メディア「リリー」は「軍が軍人の多様性を認識する一歩」と報じている。
20歳で生え際が脱毛
「リリー」は、航空機の重量バランスを管理する女性ロードマスターの声を紹介。2年間の勤務の間、規定を守るためにブレイズ(細かい三つ編みのヘアスタイル)にした髪をお団子にして、ヘルメットの中に押し込まねばならず、20歳にして生え際の脱毛に悩んでいたという。だが、これからは規則内の長さで2本の三つ編みを垂らして勤務することができるそうだ。 こうした問題は一般的だったようで、空軍は今回の変更にあたって女性軍人の意見を聴取し、多くの女性が規定のために、髪のダメージや頭痛、抜け毛に苦しんでいた、とプレスリリースに記している。 また、陸軍のブライアン・サンダース上級曹長は、ぴったりとしたお団子は、脱毛や頭皮の問題を引き起こす可能性もあり、太い、もしくは長い頭髪を押し込むと戦闘ヘルメットのフィット感も悪くなり、視界を損なう可能性もある、と記者団に述べた、と米「ABC」が報じた。 陸軍のニュースについて報じた女性向けオンラインメディアの「グラマー」は、「これまでは、髪質に関係なくお団子にしなければならなかった」が、ポニーテールの許可は「特に自毛でいたいという黒人女性の悩みに対して行われた変更」と、記している
髪質によっては無理!
だが、黒人女性にとって髪型規則を守ることはそれほど難しいことだったのだろうか? アメリカではこれまでにも軍の髪型規則が人種差別的だ、としてニュースになったことがある。その際、黒人の髪質を知らない人に向けて、詳しい説明が行われたので、ここで紹介してみよう。 2014年の報道によると、米陸軍はその年も髪型などの規定を変更。なかには、アフリカ系アメリカ人女性の自毛を生かしたヘアスタイルに関する規制が含まれていた。たとえば、ブレイズの毛束の太さは0.5インチ(約12.7ミリメートル)以下という制限が加えられた。2本の髪を捻ったツイストや髪を束状にするドレッドロックスなどの髪型も定義して禁止された。 これに対し、黒人女性をターゲットにした規則変更だ、という激しい抗議が行われた。 当時の米紙「ニューヨーク・タイムズ」のオピニオン記事で、『髪の物語:アメリカにおける黒人の髪のルーツを読み解く』(未邦訳)の著者は、黒人の髪質について詳しく説明している。 記事によると、ほとんどの黒人の髪は下ではなく、上方向に伸びる。だが2014年の規則変更では、すべての髪の毛が同じように伸び、同じようにスタイリングできると仮定している。多くの黒人の髪は太いため、最初にツイストにしない限り、お団子にできないこともあるそうだ。 また、アフリカ系アメリカ人の元女性兵士も当時、英紙「ガーディアン」にオピニオン記事を寄稿。イラク派遣や訓練の経験を元に、軍隊での髪の手入れの苦労を語っている。 元女性兵士によると、大きめの三つ編み、ツイストやアフロは最も安価かつ容易に手入れができる。有色人種の女性兵士がこれらを禁止されたら、残された選択肢は3つしかなくなる。すなわち化学薬品か熱を利用したストレートパーマか、付け毛だ。化学薬品は有毒であり、特に戦場では維持が難しい。 「技術的なことに踏み込ませてください。野外演習や派遣時には、ブレイズやツイストが一番なのです。電気も水も不足した環境下では、整えられたストレートパーマの髪を維持するのは大変難しいのです。幅の広い三つ編みは、個人で簡単に緩めてやり直すことができますが、許されているきつめの細い三つ編みは何時間もかかり、助けが必要なこともあります」
「髪型差別」禁じる流れ
大きな反対を受けて2014年の変更は、その数ヵ月後にツイストが許可されるなど緩和され、2017年にはドレッドロックスも解禁。さらに2021年の規則変更で陸軍は、ドレッドロックスやツイスト、ブレイズの寸法に関する規則を廃止している。 今回の変更は、黒人の髪質を持つ女性に特に影響を与え、2017年の変更を拡大したものと米「CBS」は報じている。 また、陸軍の規定変更を報じた米紙「USAトゥデー」や米「CNN」などは、髪の毛に関する差別を禁止する流れとして、記事で「クラウン法(CROWN Act)」についても触れた。 「Creating a Respectful and Open World for Natural Hair(自毛を尊重する開かれた世界を作る法律)」の頭文字を取ったもので、特に有色人種がターゲットになりやすい髪型に基づく差別を禁止する法律だ。現在いくつかの州で法律になっているほか、連邦レベルでも下院を通過している。
男性優位、まだ課題はある
一方で、包括性や平等に関してまだ課題は残っている、と指摘する声もある。 「リリー」では、ツイストやドレッドロックにしたい男性軍人もこの議論に含められるべきであったとする女性退役軍人の声も紹介。「男性優位社会の軍隊なので、みんな男に見えるようになるべき、というのが軍隊の統一性の定義」として、更なる変化を期待している。 たかが髪、と思われるかもしれないが、日本でも明るい自毛を黒く染めるように学校に強要されるなど「ブラック校則」が問題になっている。こうした身近な問題に引きつけて考えると、ありのままの姿に矯正を強いられる苦しみが、多少理解できるかもしれない。
COURRiER Japon
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