ラックスマンの新CDプレーヤー「D-03X」レビュー。MQAも対応“最新鋭ベーシック機”
生形三郎
https://www.phileweb.com/review/article/202005/21/3847.html
ベーシックでありながら最新鋭。ラックスマン創立95周年を記念したCDプレーヤー
オーディオ専業メーカーとして世界最古クラスの歴史を持つ日本のオーディオブランド、ラックスマンより、創立95年周年を迎えたアニバーサリーイヤーを飾るCDプレーヤー「D-03X」が登場した。
ラックスマンの最新CDプレーヤー「D-03X」。価格は268,000円(税抜)
本機は、CD専用機というベーシックな仕様を基本としながらも、独自の音質チューニングを施したMQAレンダリングによるMQA-CDやMQAファイルの再生、そしてDSD 11.2MHzのファイル再生にも対応するUSB-DAC機能が盛り込まれた意欲作となっている。
「D-03X」の背面。デジタル入力にUSB typeBと光、同軸を各1系統ずつ搭載。アナログ出力はRCA、XLRとシンプルな構成
ラックスマンは、1925年国内でラジオ放送が開始となった年、絵画や額縁を輸入する商社だった錦水堂に、ラジオ部が創設されたことに端を発する。長年のラジオ機器輸入販売と共に海外のラジオ/オーディオ機器への研究を重ね、戦後には出力トランスを始めとする高性能パーツを開発し、1958年にオリジナルの管球式アンプを発表。以後、管球式アンプのロングセラー製品を多く生み出しオーディオブランドとしての地位を確立し、トランジスターアンプや管球式キットアンプから、アナログプレーヤー、カセットデッキ、CDプレーヤーなど、ユニークな独自技術を搭載した名機の数々を送り出してきた、日本を代表するハイエンドオーディオブランドである。
そんな同社のアニバーサリーイヤーに新製品として送り出されたD-03Xは、CD専用機でありながらも、ハイレゾ相当の音質をCD再生できることで注目を集める新たなディスクメディアMQA-CDに、老舗のハイエンドオーディオブランドとしていち早く対応したことが大きなポイントだ。
■独自の音質チューニングを施したMQAレンダリングを搭載
同社は現在、新たなフラッグシップとなるD-10Xを頂点とするフルサイズのSACDプレーヤー、管球式出力を持つ木製箱タイプのD-380やA4サイズのスタイリッシュなD-N150といったCD専用機など、幅広いプレーヤーをラインアップしているが、その中で本機は、CD専用機としてはフラグシップとなる、フルサイズのプレーヤーである。
プレーヤーの核となるDAC部には、これまで同社が手掛けてきたDA-250やD-05uなどでも採用実績があるTI社製のPCM1795をデュアル構成(モノラルモード)で搭載。これによって、これまでのノウハウを活かした確かな音質と、高いパフォーマンスを実現する。USB接続では、PCM 384kHz/32bit及びDSD 11.2MHzまでのファイル再生に対応するほか、PCの処理負荷を軽減して再生音質を向上できるBulk Pet転送も利用できる。
DACチップにはテキサス・インスツルメント社のPCM1795をデュアル構成で採用
ディスクメカには、D380やD-N150でも採用実績のある、高信頼ドライブを用いた8mm厚無垢アルミメカベースとボックスシャーシ構造を踏襲し、そこへさらにスチール製トッププレートを追加することで読み取り安定性を強化した。
アルミ製メカベースとスチールトップによる強固なメカドライブを搭載
そして、中でも注目の機能は、MQAへの対応だろう。近年、新たな高音質音源フォーマットとしてタイトル数を増やしているMQA(MQA-CD/MQAファイル)にフルデコードで対応し、MQA-CDはもちろん、USBやS/PDIFからのMQAソースの入力と再生が可能となっている(編集部注:D-03XはMQAデコーダーとしてもMQAレンダラーとしても利用できる)。そしてここからが、ハイエンドオーディオの老舗ブランドならではのこだわりだ。
D-03Xは、ファイルとしてのMQAならびにMQA-CDの再生にも対応していることが大きな特徴
MQAは、デコーダ部でMQAの判定とデコードが行われたのち、88.2kHzもしくは96kHzにオーバーサンプリングされる。そしてレンダラー部で、そのアップサンプリングされた信号を、デジタルフィルターによってそのシステムの最大サンプリング周波数へオーバーサンプリングするという過程を経る。MQAで用いられるデジタルフィルターのインパルス応答波形は、プリエコーが出ないタイプ(Slow roll off)で、ここにMQAの音質的な特徴が現われるという。
