美しい音色とデザインに感動、FOCAL「CHORA」スピーカー主要モデル一斉レビュー

土方久明

 

 

 

ヨーロッパを代表するスピーカーメーカー、FOCALのエントリーラインを一気試聴!

そのスピーカーを取材する当日、筆者はワクワクとした気持ちを抑えきれなかった。以前にとある企画で聴いて大変感銘を受けた製品で、再び試聴するチャンスが来たからだ。しかも今回はそのシリーズに属す3モデルを一挙に聴くことができるという。それは、フランスのスピーカーメーカーFOCAL(フォーカル)の「CHORA(コーラ)」である。


オーディオファンの間で話題沸騰中の『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』のLP盤とともに。FOCALの一斉試聴に興奮を隠せない土方氏


同社の物語は1979年、フランスのサンテティエンヌにある小さな精密機械工房から始まった。現在はホームオーディオ用スピーカーに加え、1989年にスタートしたプロフェッショナルオーディオ部門や2002年にスタートしたカーオーディオスピーカー部門、さらにフォーカルのDNAを与えられたヘッドホンも大変好評で、いまやヨーロッパを代表するメーカーとして存在感を増している。また、設計から生産まで全てをフランス国内の自社工場で行う数少ないメーカーとしても知られている。

ホーム用スピーカーはトップラインとなる「UTOPIA Ⅲ EVO(ユートピア)」、「SOPRA(ソプラ)」、「KANTA(カンタ)」、「ARIA(アリア)」とあるが、今回試聴するCHORAラインは最もスタンダードなクラスのシリーズだ。

ホームシアター用のセンタースピーカーも含めると全部で4種類ラインナップされている。ここでは3ウェイ4スピーカーの「Chora 826」、2.5ウェイ3スピーカーの「Chora 816」、2ウェイスピーカーの「Chora 806」、ステレオユースのメインとなる以上3モデルを紹介しよう。


左からChora 806(98,000円/ペア)、Chora 816(196,000円/ペア)、Chora 826(220,000円/ペア)。806には専用スタンド(38,000円/ペア)も用意される。すべて税抜


シリーズ共通の特徴は3点ある。1点目は、小型軽量化したボイスコイルと曲率を抑えたドームにより優れたトランジェントと低歪を実現した「インバーテッド・ドーム・トゥイーター」を採用したこと。アルミニウム/マグネシウム合金製の軽量かつ高剛性の振動板で、ユニットの接合部に衝撃吸収素材を使用することで、2〜3kHzの帯域(同社によると人の耳が最も敏感に感じとる帯域だという)における聴感上の歪感を大幅に抑制した。


アルミマグネシウムを採用したインバーテッド・ドーム・トゥイーター


2点目は、ミッドレンジとウーファーを受け持つユニットに、4年もの歳月をかけて開発された「Slatefibercone(スレートファイバーコーン)」を採用していること。この振動板は、見た目がたいへん美しく本シリーズのアイコン的なデザインを受け持っているが、カーボンファイバーにサーモプラスチックポリマーを含浸して成形され、振動板に求められる3要素、優れた内部損失、軽さ、強度の全てを高次元に高めているのが特徴だ。


軽量かつ高剛性の新素材Slatefiberconeをミッドレンジとウーファーに


3点目は、トールボーイ型スピーカーの音楽再生時のリスニングポイントにおけるタイムアライメントを揃えた結果、816と826は付属する台座が若干後ろにスラントしていることだ。


806はスタンドが若干後ろに傾いた形となっている


試聴は輸入元であるラックスマンの専用試聴室で行った。余談だが本試聴室は響きと解像感のバランスが良く、スピーカーやオーディオ機器の能力がよく分かる

 

 

 

 

 

デザインの素晴らしさに加え、価格を超えた再生能力を備える

試聴室に入ると3つのスピーカーが一堂に並んでいて、筆者はその光景を見て思わず頬が緩んでしまった。CHORAラインは、スタンダードクラスとは思えないほどデザインが美しい。フラグシップスピーカーのような絶対的なコストをかけられないまでも、キャビネットやユニットなどのベーシックな部分でのデザインバランスが取れており、前述したスレートファイバーコーンが表現する美しい模様のウーファーやキャビネット素材など外装に使われている素材の質感も巧みに組み合わされている。「さすがフランスのメーカーのスピーカーだ」と言いたくなる。


CHORAシリーズの3モデル、左からChora 826、Chora 816、Chora 806を一気に聴く!


