アビガン、アクテムラ、ストロメクトール…日本の薬が世界を救う日

5/18(月) 11:01配信

現代ビジネス

 

 

 2019年大晦日、中国・武漢市内の医療機関で27人が原因不明の肺炎が発症したことが、中国メディア経由で日本でも報じられた。年の瀬の慌ただしさと56年ぶりの東京五輪を迎える高揚感の中で、このニュースはどれほど深刻に受け止められただろうか。

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 ほどなく、肺炎の病因と判明した新型コロナウイルスは、巧みにヒトの間で感染を広げていった。

 4月初旬、国際連合のグテーレス事務局長は、「第二次世界大戦以降例のない難局だ。多くの人が命を落とし経済は荒廃している」と発言(NHKのインタビューに答えて)。

 5月半ばになっても、暗雲は世界中を覆い尽くしているが、幾筋か光が差しはじめた。治療効果を示すいくつかの薬が実用化されようとしているのだ。

 治療薬候補として名前の挙がる薬のなかに、実は日本人研究者が関わった薬が、ファビピラビル(商品名アビガン)、トシリズマブ(商品名アクテムラ)、イベルメクチン(商品名ストロメクトール)と3つある。筆者は10年以上にわたり、「日本発の創薬」をテーマに取材しており、これらの開発者にも直接取材している。日本の薬が世界を救う日への期待を込め、これらの薬を紹介したい。

 

 

 

 

 

弱毒性なのに新型コロナが怖い理由

 本題に入る前に、新型コロナウイルスについて少し解説しておこう。

 コロナウイルスは、ヒトで風邪の原因となるありふれたウイルスとして4種類が知られているが、この新型ウイルスは、自然宿主であるコウモリに寄生し、センザンコウなどの哺乳類を介して、ヒトへの感染能力を獲得したとされる。

 2003年に流行した重症呼吸器不全症候群(SARS)も、また別のコロナウイルスが原因だったが、こちらはわずか8ヵ月で、世界保健機関(WHO)がグローバルな封じ込めに成功したことを宣言している。SARS発症者は大半が重症化するため、早期に見つけ出して隔離可能だったことが奏功したとされる。

 一方、新型コロナウイルス感染では、軽症者や症状のない無症候者も感染力を持つため、感染拡大に苦慮することになった。

 日本では緊急事態宣言が出され、海外ではより厳格なロックダウンの政策を採った国も少なからずある。これらにより、「ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)」によるオーバーシュート(感染爆発)を防止する効果が期待されている。

 もっとも、地域的な収束の道のりが見いだせても、地球上からこのウイルスを根絶することは難しい。どこかにウイルスが残っていれば、人々が往来を開始した途端、またウイルスを広めかねない。

 ワクチンがまだない中で、人類は、「感染者を抑えること(オーバーシュートの回避)」と「感染者を増やすこと(短期間での集団免疫の形成)」という、明らかに相反する課題に挑んでいるようだ。

 実は、新型コロナウイルスの感染が分かった人のうち、重症化するのは2割程度で、多くの人は軽症で済む。内外の抗体検査によれば、背後には、すでに感染して体内に抗体(侵入した異物を攻撃するタンパク質)ができた人が数百倍いるともされ、重症化率や致死率はさらに下がる可能性がある。

 同じくコロナウイルスの感染では、SARSは致死率10%、MERS(中東呼吸器症候群)は30%である。これらに比べて新型コロナは弱毒性のウイルスでありがら、世界中で強く恐れられている最大の理由は、お墨付きを与えられた治療楽がなかったためだろう。

 たとえば、季節性インフルエンザでは、世界中で毎年25~50万人もが命を落とすものの、オセルタミビル(商品名タミフル)などの治療薬の存在が、安心につながっている。

 新型コロナウイルス感染症に対する薬の開発は世界中で進められている。新薬開発には通常は5~10年といった年月を要するが、すでに承認された楽の中に有効性を示す物が見つかれば、手続きを簡略化してより早く使える可能性があると期待されている。

 

 

 