そこでラックスマンは、MQAのデジタルフィルターの他に、DAC内部のデジタルフィルター(Sharp roll off)も併用することで、音質を最適化。MQA社のエンジニアと討論を重ね、DAC内部のデジタルフィルター使用を前提に、MQAのデジタルフィルターを若干変更したのだという。結果として、MQA社の認証を通過しながらも、ラックスマン独自の音質が生み出された、というわけだ。この部分が、通常のMQAデコーダ搭載モデルと大きく異なる点なのである。
さらには、MQAデコーダのサウンドを加味した調整は、アナログ回路の定数設定にまで及んでいるという。試聴を繰り返し、音のアタックと余韻がより音楽的に繋がるよう細かくタイミング調整するために、アナログ回路の電源もディスクリート設計を採用した。これらの恩恵は、この後の試聴部分で確かに実感することができた。
ほどよい艶めかしさとしなやかさを感じさせる、充実感のある音楽再生
アンプには、ラックスマンのA級増幅プリメインアンプ「L-550AXII」を用いてB&W 「802D3」を駆動した。L-550AXIIは、いわゆるA級アンプ的な肌触りの良さや音の濃さがありながらも、音のアタックの立ち上がりが良く、剛性感の高い音の骨格や、キリリとした音の明瞭さが魅力的なアンプだ。そこに、明晰でクールな描写の803D3を組み合わせる、という構成になる。
ラックスマンの最新CDプレーヤー「D-03X」を、プリメインアンプ「L-550AXII」と組み合わせて試聴
そしてD-03Xによるソース再生は、それらアンプやスピーカーの個性を、ストレートに、脚色無く引き出している印象である。端的に言ってしまえば、音楽ソフトに込められたサウンドバランスを、そのままの形で引き出すタイプのプレーヤーである。しかしながら、単なる味気ないモニターサウンドではない、音の密度感や存在感が高い、上質なサウンドが実現されているのだ。
CD再生を試聴すると、ピアノトリオでは、ピアノは明瞭かつ厚みのタッチで描かれ、ウッドベースのピチカートもスピード感がありながら豊かな恰幅がある。ドラムスのシンバルアタックは、切れ味良くこちらに飛んでくる。女性ジャズヴォーカルは、歌声にほんの少しスモーキーな質感があり、適度な張り出しを楽しませる。エレクトリックベースやバスドラムも、太く、剛性感の高い弾力を持った、粘りのある充実味溢れる音を聴かせた。
オーケストラソースでは、弦楽器や管楽器の響きに、ほどよい艶めかしさ、しなやかさを感じさせ、しっかりと充実感のある音楽再生を楽しませてくれる。以前、別の組み合わせでD-03Xを試聴した際にも実感していたが、やはり、組み合わせる機器や音楽ソースの素性を的確に引き出してくれるプレーヤーだと再確認する出音であった。
■MQA-CDの再生でも、情報量が多く巧みなディテール表現を感じる
USB入力を用いて、同じタイトルのハイレゾファイル再生を試聴すると、ハイレゾらしいきめ細かさを伴った明晰な輪郭で音楽が描かれ、よりナチュラルなサウンドを楽しめた。SACD再生にこそ対応していないものの、SACD以上の情報量を持つフォーマットが再生可能なUSB入力を持つこと、そしてCDタイトルの圧倒的な数の多さを考えると、本機はとても合理的な選択肢とも考えられる。
そしてMQA-CDの再生音質であるが、先述の手法によって、同社のこだわりを感じさせる音質を実現していることに驚かされた。より情報量が多くディテール表現が巧みで、なおかつ音の分解能、とりわけ低域側の音の解像力が高いのだが、それらは、明晰ながらもあくまで音の運びが自然で、心地よい密度を感じさせる音楽再生なのである。
ちなみに、D-03XはMQAレンダラーとして使用した場合はMQAランプが「紫」に、MQAデコーダーとして使用し、「MQA Studio」音源が入力された場合は「青」、一般的な「MQA Authentic」音源が入力された場合は「緑」に点灯する
筆者が自らレコーディングした音源を、MQAの生みの親でもあるボブ・スチュワート氏にMQA化して頂いたソースでも試聴したが、本機のMQAデコード再生では、先述のような独自の音作りの魅力を、確かに感じることが出来た。
D-03Xは、音楽ソースの魅力をナチュラルかつ上質なサウンドで引き出すCDプレーヤーである。CDはもちろん、ファイル再生やMQA-CDを、ソース本来の音楽性を尊重したバランスで再生し、接続するオーディオ機器の魅力をしっかり味わわせてくれる。脚色のない表現と、確かな基礎能力を持ったCDプレーヤー&DACを求める方に、特におススメしたいモデルである