日産・ルノー・三菱自、共倒れ回避へ背水の陣
日産自動車と仏ルノー、三菱自動車の3社連合は5月27日、アライアンスについての新たな強化策を発表した。3社とも業績が悪化しているところに新型コロナウイルスの影響が追い打ちをかけ、後がない状況に追い込まれて強化策を出さざるを得なくなった。
「3社連合は競争力を支える土台だ。これまでは力強い成長を求めて高い販売台数を掲げてきたが、
今後は販売台数ではなく効率性と競争力強化で、各社の収益力向上を狙う」
とルノーのジャンドミニク・スナール会長は説明し、「新型コロナの影響で世界の状況は劇的に変化した」と強調した。
3社連合はかつて海外企業同士の提携の見本と言われてきたが、2018年11月に3社の元会長、カルロス・ゴーン氏が逮捕されて状況が一変。それまで拡大路線を一途に進めてきたが、その拡大戦略が裏目に出て3社とも2019年度の最終損益がそろって赤字に陥った。
世界の販売台数もコロナ危機で3月は日産が前年同月比43%、ルノーが47%、三菱自が47%それぞれ減少。世界中の工場も操業停止に追い込まれ、
日産とルノーは内輪もめをしているどころではなくなり、
3社共倒れの危機に陥ったわけだ。
「ルノーの消滅もあり得る」とはルメール仏経済・財務相が先日、仏メディアに対して行った言葉だが、それは日産や三菱でも同じだ。
「今年は立て直しに向けた大事な年だ。日産は向こう数年間、選択と集中をしていく。
強みに集中し、他の領域は連合の力を活用する。
新型コロナウイルスの危機で厳しい今こそ、やる時期だ」と日産の内田誠社長。
また、三菱自の益子修会長は「過去数年間、あまりにも拡大路線を追求しすぎた。固定費が大きく増え、今は厳しい。軌道修正には連合の力を生かすことだ。どれだけ結果を出せるかが大事だ」と話す。
新たな強化策では、地域ごとに強みなる会社をリーダーに指定し、その会社の工場や販売網などの資産をほかの会社が活用。
日産が中国、北米、日本、
ルノーが欧州、ロシア、南米、北アフリカ、
三菱自が東南アジア、オセアニアを担当する。
また技術面では、
日産が自動運転などの運転支援技術、
ルノーがe-ボディ、
三菱自がプラグインハイブリッド車
といった具合で、リーダーを決めて開発・生産するクルマの比率を2019年の9%から25年には48%高める計画だ。
そして、
車種は2割減らし、
プラットフォームの種類も減らす。
共通化するプラットフォームは今の4割から24年までに8割に増やす。
共通化はプラットフォームだけでなく、ボディまで拡大し、
これらの対応でクルマの
開発費を1車種当たり最大4割削減するという。
文字通り、コスト削減できるところはとことんまでやろうという方針だ。
「数年後にはるかに効率性を高め業界のモデルになれる」とはスナール会長の弁だが、そうなれるかどうかは
コスト削減だけでなく、売れるクルマを世に送り出すことも重要だ。
巨額赤字の日産 株は急反落、スペインでは抗議デモ
日産が閉鎖に向けた協議を公表したスペインのバルセロナ工場をめぐり同国で28日、工場の従業員ら数百人がタイヤを焼くなどして抗議した。地元メディアが伝えた。
スペインのゴンサレス外相はロイター通信に対し、日産の方針は「遺憾だ。見直してもらうよう、あらゆる努力をする」と述べた。
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【井上久男】日産、6712億円の巨額赤字で迫る「内部崩壊の足音」 膿を出し切れない理由
日産大赤字の報道はすでに主要メディアが報じており、驚いた読者もいるだろう。しかし、25年近く自動車産業を取材してきた筆者の見立てとしては、日産の今の窮状からすれば、むしろ赤字額が少なすぎると思う。
一気に膿を出す構造改革ができないことがその要因で、このままでは逐次的なリストラを繰り返し、大きな額の最終赤字が最低でも今後2年くらい続く可能性がある。
ゴーン氏の「無謀な戦略」を引きずり…