 

 

 

 

「アビガン」開発者の声

 日本国内で、新型コロナウイルス感染症治療薬として、1番乗りを果たしたのはレムデシビル(商品名ベクルリー)で、米国ギリアド・サイエンシズが、エボラ出血熱の治療薬として開発を進めてきた薬である。

 5月4日、国内で特例承認の申請が出され、7日に承認された。同社は世界第2位のバイオ製薬会社で、1987年の創業以来、感染症治療薬に力を入れており、タミフルの世界独占特許権も持つ。

 レムデシビルは、新型コロナウイルス感染症について日本も参加した臨床試験が行われた。10日間投与により、肺炎で入院した患者の回復までの期間がプラセボ(偽薬)を投与された人に比べて31%有意に短かったことが報告された。

 これを受けて、米国で「緊急使用」の許可が認められた。これは正式承認とは異なるが、日本でも、1:海外で発売されている、2:他に治療薬がない、という2条件を満たすことから、最短の特例承認となった。







 さて、本題に移ろう。

 

 

日本発の3薬のうち、5月中にも国内で承認されると見通しとなったのは、富士フイルム富山化学のインフルエンザ治療薬であるアビガンで、すでに国内でも3000例近く投与されている。

 共同研究にかかわった白木公康氏(千里金蘭大学副学長)は、かつて筆者のインタビュー(2016年9月14日)に、以下の通り答えている。

 アビガンは、治療法がない致死性重症感染症の治療の手段となる可能性が高い。重症感染症患者では、治療をしないという選択が倫理的に困難であり、プラセボ(無治療)との比較試験で有効性を示すことは難しい。しかし、臨床に希望が持てる結果が報告されている。

 100年に1度あるかどうかの有効な薬剤の開発に関われたことは恵まれていた。

 スペイン風邪のパンデミックから1世紀を経て、今こそがその「100年に1度」の時なのかもしれない。

 アビガンの作用メカニズムは、以下のようなものである。

 コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、遺伝物質としてDNAでなくRNAを持つ「RNAウイルス」である。アビガンは、ウイルスのRNAポリメラーゼ(RNAを複製する酵素)を選択的に阻害すると考えられている。レムデシビルも、この酵素を阻害するとされる。

 アビガンは、感染初期細胞では、RNA合成を抑えるために非常に効果が高く、すでにウイルスを産生している細胞でもRNA合成を減少させられる。耐性(ウイルスが薬剤に抵抗性を持ち効きにくくなる現象)がきわめて出にくいことも特徴だ

 

 

 

 

 

 

承認までの苦難の道のり

 アビガンは2014年、インフルエンザ治療薬として、後述する条件付きで、世界で唯一日本において承認されている。

 開発した企業の旧社名は富山化学工業(以下、富山化学)。300年の歴史を持つ“薬売り(配置薬)”で有名な富山で1936年に創業された。

 合成ペニシリン製剤の開発をはじめとして感染症領域に力を入れており、90年代に世界に通用する抗ウイルス薬を創りたいと、ウイルス学者で当時富山大学教授だった白木氏と共同研究を開始した。

 細菌に対する抗菌薬(抗生物質)に比べて、抗ウイルス楽の開発は格段に難しい。細菌などは自ら細胞分裂して増殖するが、ウイルスは最小限の自己複製能力しか持たず、感染した宿主の細胞に寄生して増えるため、宿主細胞に害を与えず、ウイルスだけを抑える薬を創らなくてはならない。

 富山化学は、得意の化学合成技術によって約3万の化合物を次々と創り出し、毎日600ずつ調べていった。細胞とウイルスを入れたシャーレに化合物を加え、細胞が生き残るかどうかを見る古典的な試験を繰り返す中で、インフエンザウイルスの合成を抑える物質が見つかった。

 その化学構造を一部変化させ、薬として最適化したのが、後のアビガンこと、ファビピラビルである。

 海外の提携先探しは難航したが、米国防総省が、エボラ出血熱やラッサ熱なとの致死的なRNAウイルス感染症に使える薬を求めていたことから、12年に約1億4000万ドルの助成金を得ることができた。

