まさにiBassoの集大成!異例のこだわりを詰め込んだ“音質最優先”のハイレゾDAP「DX220Max」レビュー
野村ケンジ
https://www.phileweb.com/review/article/202007/10/3891.html
iBasso Audioから、「ポータブルプレーヤーの限界を目指した」という音質重視のDAP(デジタルオーディオプレーヤー)、「DX220Max」が登場した。
全世界999台、
そのうち日本は200台という限定モデルだ。
約20万円という価格ながら、予約開始早々に売り切れが続出しているという。
そんなマニア大注目モデルの魅力と実力を、黎明期からiBasso Audioを知る野村ケンジ氏がレビューする。
iBasso Audio「DX220Max」¥OPEN(予想実売価格:199,000円前後・税抜)
■既成概念を打ち破る、唯一無二のポータブルプレーヤー
iBasso Audioが最高の音を追求したDAP、それが「DX220Max」だ。
名前からは、2017年発売の「DX220」をベースとしているのは確かだが、外見を見ただけだとあきらかに別物。デザインどころか、サイズまでもが異なっている。
一般的なDAPのイメージからすると大きく、厚みのあるステンレス製ボディは、上質で丁寧な仕上げが施されていて、「据置型のコンパクトプレーヤー!?」と勘違いするほどの存在感。
ポータブルプレーヤーとしての既成概念を打ち破る、唯一無二のパッケージングだ。
ステンレス筐体で高級感がある。共振や外部磁気を抑制するので、音質的にも有利だ
iBasso Audioはハイレゾ対応DAP黎明期にいち早く「R10」をデビューさせ、その後も「DX80」「DX200」など印象的な製品をいくつもリリースし続けてきた。DX220Maxの仕様がここまで突き抜けているのも、そんな同社ならではの発想ゆえに生み出されたのだろう。
とはいえ、バッグなどに収めれば、決して持ち運びできないサイズではない。スーツのポケットに入れて…ということは無理だが、外形寸法は85×150×26mm/質量は700gと、他社製品でも近いサイズ/重さのものはある。
■アナログ/デジタルの電源分離など、ポータブルで類のない音質追求
インパクトのある筐体につい目を引かれてしまうが、本質はやはり、サウンドクオリティにかける意気込みだろう。
詳細を見ていくと、オリジナルのDX220に搭載された2基のDACチップ、
ESS社製「ES9028PRO」の
クオリティを最大限引き出すというコンセプトのもと、様々な技術が投入されていることが分かる。
内部基板のイメージ。DACは「ES9028Pro」をデュアル搭載する
なかでも、最注目ポイントといえるのが、
アナログ回路とデジタル回路の完全なセパレート化だ。
薄型コンパクトに作り上げることが正義となるDAPにおいては、どうしてもスペース的な余裕が少なく、各社とも内部レイアウトに苦労している傾向がある。
しかしDX220Maxでは、サイズの制約による音質低下を排除するため、ある程度のボディサイズを確保。
その内部には、電源まで完全セパレート化したアナログ部とデジタル部を備える。
なんと、充電ポートまで別の徹底したこだわりだ。
これにより、デジタル回路のノイズをアンプ部などのアナログ回路に影響させることのない、理想的なシステムを実現したという。
アナログ回路とデジタル回路は、充電ポートまで別の徹底したこだわり仕様
内蔵ストレージは128GBだが、microSDカードで容量の拡張も可能
そして、もともとアナログ方式のポータブルヘッドホンアンプで有名となったiBasso Audioだけに、このDX220Maxでは、徹底したアナログ部の作り込みが見られる。
まず、ヘッドホンアンプ部はDX220のように交換可能なモジュール方式ではなく、
内部固定されたタイプを採用。
「AMP8-交換用アンプモジュール」をベースに新開発した
「iBasso Super class Aディスクリートアンプ回路」を採用している。
この回路は、出力ごとにバイアス電圧を最適化することで、
クラスAレベルの音質と、
ポータブル機器の重要ポイントといえる低消費電力化を巧みに両立させたもの。
これにより、良質なサウンドを確保しつつ、最大14時間の連続再生時間を実現している。