最初に断わっておくが、日産が赤字に陥った理由は、カルロス・ゴーン氏の戦略ミスによるものだ。
ゴーン氏は2010年代に入って新興国を中心に無謀な拡大戦略を続けたことで、過剰設備の状態となり、収益性が高かった北米市場で値引き販売で台数を稼いだ。そのため、利益とブランド力の両方が落ちる悪循環に陥った。
さらに、配当利回り6%台(日産株にたとえば100万円投資すれば年間に6万円の配当が得られるという意味)というトヨタの2倍近い利回りにして株価を維持するために、キャッシュを研究開発に回さなかった。その結果、日産の車齢(モデルチェンジサイクル)は約8年と競合他社の2倍近くになり、肝心の商品力で後れをとったことも経営を弱体化させた。
2018年11月にゴーン氏が逮捕されて以来、氏を擁護している人は、人権上の配慮から推定無罪を主張している人(これは当然)、内心「検察憎し」の人、そしてゴーン氏の配当政策の恩恵を受けた人の3パターンあったかと思う。
この「ゴーン戦略」の失敗の傷口を大きくしたのは、ゴーン氏逮捕後に起こった内紛じみた経営上層部の確執や、新社長選任を巡る社外取締役の迷走など「人災」の一面がある。そのツケは、準備不足のまま昨年12月に社長に就任した内田誠氏に回ってきたが、内田氏自身も思い切った経営判断ができずに、もがき苦しんでいる。
日産はなぜこうした現状に陥ったのか。同時に発表した事業構造改革や、日産社内でいま何が起こっているのかに触れながら解説していこう。
下請け企業幹部の「悲観的見通し」
まず、事業構造改革の主要ポイントは、生産能力を18年度の720万台から2023年度までに540万台に落とし、工場の稼働率80%以上を維持することだ。そのために、インドネシア、スペインの両工場の閉鎖を計画している。
日産では、収益をプラスにする損益分岐点が「稼働率80%」とされる。製造現場に多額の設備投資をし、多くの生産要員を抱える自動車メーカーが収益を出すには、販売台数だけではなく工場の稼働率もキーファクターとなる。
生産能力540万台の稼働率80%であれば、年間に432万台を生産しなければ利益が出ない計算になる。日産の20年3月期(19年度)のグローバル生産台数は458万台。今回の新型コロナ危機の影響で、自動車メーカーは全世界で生産台数が落ちて稼働率が下がっている。トヨタ自動車でも4月の世界生産は前年同月比で5割減だった。
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トヨタの豊田章男社長やスズキの鈴木俊宏社長はともに「08年のリーマンショック時よりも今回の方が販売の落ち込みが大きい」と説明している。当然ながら、それが生産にも響いてくる。特に新車投入を抑制して商品競争力が劣化している日産の場合は、トヨタやスズキ以上に状況は厳しい。日産の4月の世界生産は62・4%マイナスだった。
ある日産関係者が明かす。「20年度の日産の世界生産は、19年度からさらに落ちて350万台~400万台の間ではないか」。そうなると、生産台数は前年度比13%~24%のマイナスとなる。
同じような見通しを立てるのは、日産に多くの部品を納める下請け企業だ。北米向け輸出車両を造る、国内最大の生産拠点である九州工場に部品を納入する下請け企業の幹部は「7月までは回復の見込みは立っていない。九州工場の生産台数は19年度に約55万台あったのが、20年度は40万台を切る可能性が高い」と語る。九州工場はざっと3割減だ。
日産の20年度の世界生産は20%から30%程度落ちると見るのが妥当かもしれない。そうなると世界生産は最悪の場合320万台程度となる。稼働率80%=432万台からさらに100万台近く落ち込むことになる。
追加での設備の減損処理に迫られ、21年3月期も大幅な最終赤字は避けられないだろう。ある日産幹部は「このままでは21年3月期は1兆円近い赤字になる可能性がある。コロナ危機から回復するのが長引けば、22年3月期も黒字化は無理かもしれない」と言う。
内田社長は事態を直視しているか?
