医療逼迫?政府与党は直ちにコロナ禍の医療緊急事態を改善せよ

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ニューズウィーク日本版

<累計死者数がヨーロッパの1/40に抑えられている日本で、医療崩壊の危機が叫ばれ続けるのはなぜか>

緊急事態宣言には慎重な姿勢を見せた菅義偉首相(12月25日) Nicolas Datiche/REUTERS

 

 

 

 

医療崩壊の危機を連日、日本医師会、東京医師会の会長や都道府県知事が訴えている。

但し、多くの国民にはテレビの中の出来事で実感がわかない。

 

全国に病院は8,203機関もあり、

人口1,000人あたりの病床数は13.2と世界一だ。

世界一の病床数を誇る日本の医療が何故このように脆弱なのか?疑問に思う人も多い。

 

【安川新一郎】 

 

 

 

【動画】中国の監視カメラ網により、BBC記者がたった7分で発見された 

 

 

 

 

それはヨーロッパでは病院の60%~90%が公立であるのに対して

 

日本の病院の8割が民間経営であることに起因するところが大きい。

 

 

 

 

コロナ患者受入を拒否することが経営者として合理的判断だからだ。コロナ患者用に一般病床を空けると稼働率は下がる、患者対応に多くの看護師が必要となる、医療従事者が心無い差別の目線に晒され退職者が増える、更には院内感染を恐れた高齢者の受診が減る──。 

 

多少の協力金をもらえても受け入れたくないのが民間病院経営者の視点だ。 

 

その結果、コロナ対応する医療機関は限られる。

 

感染症指定医療機関はわずか693機関、

病床数は5809床しかない。

 

日本の全病院の8%程度、

病床数として0.4%だけだ。

 

 

東京都でも650ある病院の中心的に受け入れるのは100病院程度だ。 

 

医療法でも医師法でも、都道府県知事が医療機関に指示・命令できないため、対応は自治体が設置者の都道府県立病院中心。

 

国立大学ですら民営化した独立行政法人だから強制はできない。

結果、民間病院の受入は1割に留まる。 感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02.html 病床逼迫、医療のもろさ露呈 民間病院の受け入れ1割 

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF259YB0V21C20A2000000 

 

<医療崩壊はごく一部の病院だけ> 

 

 

「医療崩壊が起きる」というのも正確に表現すると、「せっかくコロナに対応してくれている基幹病院で医療崩壊が起きる」というものだ。

 

基幹病院が崩壊状態になると、高度な手術や救命医療ができなくなるので、国民の救える命が救えなくなるというのも事実ではある。 国民に行動自粛を促すしかなく、それには恐怖を煽るしかないから、一部の病院の医療現場の映像や医師や従事者のコメントを報道で大量に流布させる。マスコミも視聴率が取れるから流す。 今ワイドショーを見ているのは、元々気をつけて引きこもってる高齢者中心。

 

報道による自粛行動の真水の拡大効果なし。高齢者はより病院に行くのが怖くなり検診や定期医療が必要な人も自宅に引きこもる。ワイドショーを見ない若者はマスクだけして街に繰り出していく。 報道によると実は例年より感染防止を徹底しているため、インフルエンザは例年の70%以上患者数が減っている。外出自粛などから交通事故も減少し7%減っている。

 

1~10月で、対前年1万4千人以上死者数はむしろ減っている。 国内の死亡1万4000人減 1~10月、コロナ対策影響か 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB225TI0S0A221C2000000

 

 

 

 

いびつな地域医療体制

コロナ対応以外の医療機関は一部経営的には厳しくなっているが、通常の医療体制においては設備・人員に余裕がある機関も多い。 戦後日本は、医師不足を多くの民間開業医に頼った。結果、海外と比較して民間開業医が多く、医師・設備が分散して存在し、高度医療や緊急事態における柔軟な地域医療連携ができない。この歪みを解消すべく、近年厚労省は、様々に地域医療の役割分担を促進する制度改定をおこなってきたが、地域住民や医療機関の反対等で改革は停滞してきた。その矛盾が一気に吹き出た状況だ。 <医療崩壊を防ぐ為に国はこれまで何をしたか?> 医療崩壊の危機は、思えば3月には今より遥かに患者数が少ない中でも叫ばれていた。それからこれまでの期間、国はいったい何をしていたのか。 これまでの流れは以下の通りだ。 1/28:政令公布←患者・疑似症患者に対する入院措置 2/1:施行 2/14:無症状病原体保有者への措置が適用 3/10:「新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律案」が閣議、13 日に成立、同日公布 3/26:欧州株の流入を受けて「まん延のおそれが高い」として新型コロナに対して感染症法上措置の追加を閣議決定(交通の制限または遮断、建物への立ち入り制限等や健康状態の報告の努力義務を課すことが可能に)。 1月の新型コロナウイルス発生直後に、国会の審議を経ていては緊急対応できないということで閣議決定で進められる「政令」で新型コロナウイルスを「指定感染症」に時限的に指定して、SARS等と同等の2類に「相当」するという判断をした。 「指定感染症」とは、4類以下の感染症法上の感染症、または感染症に位置付けられていない感染症について、1類~3類感染症、新型インフルエンザ等感染症、新感染症に対して行う措置を時限的に準用することができるようにするための感染症法上のカテゴリーだ。 例えば新型コロナウイルスは2類「相当」として時限的に準用されていて入院勧告の人権制限も、都道府県の実情に応じて知事が判断できるという「できる規定」になっている。 いわば、国は新型インフルエンザの特措法の附則の改正をしただけ、感染症法に至っては改正せず措置内容の追加のみ、良く言えば現場で柔軟に運用は可能、悪く言えば知事と都道府県医療保健機関に任せっぱなしの状態だ。 知事として「お願い」は「できる」が強制力を持つ法的根拠は(特に緊急事態宣言解除後は)ない。「3密避けて」「ステイホーム」「5つの小」等、言葉遊びとの批判もある小池知事だが、飲食店にも医療機関にも協力要請を「お願い」することでしか闘えないのが現実だ