もちろんデザインの良さだけに感激したわけではない。CHORAシリーズを高く評価できるのは音楽をずっと聴いていたくなるような、音楽性と価格を超えた再生能力にある。

音楽ソースはCDとアナログで、アンプにラックスマンの「L-505uXⅡ」、SACDプレーヤーに「D-03X」、アナログシステムはプレーヤー「PD-151」(L-505uXⅡのフォノ入力を利用)と万全の布陣である。なお、カートリッジにはオルトフォンのMC-Q30Sを使用している。


レファレンス機材はオールラックスマン。スピーカーやインターコネクトケーブルもラックスマン製、クリーン電源ES-1200も使用



■美しい音色と躍動感はCHORAシリーズに共通する印象

まずはシリーズに共通する音の印象からお伝えしよう。最も印象的だったのは、美しい音色と躍動感。そしてオーディオ的な尺度である分解能やステージング表現までも合わせ持つ、大変完成度の高い音であるということ。素晴らしいコストパフォーマンスで、3つのスピーカーに備わる音楽性の高さはリスナーを魅了する。また、3モデルとも能率が高く音離れが良いので、スピーカーの周りに音がまとわりつかない。


フロントにバスレフポートがあるのもCHORAシリーズの特徴


「Chora 806」は2ウェイバスレフ型のブックシェルフスピーカー。まずはCDから、マドンナの14枚目のスタジオ・アルバム『MADAM X』を聴取。一聴して音離れが良く、目の前にスカッとリアルに現れるヴォーカルが朗々と歌う、鮮度の高い表現だ。打ち込みのドラムはレスポンスが良い。ブックシェルフスピーカーのアドバンテージである空間表現力を生かした素晴らしい音。


Madonna『MADAM X』(CD)


特に良いな、と思ったのは上原ひろみの『Spectrum』でのピアノの低域の表現力。ひと言で2ウェイと言っても世の中にはさまざまな大きさのスピーカーが存在するが、本モデルのキャビネットサイズ/重量はそれぞれ、W210×H431×D270mm/7.35kgと大きめ。そしてこの余裕あるサイズ感がブックシェルフ離れしたfレンジと、のびのびとした余裕のあるピアノの音を表現している。

次に「Chora 816」を試聴した。使用ユニットは、25mmインバーテッド・ドーム・トゥイーター、16.5cmミッドウーファー、16.5cmウーファーの2.5ウェイ3スピーカー構成。ユニットの数がひとつ増えたことで絶対的な情報量が向上して、先ほどと同じ楽曲を聴くとアーティストとの距離感がグッと近くなる。低域はさらに余裕が生まれてグラデーションが豊かに。


トゥイーター、ミッドウーファー、ウーファーの3ユニット2.5ウェイ構成のChora 816


さらに話題の音源である「ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン」のアナログLPを再生したところ、オーケストラを構成する各楽器がしっかりと像を結んで鮮明なサウンドステージをもたらしてくれる。また、アコースティック楽器の質感に艶があり、ずっと聴いていたくなるような音楽性がある。スタンダードクラスのトールボーイスピーカーは投入できるコストの関係上、ブックシェルフ型よりも低域のコントロールが難しく、迫力は出るがコントラバスなどのリアリティが若干不足するケースも多々経験しているのだが、本モデルはそれがないのも素晴らしい。

■Chora 826ではリアルなサウンドステージが眼前に

最後は、3ウェイ4スピーカーの「Chora 826」を試聴したが、これが今回のハイライトとなった。その素晴らしい表現力は、Chora 816との価格差以上のもので、ひと言で言うとかなりリアルなのだ。分解能、fレンジ、静寂感などオーディオ的な指標が大きく向上しており、上原ひろみは、左側の鍵盤タッチのリアリティと伸びがさらに増す。シリーズに共通する明るく色艶の良い音色も手伝い、天真爛漫とした彼女の世界観を素晴らしく上手に表現する。


最後にCHORAシリーズの真骨頂、826を聴く


LPは筆者所有のブルーノートオリジナル盤、ジャッキー・マクリーン「イッツ・タイム」(BLP 4179)を再生したが、音離れの良いサックスとドラムが眼前に炸裂してグルーブ感抜群である。今回改めて感じたのは、3つのモデルとも、ポップス、クラシック、ジャズと音源を問わず再生でき、しかも各ジャンルの持つ音の旨みを上手に音楽性として表現することができている。しかもこの価格で、だ。


ジャッキー・マクリーン『It's Time!』(LP)


CHORAシリーズを初めて聴いたのは、『NetAudio vol.37』の人気企画「有形と無形のソノリティ」で、スピーカーはChora 826であった。評論家の小原由夫氏と筆者が、歴史的なひとつのタイトルをアナログレコード、CD、SACD、ハイレゾ、ストリーミングと聴いてそれぞれの音質チェックを行うという企画なのだが、スピーカーにはメディアによる音質差に加え、マスタリングの違いによる音色や音調の微妙なニュアンスを表現する必要があり、ソース音源に対して素直な変化を聴かせる必要があった。

その点、Chora 826はオーディオ的再生能力に長けており、しかも音楽性の両立が素晴らしかったので、同一の楽曲をそれこそ10回以上フル尺で聴いてもまったく苦にならなかった。これは本当に素晴らしいことだ。また、その能力を証明するように、Chora 826は世界的に影響力を持つ「EISA AWARD 2020-2021」も受賞している。

音楽を魅力的に鳴らし、しかもデザインの良いこのようなスピーカーが筆者は大好きだ。今回はかなり気に入ってしまったのでことさらに褒めてしまったが、FOCALは他にも大変魅力的な製品が多く、機会があれば皆さんに紹介できればと思っている

 

 

 

 

 

https://www.phileweb.com/review/article/202010/15/4018_2.html