どちらがタフか?トランプ、バイデン両氏が中国叩きで競い合い
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11月米大統領選に向けたトランプ大統領とバイデン民主党候補との論戦がし烈化する中で、どちらが対中姿勢でより強硬かをめぐる話題が広がっている。
アメリカでは今世紀に入り、中国の経済的、軍事的台頭とともに、「新冷戦」への懸念など、米中関係への関心が高まりつつある。とくに、今年の大統領選では、トランプ大統領が、安価な中国製品流入で打撃をこうむってきた中西部諸州の農家、中小企業擁護の立場から、対中経済制裁措置などを相次いで打ち出してきた。さらに、コロナウイルス感染が全米を覆い始めて以来、「チャイナ・ウイルス」との表現まで使い、中国への非難をエスカレートさせている。 一方のバイデン氏も昨年、大統領選への出馬表明以来、主だった外交問題発言は控えてきたものの、副大統領だったオバマ政権当時から、対中外交では安保問題含め、共和党以上に厳しい姿勢を貫いてきた。 しかし、トランプ氏がここに来て劣勢挽回のため、一段と対中強硬姿勢を鮮明にする一方、「バイデンは中国にへっぴり腰wimpy」といった批判を繰り返しているため、最近になって本腰で応戦せざるを得なくなってきた。 その背景として、アメリカの有権者が近年、党派を問わず、中国への警戒を強めてきたことが挙げられる。 去る4月21日、「Pew Research Center」が公表した世論調査結果によると、米国民の66%が「中国に対し好感を持てない」と答え、62%が「中国は脅威」とみなしていることが明らかになった。また、習近平指導体制についても71%が「信用できない」と答えた。 「対中脅威」を感じる主な理由として「中国に仕事を奪われた」「貿易赤字をこうむった」などの要因が挙げられているという。 さらに党派別に同様の質問をしたところ、共和党支持者の72%とともに、民主党支持者の間でも62%が「中国を好感できない」と答えた。もはや、対中不信が党派を超え広がっていることを示している。 トランプ政権ではとくに最近、こうした世論動向を踏まえ、中国問題が今年の大統領選の重要争点と位置付け、対中国非難を強めつつある。 ポンペオ国務長官は先月18日、「デトロイト経済クラブ」での講演の中で、「中国の対外政策は敵対的belligerentであり、貿易政策は最も略奪的predatoryだ」「中国指導部は開放的でグローバリズ化の一環などと言っているが、これはジョークにすぎない」などと激しい言葉で中国の“罪状”に言及した。 続いてオブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)も同24日、アリゾナでの共和党集会で「中国共産党はマルクス―レーニン主義の一党独裁であり、習近平国家主席は自らを『スターリンの後継者』と自認している」ときめつけた。 政策面での対中強硬アピールも目立つ。 去る5月下旬には、香港における民主化運動に対する中国の締め付け措置を受け、香港に適用してきた「優遇措置撤廃」方針を発表、6月29日にはより具体的に、軍事転用可能な技術の対香港輸出優遇措置の停止に踏み切った。 そして今月14日には、大統領がホワイトハウス・ローズガーデンで自ら記者会見し、香港の自治侵害に関わった当局者たちへの制裁を盛り込んだ「香港自治法案」と、対香港優遇措置の撤廃の二つに署名したことを明らかにした。
一方のバイデン氏も、対中警戒姿勢で一歩も譲る気配は毛頭ない。 バイデン氏は今年に入り、外交専門誌「Foreign Affairs」(3ー4月号)に論文を寄稿、この中で対中政策について以下のように指摘した: 1.われわれは将来に向けた中国との競争に勝ち抜く必要がある。そのためには、世界の民主主義諸国が一緒になり、(中国による)経済上の濫用と不平等な行為を防ぐとともに、そのもてるあらゆるパワーを結集させなければならない。 2.私は過去、多くの中国指導者たちと何回となく、わたりあってきたのでよくわかっているが、中国は自分の政治モデルを世界に広げるなど、グローバル・リーチ拡大を企図しており、われわれにとってチャレンジだ。それにもかかわらず、トランプ大統領はわが大切な同盟国であるカナダやEU諸国に対し、無節操な関税を課すことによって関係を悪化させてきた。彼はそうすることによって、中国の真の脅威に対処するためのわが方の能力を削ぐことになった。 3.