税込169,950円前後での実売が想定される。
Unique Melody「MEST」レビュー。骨伝導+静電型ハイブリッドの“良い違和感”に満足
高橋 敦
Unique Melodyは、異種ドライバーを組み合わせたハイブリッドドライバー構成の分野をその初期からリードし、挑戦的な製品を投入し続けてきたブランドだ。その彼らからまたしても新たなハイブリッド構成を提案する新モデルが届けられた…のだが、それはこれまでを超えて、「え!?」と一瞬では理解が追いつかないような新発想だった。
ダイナミック/BA+静電型+骨伝導のクアッドハイブリッドイヤホン「MEST」登場
新モデル「MEST」に採用されているハイブリッド構成は、「ダイナミック型+BA型+静電型+骨伝導型」だ。最新のトレンドである超高域用ドライバーへ静電型=EST採用にとどまらず、“骨伝導型ドライバー” までも一挙に導入。しかもその骨伝導ドライバーの使い方が独特なものとなっている。
■他にないクアッドハイブリッド構成。“骨伝導” を最適に使用する、シェル形状や素材も工夫
MESTのドライバー構成は「8ドライバー5ウェイ」との表記。であるが、その5ウェイは低域から高域までを単純に5分割して各ドライバーを割り振ってあるものではない。
彼らが説明するところをイメージ図にまとめると、だいたい以下のようになる。
MESTのドライバー構成イメージ
低域から超高域まではダイナミック/BA/BA/ESTの4ウェイで構成されており、そこは一般的なハイブリッドのそれに類する。
骨伝導ドライバーの使い方は、「他3種によるハイブリッド構成を調和させるまとめ役で、帯域としては中域から中高域をメインに担当する」とのこと。その説明を受けて、作成したイメージが上の図となる。
つまり、このモデルにおける骨伝導ドライバーの役割は、低域を振動で体感させるみたいな主役級のものではなく、メインの4ウェイと重なるように、広めの帯域をカバーすることで全体をうまくなじませる、つなぎ的補助役というわけだ。
その骨伝導ドライバーはフェイスプレート内側に設置。様々な試行錯誤を経て「骨伝導ドライバーが生み出す振動を、フェイスプレートからシェル、シェルから耳へ伝える」形がベストと判断されたという。フェイスプレート側には3Dプリンターによってマウント用のモールド形状が設けられており、内部スペース利用と振動の伝達を共に効率化している。
フェイスプレート内側に設置。フェイスプレート側は中央部が若干凹んだ形状になっている
こうした使い方にフィットする骨伝導ドライバーを選定するのも苦労したという。最終的には、振幅の小ささと周波数範囲の広さを理由に、小型軽量の多層圧電セラミックス骨伝導ドライバーを採用している。
フェイスプレートとシェルはフルカーボンファイバー製。通常のアクリル製シェルよりも軽量ながら強度は高く、加えてファイバーの分布による乱反射が生み出す、独特の黒い輝きも大きな魅力だ。カーボンファイバー素材には骨伝導ドライバーからの振動を効率よく伝えるという役割において、優位でもあるとのこと。
シェル周りでは、同社ユニバーサルモデル全般に共通する、耳へのフィット感の良さ、密着度の高さにも改めて注目してほしい。
同社によれば、シェルを経由しての骨伝導は本来、個人個人の耳に完璧にフィットするカスタムシェルでこそ真価を発揮するものだという。しかし、MESTはユニバーサルモデルでの展開。それを可能にしたのは、同社のユニバーサルシェルが、ユニバーサルであっても十分な密着を確保できるものだからこそだろう。
なお、MESTのシェル形状については、同社従来のものをベースに骨伝導ドライバーに合わせた最適化も施されているという。
十分な密着を確保できる、Unique Melodyならではのフィット感高いシェル形状も、骨伝導ドライバーの機能を最大限発揮するのに寄与している