 一方、安全性試験では、初期胚の致死(ラット)や催奇形性(サル、マウス、ラット、ウサギ)という重大な副作用が見つかった。流産したり、先天異常を持った子が生まれたりするリスクがあるということだ。

 富山化学は、07年から国内での治験を開始していたが、08年に医薬品事業への本格参入を目指す富士フイルムに1300億円で買収された。これで300億円の開発費を調達すると治験が加速され、11年に日米の治験データに基づき、国内で製造販売の承認を申請した。しかし、通常1年ほどの審査に3年を要した。

 14年3月に承認された際は、但し書きが付いた。他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分な新型または再興型(かつて世界的流行があったが、現在ほとんどの人が免疫を獲得していない)インフルエンザが発生し、国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される、というものだ。当然ながら、妊婦や妊娠している可能性のある人は使用できない。

 新型インフルエンザが発生した場合、新たなウイルスに対しての免疫は誰も持っておらず、ヒトからヒトへと容易に感染してパンデミックを起こしかねない上、重症化する人が増えると予想される。

 このため、有識者会議の提言に基づいて、国内ではインフルエンザ用に200万人分のアビガンが備蓄されている。新型コロナウイルス感染症では、約70万人分とされる。

 そして、ほほすべての人類が免疫を持たない今回の新型コロナウイルスもRNAウイルスであることから、アビガンの可能性が大きく注目されることになった

 

 

 

 

 

 

 

薬禍被害のリスクと向き合う

 国際医療福祉大学医学部感染症学講座主任教授の松本哲哉氏も、アビガンに期待を寄せる。松本氏は、新築の承認に関わる医薬品医療機器総合機構(PMDA)においてアビガンの承認審査のための専門協議の専門委員を務めた。

 松本氏は、「審査の場で参加者の念頭にあったのは、かつて薬禍被害を起こしたサリドマイドのことだった。もし国が承認した薬で1例でも催奇形性の副作用が起これば、非難を免れられないとして厳密に取り扱う薬になった」と語る。

 1950年代に睡眠薬として発売されたサリドマイドは、妊娠初期に服用すると、手足の奇形などの重度の先天異常や胎児の死亡を引き起こすことが後に明らかになった。欧州ではただちに薬剤販売を差し止め回収されたが、対応が遅れた日本には約1000人のサリドマイド被害者(うち認定被害者309人)がいる。

 しかし1990年代に入り、サリドマイドは再び表舞台に登場した。血液がんの一般である多発性骨髄腫に対する効果が確認され、国内でも2008年に再承認された。

 すべての薬には、多かれ少なかれ副作用がある。それは、薬が生体にとって異物、すなわち毒である以上、当然のことである。それでも薬として認められているのは、副作用が明らかかつ許容範囲で、しかもベネフィットがリスクを上回るからである。

 もし、アビガンが新型コロナウイルス感染症を適応として承認された場合にも、妊婦が厳しい判断を迫られる可能性はある。

 アビガンの開発に関わった白木氏は、「服薬の必要性と他の選択肢について十分な説明を受けた上で、納得して服用してもらいたい」と語る。

 日本政府は、アビガンの無償供与の方針を打ち出しており、世界80カ国から要請を受け、半数以上の国へは供給が開始されている。世界を救う薬へと歩みを進めているようだ。

 松本氏は、「中国の症例では、すでに肺炎が重症化してしまった人を回復させることは難しいものの軽症者の治療効果は高い。早期発見・早期服薬で有望な薬になり得るのではないか」と期待する

 

 

 

 

 

 

 

 

重症化しても救命か「アクテムラ」

 日本が誇る2つ目の薬が、中外製薬のアクテムラ(トシリズマブ)である。

 アクテムラは、日本で初めて開発された抗体医薬で、抗体が抗原を認識する特異性を利用した医薬品である。

 この薬には、重症化したコロナウイルス感染症から救命する効果が期待されている。

 感染が判明したうちで約2割に相当する重症化例には、サイトカインストームが関係していると見られている。これは、いわば免疫の暴走である。

 ウイルスの侵入を察知すると、体に備わった免疫系は、大量の免疫細胞を肺へと送り込んで組織の修復を目指す。ところが、ここで免疫が暴走すれば、健康な組織まで破壊しかねないのだ。

