不法移民を欧州に送り込む密航業者、贈賄の仕組み明らかに モロッコ
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モロッコ・カサブランカで、スペインに向かう移民を乗せたボートが沈んで28人が死亡する中、救助活動が行われるのを浜辺で見守る人々(2019年10月2日撮影)
【記者:Cara Tabachnick】
イブラヒム・ディオプ(仮名・33)さんはセネガル出身の移民だ。より良い暮らしを夢見て、モロッコとスペインをつなぐ危険な海峡を渡ろうとした。しかし5年間、いくど挑戦しても沿岸警備隊に発見され、モロッコのタンジェに引き戻された。 ディオプさんは、そこで一筋の光を見出したと言う。沿岸警備隊と良好な関係を築き、見返りとして、移民の密航あっせん業者になる協力を取り付けたのだ。現在は沿岸警備隊に多額の金を払い、サハラ以南の移民希望者をボートに乗せ、海峡を越えさせている。 「沿岸警備隊に、欧州に渡ろうとするのはやめておくべきだと言われた。あちらには何もないから、タンジェにとどまった方がいいと。他の移民希望者をボートに乗せれば、金が稼げると勧められた」と話す。 ディオプさんは築いたネットワークを通し、どこでゴムボートを購入すればいいか、どのモロッコ当局担当者が買収できるかを教わったという。 モロッコ当局は7月、スペインに200人以上の移民を不法入国させたとして28人を逮捕した。欧州諸国や北アフリカ諸国の政府は、越境する不法移民を減らそうと取り組みを強化している。その結果、2019年には不法移民を50%減らすことに成功したというが、ディオプさんの証言を聞くと、違う実態が見えてくる。 ボートでの海峡越えは難しくなったものの、沿岸警備隊からの手助けで「すべて今でも健在だ」とディオプさんは話す。 ディオプさんの主張を一つ一つ立証することは困難だ。しかしモロッコ王立軍・国境警備局の関係者2人が賄賂を受け取り、移民の海峡越えを手助けしたとして禁錮10年の判決を言い渡された最近の刑事事件は、こうした現状を反映していると言える。この事件は、タンジェ南部の沖合で移民40人を乗せたゴムボートが転覆し、32人が水死した事件によって発覚した。 モロッコ北部にある海辺の町マルティルを拠点として移民や若者を支援する人権団体「北部人権監視団」のベン・アイッサ・モハメド代表は、汚職摘発はほとんど進んでいないと指摘する。 「モロッコの問題は、汚職に気付いていても止めようとしないことだ」 英サセックス大学で北アフリカの密輸業を専門に研究するマックス・ガリエン氏は、モロッコでは長年、国ぐるみの汚職が行われてきたと指摘する。ガリエン氏によれば、モロッコをはじめとした北アフリカ諸国では違法行為が黙認される傾向がある。ガソリンその他の生活品の密輸といった軽犯罪や一部の闇取引は、地元住民や地元当局者が極貧状態から脱するには必要悪として見逃されるという。 しかし、違法薬物市場やモロッコ国境での緊張が高まったことで小規模の売人が追いやられ、非道なネットワーク組織が大麻やコカインの密輸、移民の密航を取り仕切るようになったとガリエン氏は指摘する
移民を船で送り出した日の夜は不眠に
過去10年間で欧州連合(EU)はこのような違法事業の取り締まりに3億4200万ユーロ(約420億円)を拠出し、このところ支援を強化している。EU当局関係者によると、EUは2018年に不法移民の密航対抗として、モロッコ政府に1億4400万ユーロ(約176億円)の支援策を適用し、2019年にはさらに1億700万ユーロ(約131億円)を追加した。 国際移住機関(IOM)によると、モロッコからスペインへの渡航に成功する移民の数は1日当たり70人だ。50%近い移民は海を越える地中海西部ルートから越境するが、その道のりは危険に満ちており、移民が乗るゴムボートの多くは沈んでしまう。IOMによると、2019年にはこのルートを利用して289人が死亡した。 現在は、入国管理の支援策のうち、汚職などを監視する厳重な制度が機能しているとEUは主張する。 ディオプさんは23歳のとき、仕事がなく貧しさから逃れるためにセネガルから北へ向かった。欧州にはたどり着けなかったものの、祖国に残した小さい息子に仕送りするためにタンジェで仕事を探さなければならなかった。 セネガル人の仲間2人と共にひと月に一度、サハラ以南のアフリカ諸国から来た移民希望者10人から13人をゴムボートに乗せている。希望者はそれぞれ国境越えに3000ユーロ(約36万8000円)支払い、そのうち2000ユーロ(約24万5000円)を沿岸警備隊に手渡し、見逃してもらっている。ゴムボート調達に300ユーロ(約3万6000円)から800ユーロ(約9万8000円)かかり、その差分で得た利益を仲間2人と分けている。この稼ぎで妻と息子が暮らすセネガルで自宅を購入し、両親や親戚に仕送りできるようになった。 モロッコ・セタートにあるハサン1世大学の教授で、移民の密航問題に詳しいアリ・ゾウベイディ氏は、「変化は始まっている。政府は国境警備のやり方に合わせ、司法当局の取り締まり方を改めた」と話す。「それでも、一部の当局者は汚職に関わる可能性があり、沿岸警備隊が密航業者と良好な関係を築けば、密航を手助けする恐れがある」 モロッコとスペインを分断する狭い海峡に移民を送り込んだ日の夜はいつも、ディオプさんは寝付けない。古都タンジェ中心部の旧市街に構えたアパートから海はほとんど見えない。 夜の間に5度は目が覚め、居間を行ったり来たりしながら、たばこに火をつけ、窓から外をのぞくようになった。 ディオプさんは熱心なイスラム教徒で、一日5度祈りをささげている。「移民のうち半分は海を渡る間に命を落とし、残り半分は国境越えに成功する。まるで人生そのものだ」と話した。「いつかは寿命が来る。それがいつになるかは、私たちにはあずかり知らぬことだ」
【翻訳編集】AFPBB News 「テレグラフ」とは: 1855年に創刊された「デーリー・テレグラフ」は英国を代表する朝刊紙で、1994年にはそのオンライン版「テレグラフ」を立ち上げました。「UK Consumer Website of the Year」、「Digital Publisher of the Year」、「National Newspaper of the Year」、「Columnist of the Year」など、多くの受賞歴があります。
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