急斜面の巨石に登って何をしている?

三上 美絵

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2. 落石防止工事

岩塊の側面に取り付けたロックアンカーを岩塊上面から見下ろす。直径50mmで削孔した後、長さ2.1mのアンカーを挿入した。ロックアンカーは、岩塊の正面や側面など計12カ所に設けた(写真:日経コンストラクション)

岩塊の側面に取り付けたロックアンカーを岩塊上面から見下ろす。直径50mmで削孔した後、長さ2.1mのアンカーを挿入した。ロックアンカーは、岩塊の正面や側面など計12カ所に設けた

(写真:日経コンストラクション)

 

 

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 斜面から突き出した巨大な溶結凝灰岩の落石を防止する工事です。

 

 

国土交通省中部地方整備局高山国道事務所が発注しました。岩塊の重さは約500t。岩塊から247m下には国道41号が通っています。

 

 2011年度に実施した調査の結果、岩塊の安定度ランクは「3」。滑落する可能性が大きいことを意味します。岩塊の下部が浸食され、背面にある母岩との結合力を失って崩れる恐れがありました。落石エネルギーは11万5000kJに達します。

 

 「当初は、この岩塊を小割り除去する設計になっていた」。周辺の斜面の約20カ所に散在する不安定な岩塊の落石防止工事をまとめて担う金子工業(岐阜県下呂市)の野中達司所長はこう打ち明けます。

 

 ところが、現地は急勾配で不安定。岩塊にはひび割れが多数あり、小割り作業中に予期しない大割れが生じる恐れもあります。作業が危険になるうえ、国道への落石を防ぐ仮設防護壁などが巨大になり、現実的ではありません。幹線道路の国道を通行止めにするわけにもいきませんでした。

 

 周辺の斜面にある不安定な岩塊は、ワイヤロープ掛け工法やロープネット張り工法、根固め工法などで対策しています。しかし、巨石の重さや勾配のきつさなどを考えると、こうした工法では無理がありました。

 

 

 

岩塊上面から後方の斜面を望む。1カ所のロックアンカーから2本の樹脂被覆ワイヤを延ばし、斜面に打設したロープアンカー2カ所とつなぐ。ワイヤは1本当たり20kNの緊張力を加えて固定する。写真左奥に点在する浮き石などは、ロープネット張り工法で対策した(写真:日経コンストラクション)

 

岩塊上面から後方の斜面を望む。1カ所のロックアンカーから2本の樹脂被覆ワイヤを延ばし、斜面に打設したロープアンカー2カ所とつなぐ。ワイヤは1本当たり20kNの緊張力を加えて固定する。写真左奥に点在する浮き石などは、ロープネット張り工法で対策した(写真:日経コンストラクション)

 

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 そこで、野中所長が発注者に設計変更を提案して、採用されたのが「巨大岩塊固定工法」です。

 同工法はまず、岩塊と岩塊上部の斜面とにそれぞれアンカーを打設。次に、両アンカー間を縦方向に張ったワイヤでつなぎ、岩塊をつるような形で固定します。岩塊の重さに応じてワイヤやアンカーの数を増やすことで、巨石にも対応できます