 しかし中国では、この「免疫の暴走」をアクテムラ投与で改善させた事例が実際に報告された。中外製薬と提携しているスイスのロシュでは、重症の新型コロナ感染症に対するアクテムラの治験を世界で始めている。

 アクテムラの作用では、免疫学の世界的権威とされる大阪大学の岸本忠三氏らが1985年に発見した、インターロイキン6(IL-6)というサイトカイン(情報伝達タンパク質)が鍵となる。これを阻害して、過剰な免疫応答による炎症を抑える薬である。

 インターロイキンは、免疫細胞のうち白血球(leucocyte)から分泌され、免疫細胞のシグナルとなる。岸本氏が同定したのはB細胞の分化誘導因子で、6番目の発見であるためIL-6と命名された。なお、IL-4(B細胞の刺激因子)とIL-5(B細胞の増殖因子)は、ともにノーベル賞学者である京都大学の本庶佑氏が発見した。

 IL‒6は単なる情報伝達にとどまらず、IL‒4やIL‒5に比べて病とのかかわりが深いサイトカインで、B細胞以外にもあらゆる細胞に作用している。

 とりわけ、免疫細胞が自分自身の細胞を攻撃する自己免疫疾患は、IL-6の暴走が関与しているとされる。この治療薬を目指して、中外製薬と共に「ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体」が開発された。これがアクテムラである。

 まず希少疾患のキャッスルマン病の治療薬として2005年に発売され、より患者数の多い関節リウマチへと適応を広げた。

 岸本氏は、筆者のインタビュー(2010年11月15日)にこう答えている。

 役に立つことをと思ったら、ろくな成果が生まれることはない。我々の場合も、1970年代からの地道な基礎研究が薬につながっている。抗体医薬のように原理原則を突けば、ステップを追って必ず薬や病気の診断になる。「役立つ」ことをまったく無視してもいけないが、追いかけすぎてもいけない。

 アクテムラの場合、最初にIL‒6を見つけて最終的に薬になるまで、すべての道筋に僕がかかわった。1つの教室にヘテロ(異質)な人々が共存し、基礎研究の成果を臨床にどう利用するかを考えることが、画期的な創薬に道を開くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

すでに3億人を救った「イベルメクチン」

 日本発の3つ目の治療薬候補であるイベルメクチンは、発見者である大村智氏(北里大学特別栄誉教授)が、米国メルク社にいたロバート・キャンベル氏と共に2015年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞している。文字通り“世界を救った薬”である。

 イベルメクチンは、1970年代半ばに静岡県伊東市川奈のゴルフ場近くの土壌で見つかった新種の放線菌(Streptomyces avermectinius)の代謝物から生まれた。

 まず、1981年に家畜やペットの抗寄生虫薬として発売されると、動物薬の売り上げトップになり、世界中で食料と皮革の増産につながった。さらに、アフリカなど熱帯の風土病で、失明に至るオンカセルカ症(河川盲目症)の特効薬となり、これにより3億人が失明を免れたとされており、人類への貢献は大きい。

 熱帯の感染症は日本では無縁のようだが、実はイベルメクチンは2002年に国内でも、ストロメクトール錠として発売されている。適応となった腸管糞線虫症は、九州南部や沖縄にかけて数万人の患者がいる。2005年には、ダニにより引き起こされる疥癬の適応も追加された。1回のみ服用すればよく、これら2疾患の特効薬ともなっている。

 寄生虫などの線形動物では、グルタミン酸作動性塩素イオンチャネル(GluCl)という膜タンパク質が神経細胞や筋細胞に存在する。イベルメクチンはこれに選択的に結合するのだ。これにより細胞膜外から流入した塩素イオンが、強い毒性により神経伝達を阻害して寄生虫を死に至らせる。