 

 

 

保健所によるクラスター追跡は限界

こうした状況を変えてほしいと、小池都知事も、大阪の吉村知事も、全国知事会も特措法の早期改正を春から繰り返し訴えてきた。 法的には暫定運用が続くなか、対応医療機関が逼迫し経済の停滞も長期化すると、指定感染症として結核やSARSと同等の「2類」相当という指定をやめて通常のインフルエンザ並の5類に変更してはどうかという声が経済優先論者から出てくる。 「ほとんどの現役世代は治るただの風邪なのに、過剰な感染症規制で経済を破綻させむしろ自殺者を増やしている」という論だ。極端な意見で5類に指定を移せば、どの病院でもただの風邪として診ることができると経済優先派が主張する。 ただ万一、5類に分類すると入院医療費の自己負担やホテル療養も有料となり、受診しない人が増え、早期治療が行われなくなり、自宅での急変、重症化が多発する。またコロナを特別扱いする法的根拠が失われPCR検査も自己負担、世界の徹底した検査と隔離で収束させようとする流れに逆行する。 感染症法で2類に指定されているわけではなく、2類「相当」なので現場判断で様々な対応が法的には可能なので現場としては「2類相当」での運用を継続するしかないが、明確な基準がないので混乱も起きる。 保健所の負担の軽減は各都道府県や保健所責任者の判断で行うことになる。学校や保育園での陽性者が発生した時、1クラスだけを濃厚接触者と定義したとか、先生のみを濃厚接触者と定義したとか、現場の保健所のまちまちの判断を聞いたことがあると思う。 これだけ陽性率が増えた中では保健所によるクラスター追跡は限界だ。これまで分かってきたことを踏まえて、いよいよ新型コロナウイルスそのものに対する医療防疫対策のきちんとした法整備をすべきではないか。 <暗黒フェーズに入るアメリカ、変異種の発生、続く闘い> 経済優先で感染拡大に失敗したアメリカでは、毎日23万人以上が感染し、3400人以上が亡くなっている。ワシントン大学保健指標評価研究所では来年1月1日には61万人、抑制策を講じず、ワクチン配布が拡大されなければ1月10日には1日当たり100万人の新規感染者が発生するとしている。 年明けのアメリカを待ち受けるコロナ「暗黒」フェーズ https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/12/1100-6_1.php?fbclid=IwAR2pfwA2emXKp_h_7lPvQyzkZS4-UiKRuxrt4AQRXIbJNzI07-IKN7BYIXQ 日本に似た「大人の国民の自主性」に任せて隔離を行わなかったスウェーデンは11月の1カ月で一気に人口当たりの死者数がアメリカ並みに増加。あれだけ徹底した抑止策を取り封じ込めたかに見えた中国でさえ、先日から北京の一部でロックダウンと外出自粛を呼びかけている。

 

 

 

 

 

春から情緒的な呼びかけばかり

そしてこれから待ち受ける変異種は、感染力が1.7倍、これまで少なかった子供にも感染がみられるという。 世界はまだまだ新型コロナウイルスと闘っている。 <国民の危機意識の高まりに合わせ、緊急事態に対応できる特措法改正を> 新型インフルエンザ等対策特別措置法附則の一部改正と感染症法上の2類「相当」という定義で、現場判断で運用することにも限界が来ている。新型コロナの特性に合わせた特措法と感染症法を整備すべきではないか。 そして、多くの民間病院に手厚い協力金と医療従事者の臨時派遣体制を設けて、コロナ対応可能病院を圧倒的に増やす準備をすべきだろう。 「このままでは全国の必要な全ての医療提供が立ち行かなくなる。全ての日本国民が一致団結し新型コロナを打破する意を決するときは今しかない」(日本医師会中川俊男会長)──言葉は勇ましいが、この半年日本医師会としてコロナ対応できる病院の拡大に尽力したのか疑念も残る。 例えば、159万以上ある病床数において新型コロナ対応ベッド数が2万7235床しかないのは、医師会として最大の対応なのか。日本国民を一致団結させる前に、日本医師会の全会員は一致団結して緊急事態にあたっているのか。 但し中川会長としても法的根拠の明確な国の要請ないなかでは各病院の自主的判断に任せるしかないのかもしれない。 国民の多くは「医療崩壊寸前ぎりぎり持ちこたえている状態」という春からの情緒的なコメントの繰り返しに飽き飽きしている。 読売新聞の12/26-27の全国世論調査で66%が「全国で緊急事態宣言を出すべきだ」と回答した。一方で、菅総理は「今は緊急事態宣言を出すべきではない」と答えている。本来、統制を指向する政府と、個人の自由を求める国民の間で奇妙な意識の逆転減少が起きている。 皆、一部の国民の善意と一部の医療者の矜持頼みの「お願い」だけで、具体的な法律に基づく医療・防疫政策を出さない政府にうんざりしているのだ。 新型コロナ感染症を新型インフルエンザ等とみなす期間は、政令により(施行日から)2021年1月31日までと定められている。緊急事態は継続しているが、1年近くに渡る新型コロナに関する知見と国外の豊富な成功事例・失敗事例があるはずだ。 1月の特措法の審議では営業時短要請の支援に留まらず、都道府県知事が民間病院も含めた医療機関に(補償を伴った)より強力な指示・命令が、「本当の医療崩壊」の事態には可能なように、法制度の整備を行うべきだと考える