今後1年半の間に日産は12の新車を投入して巻き返す予定だが、競争は激化しており、ブランドイメージが低下した日産車を値引きせずに販売を伸ばすのは至難の業だろう。
つまり筆者は、この事業構造改革で日産が計画している生産能力の削減ではまだ足りないのではないか、ということが言いたいのだ。これでは、21年3月期の業績が見え始めた時点で追加の能力削減に追い込まれる可能性がある。逐次的な改革は、ずるずると後退しているイメージを与える。
そして問題は内田社長が、最悪の状態を直視していないように見える点だ。
「覚悟をもって改革に臨んでいる」と記者会見では言うものの、この事業計画は「リストラ中心ではない」と内田社長は主張する。減損処理して生産能力を削減する行為を世間一般ではリストラと呼ぶはずだが……。
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生産能力削減にはつきものの、人員削減についても明示しない。「この場においては公表を差し控える。労働組合や政府と真摯に話し合っていく」と内田社長は語る。
ただ、こう説明をすれば、人員削減を検討していると公言したのも同然だ。昨年7月、当時の西川廣人社長が生産能力を22年度までに720万台から660万台に削減し、人員も1万2500人減らすと発表しているが、追加で大規模な能力削減をする以上、人員削減も追加で行われると考えるのが普通だ。
日産社内からも、こうした内田社長の情報開示姿勢を疑問視する声が挙がっている。「人員削減について世間から反発を受けても、早急に詰めて実施しなければ抜本的な固定費削減にならない。事業構造改革で3000億円の固定費削減を打ち出したが、それだけでは足りないはずだ」と、前出・日産幹部は説明する。
経営中枢で起きている「異変」
内田氏の経営姿勢を巡っては、執行部門の最高意思決定機関である「経営会議」でも反発があるようだ。「内田氏が考える執行役員人事案に、文書で抗議した経営会議メンバーもいて関係がぎすぎすしている。特にナンバー2であるCOOのアシュワニ・グプタ氏との関係が最悪」(ある役員)。
別の役員は「内田体制になって役員間でのもめ事が増えて、それで心労を重ねた人事や秘書室を担当していた専務が、心身の健康を害して出社できなくなった。最近やっと回復したかと思ったら、また体調を崩して会社を休んでいる。このままでは会社がもたないと言って、経営中枢にいる理事や部長クラスもかなり退職願を出している」と言う。
最近では、北米事業を担当するホセ・ルイス・バルス副社長(北米日産社長)が6月15日付で一身上の都合により退職することが決まった。バルス氏は昨年4月から北米地区の責任者になっているが、就任からわずか1年余での退任だ。
北米地区の再建は、日産再浮上のカギを握る重要プロジェクトなのに、その責任者が突然の退任とは、組織に何らかの問題が起きていることを匂わせる。
再建は容易ではない
そして極めつけは、日産の財務体質が悪化していることだ。「1兆3000億円のキャッシュがある。少なくとも数カ月分は大丈夫だが、資金繰りの追加の対応策も考えている」とスティーブン・マーCFOは説明する。
自動車メーカーは前述したように固定費が高いため、給料などを含めて多額の資金が必要になる。トヨタの場合で1カ月に1兆円近い現金が必要と言われる。日産の場合も数千億円必要と見られる。現状のように売り上げが落ち続けると、手持ちキャッシュは一気に「蒸発」してしまう。
こうした状況を踏まえて、「内田社長とマーCFOの2人が、中国の国有企業、東風汽車からの出資受け入れ計画を極秘裏に進めていたが、それが社内で発覚し、猛反発をくらっている」(日産関係者)そうだ。反発を受ける理由は、米中冷戦の最中に中国から資本を受け入れれば、米国市場で日産に対する反発が強まり、日産車が今以上に売れなくなって北米再建どころではなくなるからだ。
その関係者は「日産の筆頭社外取締役兼指名委員会委員長は、経産省出身の豊田正和氏だ。もし資本提携交渉にまで発展すれば、経産省の意向を受けて内田氏の解任動議を出すのではないか」と見る。
日産の再建は容易ならざる局面にある。筆者は1998年~99年にかけての経営危機の時も取材をしたが、当時と比べても置かれた状況は悪い。
経営トップ層と幹部層の人材の質が劣化しているうえに、危機感に乏しい。開発や販売などの現場の士気も下がりつつある。
このままでは、
日産には確実に経営破綻の足音が忍び寄ってくるだろう。