わが国は中国にタフであるべきだ。もし、中国がわが道を行くことを黙認するならば、わが国のテクノロジー、知的財産が米国企業から奪い去られてしまうことになる。 4.中国の挑戦に対処していく最も効果的方法は、わが同盟諸国、パートナー諸国とともに手を取り合って行動することであり、バイデン政権発足後には、これらの重要な諸国との関係修復・強化に乗り出すつもりである。 さらに去る5月には、バイデン選対本部が、トランプ氏の大統領就任以来の対中融和ぶりに焦点を当てたTVコマーシャルを放映、その中で、北京での習近平国家との親密な会談模様を織り交ぜつつ、「コロナウイルス感染により全米で死者3万人以上、失業者2000万人以上が出ているにもかかわらず、大統領は中国の責任には一言も触れなかった」「それどころか、中国はコロナ対策でよくやっていると習近平を賞賛した」などとするナレーションを流した。 最近ではバイデン氏は、香港で国家安全維持法(国安法)が施行されたことに関連して去る2日、ロイター通信を通じ特別声明を発表、以下のように語気強く中国を批判した: 「北京が新たに課した国家安全維持法は、中国体制とは異なる香港の自由と自立を死に至らしめる暴挙であり、私は大統領就任後、厳しい対中国経済制裁を行う用意がある。また、中国国内において、米国市民、企業および組織による言論・集会の自由が弾圧される事態になれば、我々は直ちに対中制裁を実施する。中国ウイグル自治区での強制労働による衣料品などの対米輸出についても、これを禁止するため、より厳格な措置を講じる」 さらに同氏は、トランプ氏にも矛先を向け「中国人民の諸権利を蹂躙する中国政府の最近の動きは、トランプ黙認の下で起こったものであり、彼は習近平の忠臣fealtyになっている」と強く非難した。 折しも、今月初め発売されたばかりのボルトン元米大統領補佐官による回想録『それが起きた部屋』の中でも、トランプ大統領が習近平氏に卑屈な姿勢を見せてきたエピーソードが紹介され、民主党側の主張をある程度、裏付ける結果となっている。 ボルトン氏はこの本の中で「大統領は習近平に『わが国の大豆を大量に買い付けてもらい、私が大統領選で再選できるよう手助けをお願いしたい』と嘆願したほか、習近平体制が中国ウイグル自治区の百万人以上の少数民族を強制収容所に入れてきた措置についても、『まさに正しい措置だ』と述べ、これを支持した」ことなどを暴露した。 上記のようなバイデン陣営の言動を見る限り、対中姿勢はトランプ政権に勝るとも劣らない厳しいものがある
中国指導部により妥協的とみられた方が、より落選の危険が高くなる
そこで対抗上、トランプ大統領個人による中国をめぐる対バイデン批判も一段とエスカレートしつつある。 去る14日のホワイトハウス記者会見で、対中制裁措置を発表した際も、記者団との質疑応答は数人だけにとどめた上、延々1時間近くに及んだ「冒頭声明」の大部分は、バイデン氏の対中姿勢関連に当て、(1)バイデンは、コロナウイルス感染予防目的で中国からの航空便乗り入れ禁止措置を発表した際も、これに反対した(2)バイデンの政治家としてのキャリアすべてが中国共産党への贈り物となった(3)中国はアメリカの競争相手などと彼は言っているが、過去25ー30年の間に中国ほどわが国をめちゃくちゃにした国はない(4)彼は中国なんか問題ではないと言ってきたが、今になって発言を撤回し、(中国相手に)ミスター・タフガイになりたがっている―などと激しくまくし立てた。 このほか、トランプ再選委員会は、重要選挙区向けの30秒スポットTV広告を放映、かつてバイデン氏が副大統領時代に訪中した際、習近平主席とシャンパンを酌み交わすシーンなどを取り入れ、「その中国はコロナウイルスの発生の危険を世界から隠蔽し続けてきた」などと指摘している。 このように、11月大統領選に向け双方が対中バッシングを競い合っている状況について、AP通信は共和党の著名コンサルタント、フランク・ルンツ氏の以下のようなコメントを紹介している: 「中国問題は今回大統領選で、たんなる外交上の争点にとどまっていない。コロナウイルス感染拡大、経済打撃などもからみ、有権者はトランプ、バイデンのどちらが、自分たちの利益をより守ってくれるかを自問している。従って、中国指導部により妥協的とみられた方が、より落選の危険が高くなる。ただ、正直なところ現時点で、どちらが、どうとは言い難い」
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