また、コンデンサーなどのパーツ選びやチューニングに関しても、同社ならではのノウハウが投入されている。さらに、アナログ部の電源には、8.4Vの高電圧バッテリーパック2つを一組にして搭載。内部で昇圧せずに利用することで、さらなる音質向上に貢献しているという。
こういった隅々まで徹底したこだわりは、iBasso Audioならでは、そしてこのDX220Maxならではの内容といえる。
■DAPでは異例の採用。アナログボリューム搭載でビット落ちを回避
もうひとつ、ボリュームコントロールも特徴的だ。
DX220Maxでは、チャンネル間の許容誤差が±2dB以下という「高精度4連アナログボリューム」を採用する。
一般的なDAPの「デジタルボリューム」では、ダイナミックレンジの損失、いわゆるビット落ちと呼ばれる音質劣化が指摘されているが、
アナログボリュームを採用することで、こういった音質的デメリットを回避している。
実機を手にしてみると、なかなか面白いことになっていた。ボリュームはデジタル部のボリュームとアナログ部の2つが搭載されていて、どちらも任意にコントロールできるのだ。色々試してみたところ、基本的にデジタル部の音量はMAXかそれに近い数値に固定し、アナログ部で音量調整するのが良さそうだ
デジタル部にも妥協なし。多彩な入出力で使いみちも豊富
一方で、デジタル部分も手抜かりはない。OSはオリジナルと変わらず、Mango OSとAndroid 8.1のデュアル構成。より高音質な音楽再生を求めるユーザーはMango OS、映像コンテンツやWiFi、Bluetooth接続などを利用したい場合はAndroid 8.1と、OSを使い分けられるようになっている。
Mango OSとAndroid 8.1を使い分けることができる
OSを切り替えることで、Androidからストリーミング再生対応のアプリなども活用できる。
残念ながらGoogle Playストアには対応していないものの、
アプリストア「APKPure」が用意されている。
こちらからメジャーなアプリはおおよそ入手できるので、困ることはないだろう。
入出力に関しても、DX220Maxはなかなかのこだわりぶりだ。
アナログ出力は
3.5mmと4.4mmに加えて、
4.4mmのラインアウトも用意されている。
このラインアウト端子はグラウンドにもしっかり繋がっているため、
4.4mm - XLR3pin×2の変換ケーブルなどを用意すれば、ホームオーディオ機器やモニター系のパワードスピーカーなども接続できる。
3.5mm/4.4mmの出力に加えて、4.4mmのラインアウトを搭載
屋外だけでなく、自宅でも本格的なサウンドが楽しめるのは嬉しい。DX220Maxはポータブルプレーヤーではあるが、その音質やサイズを考えると、デスクに置いての利用も活用シーンの1つといえるだろう。
■そのサウンドは「いちど聴いたら、もう元に戻れない」
さて、肝心のサウンドを確かめるべく、数10時間のエージングを行った後、いくつかのイヤホンとヘッドホンを組み合わせて様々な楽曲を聴いてみた。
サウンドは、まさにiBasso Audioの集大成といえる上質さ。
音の広がり感、
ディテール表現、
ダイナミックレンジの幅広さ、
キレの良さなど、
基礎体力の高さは恐れ入るほど。
付帯音をまったくといっていいほど感じさせない、
とてつもなくダイレクトなサウンドだ。
おかげで、ピアノの音は普段より数段ピュアで、ホールへの広がりも含めて、実体感のあるリアルな音色を堪能できた。
ボーカルも魅力的。
女性ボーカルはほんの少しドライで、歯切れの良い歌声を楽しませてくれるし、
男性ボーカルもハスキーで魅力的なサウンドを聴くことができる。
帯域バランスが整っており、帯域ごとの解像感も安定しているのだろう。
どんな音楽ジャンルもそつなくこなす、懐の深さがある。さらに持ち前のリアリティの高さから、ライブ音源とのマッチングがよいのも確か。
DAPでここまで臨場感溢れるサウンドが楽しめることは、そうそうない。
イヤホン/ヘッドホンを選ばず、どんな製品でも上手くならしてくれる点も魅力だと感じた。例えば、BA型ドライバー搭載のカナル型イヤホンでは、普段よりスピード感の高いサウンド。鳴らしにくい音質重視ヘッドホンであっても、低域までしっかり駆動できるので、圧倒的にグルーブ感の高いサウンドを味わえる。
一度この音を聴いたら、もう元に戻れない。そして「この音のためだったら、サイズや重さなどはまったく気にしない!」という気持ちにさせられてしまう、素晴らしいサウンドだ。
(企画 協力:株式会社MUSIN