またフェイスプレート上に視認できる二つのポートのうち、ひとつは「エアフローチューブ」機構。チューブに設置されたフィルターを通して耳道内と外部の圧力を適正に調整、一部の超低域を逃すなどして、耳への負担の軽減と心地よいサウンドを両立する。
この機構は日本版モデルのみの追加装備だ。各国ごとの要望に対する柔軟な対応、それを実現できる技術力や生産体制も、同社の強みと言えるだろう。
「エアフローチューブ」機構を追加し、日本モデルでは二つのポートが備わっている
そして超高域ドライバーに静電型を採用することで、スペック上の再生周波数帯域の高域側は55kHzまで伸びている。といっても、静電型ドライバー採用の狙いはスペック値を引き上げることではなく、繊細なレスポンスなど実際的な音質向上の方だろう。
■滑らかに各帯域が繋がり、ナチュラルで心地よい描写と空間表現を実現
早速、気になるサウンドをチェックしていこう。日本向けチューニングを担当した代理店スタッフ曰く、「聴いたことのないような音、不思議な音がするので、最初は戸惑いながらチューニングを進めた」とのこと。そのご苦労のおかげか、筆者としては、ハイエンドイヤホン全般と並べて聴いても極端な違和感のない、音に仕上げられた印象だ
あえて “違和感” という言葉を用いるなら、異種ハイブリッドの5ウェイあるいは4+1ウェイという複雑な構成のマルチドライバーでありながらも、作り込まれすぎた世界観にはなっていない、というところで、好ましい意味での “違和感” があると言えるかもしれない。
異種ハイブリッド構成ながら、サウンドはナチュラルで忠実な再現力
そこは、悠木碧さんの声だけでサラウンド的に構築された楽曲「レゼトワール」を聴いたときに特に強く感じられた。人の声は人間の耳にとって、もっとも馴染み深い音。だからこそ、人はその変化に敏感だ。
このイヤホンで聴く声には、心地よい手触り感、強めながらもキツくならない質感の表現がある。声の立ち方も素直で、笛の音のようにすっとしたアタックで、かっちりしすぎた滑舌にはならずにすっと耳に入ってくる。
合わせて空間表現も自然。異様なまでにクリアでバーチャルリアリティ感のある空間表現もそれはそれでありなのだが、このイヤホンではとてもナチュラルだ。ひとつひとつの音を明瞭に描き出しつつも、それらを個々にセパレートしすぎずに、豊かな響きの成分による繋がりや重なりを生かした描写、空間配置となっている。
こういった質感表現や空間の馴染みの素晴らしさは、ESTドライバーをうまく使ったモデル共通の特徴と言えるかもしれない。だがESTドライバーが担当する超高域でその持ち味が生きているのは、その下の帯域のダイナミック+BAの部分にまで至る素直なつながりもあってこそだろう。
Mahalia「Karma」はゆったりとした雰囲気のR&Bナンバー。こちらではまず、このイヤホンが現代的なワイドレンジを確保していることも確認できる。ダイナミック+BA+ESTのハイブリッド構成らしい部分だ。
印象的なのは、ドラムスやベースのアタックからリリースまでの推移の滑らかさ。例えばスネアドラムのそれがカツンと硬質で速かったりすると、グルーヴ、ひいては全体のヒップホップ的なニュアンスが強まる。
しかしこちらで聴くと、その部分もナチュラルなので、少しゆったりとしたR&Bのニュアンスが生かさるわけだ。この曲本来の雰囲気としてはこちらが正解だと思う。深く濃いリバーブ、少ない音数でのピッキングニュアンスが際立つギターなど、他のポイントの描写も見事なものだ。
MESTの印象をまとめると、技術面では先鋭的で挑戦的ながら、音作りには作為がなく基本に忠実である。独創的なドライバー構成やカーボンシェルのルックスなどからガジェット的な満足感を、そしてサウンドからはオーディオ的な満足感を、このワンアイテムで手にすることができるだろう。
(企画協力:ミックスウェーブ株式会社
https://www.phileweb.com/review/article/202005/29/3852_3.html