 新型コロナウイルスへの可能性を試したのは、オーストラリア・モナシュ大学の研究グループで、イベルメクチンが試験管内でサルの感染細胞のウイルス増殖を抑え、劇的に減少させる可能性があることを発表した。

 ウイルスに感染すると、自然免疫作用により細胞の核内にインターフェロンが誘導される。イベルメクチンは、これを抑えるウイルスのタンパク質がインポーチン(輸送タンパク質)と結合して核内へ移行するのを阻害することで、ウイルスの増殖抑制効果を発揮するものと見られている

 

 

 

 

 

 

 

 

新型コロナの死者を6分の1に

 米国ユタ大学のチームが、アジアや欧米の新型コロナウイルス感染症の患者について調べた観察研究により、人工呼吸器を必要とした患者では、死亡率がイベルメクチンを使わない患者は21.3%だったのに対し、使用患者は7.3%と約3分の1だった。

 患者全体の死亡率は、イベルメクチン使用患者が1.4%と、使用していない患者8.5%に比べて約6分の1に抑えられていた。

 これを受けて、北里大学では、新型コロナウイルス感染症を適応としたイベルメクチンの治験を実施する意向を明らかにしている。

 大村氏は、ノーベル賞受賞の前年、筆者のインタビュー(2014年7月28日)に、創薬の成功のための極意を答えている。

 微生物は、何万年、何億年前から、人間に有用な化合物を創っていた。それを見つけただけで、そう自慢にならない。イベルメクチンはメルクとの共同研究が奏功した。当時、産学連携に対して、「企業の片棒担ぎ」と冷ややかな風潮もあったが、私は「使える薬を見つけるには、企業と組まなくてはダメだ」と説得して回った。

 若い人には、「人まねをして失敗しても何にもならないから、独自のことをやってみろ」と言う。自分が何か持っていれば、必ず物質を引き寄せることができる。

 自然は、秩序立ったアートでもある。それを美しいと感じる心がなく、自然を踏みにじるようでは、科学は成功しない。

 日本人が生み出した薬が、世界が直面している未曾有の難局を打破する一助となる可能性があることは、とても喜ばしいことだ。

 このウイルスとの闘いは、総力戦になっている。

 ウイルスの増殖を抑えるアビガンは、早期に使うことで、重症化を防ぐことができる可能性がある。

 一方ですでに悪化して重症の肺炎になってしまった場合は、免疫の暴走を抑えるアクテムラのような薬が致死的になることを防ぐのに有用だとされる。こうした薬は、早期から用いると免疫反応を抑えてしまい、抗ウイルス効果が低下してしまう可能性がある。

 イベルメクチンの使いどころについては、今後の研究が待たれる。

 先発、中継ぎ、抑え……ではないが、さまざまなフェーズで可能性を持った薬があることは、心強い。そして、天然物創薬、有機化学合成医薬、そして抗体医薬という、タイプの異なる薬を創り出す力も、日本人研究者が備えていることは誇れることだ。

 繰り返しになるが、すでにヒトでの実績がある薬であれば、ある程度の安全性は担保されていると考えてよい。

 ただし、もともと適応のない新型コロナウイルス感染症を対象にする際は、用量や用法が異なってくるので、思わぬ有害事象(副作用)が生じる可能性もあり、慎重さが求められる。たとえば、アビガンは、インフルエンザに用いる量の3倍量が必要とされる。

 ゼロから薬から創り出すのに比べて早道ができるとしたら、それは平時の基礎科学の積み重ねによってもたらされている。こうした科学の成果が今後も着実に生み出されるように、基礎科学を支えていかなくてはならない。

 薬の波及効果は大きい。現場の医療者の負担を減らすためにも、創薬の力を維持していくべきだ。

 人類の叡智が、このウイルス感染症を克服する日を信じている。

塚崎 朝子(ジャーナリスト)

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200518-00072467-gendaibiz-sctch&p=7