休校も閉店もせず、小国ならではの対策で新型コロナと闘うアイスランド

4/9(木) 16:20配信

The Telegraph

 

 

【記者:Thor Fanndal】
 小さい島国のアイスランドが、新型コロナウイルスで大打撃を受けていると考えても無理はない。データによると、アイスランドでは人口36万5000人のうち感染者数は約1300人と、人口当たりの感染者が世界で最も多い。

 しかし、暖かい春の日差しに誘われて外に出ると、イタリアやスペインのように通りが静まり返っていたり、店が閉まっていたりする様子はない。カフェやパブ、店は穏やかに営業を続け、学校は休校せず、移動制限もない。観光客ですら、歓迎されている。

 感染者数の多さには、世界で最も積極的に新型ウイルス検査を行っているという背景がある。人口比率で見ると、アイスランドは新型ウイルス対応の手本を示した韓国の5倍、そして英国の30倍の検査をこなしている。

 最新のデータによると、2万2195人が検査を受けている。これは全人口の6%にあたる。このうち1364人が陽性、4人が死亡した。

 当局は感染拡大を遅らせるため、この検査結果を利用して統計学的に感染リスクが高い市民に対し積極的な隔離政策を進めることで、厳格な全国規模の都市封鎖を回避している。

 アイスランド政府で疫学者チームを率いるソロルフル・グドナソン氏はテレグラフに対し、世界各国は新型コロナウイルスと闘うために封じ込め、または予防のどちらかの措置を取る傾向にあると指摘。「まるでどちらかを選択しなければならないと考えているようだが(中略)アイスランドは両方やっている」と話した。

 グドナソン氏の対策チームは警察官と医療従事者60人で構成され、感染が確認されるとそれぞれが個別に調査を行い、接触者を把握する。

 検査を行うのは国民保健サービスで、症状がある患者が対象だ。それに加え、バイオ医薬品企業デコード・ジェネティクスが市民を無作為に抽出してスクリーニング検査を行い、国全体でのウイルスの振る舞いを調査するという世界最大規模の研究を進めている。

 これまでの調査結果で、感染者の50%が無症状だと明らかになった。また、最大40種の変異株があることも分かった。

 デコード・ジェネティクスの創業者カリ・ステファンソン氏は「アイスランドで確認されたすべてのウイルスの地理的起源を特定できる」と述べる。

 重要なのは、大規模な検査と感染経路の調査を行い、ウイルスが急速に拡散する前に接触者を把握することができたため、都市封鎖や隔離を免れたことだ。またそれによって、医療現場にかかる力を緩和できた。

 

 

 

 

 

勝因は周到な準備

 またステファンソン氏は、データが集まることで当局が新型コロナウイルスを抑えるために「より正確な対策を打てる」と言う。これまでアイスランド政府は20人を超える集会を禁じ、ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)について簡単なガイドラインを作った。

 カトリン・ヤコブスドッティル首相はテレグラフに対し、このガイドラインは強制するものではなく、信頼に基づくものだと説明する。「アイスランドは社会的にリベラルな文化が根付いている」「違いや少数派を受け入れるという意味だが、今回の場合は強制するのではなく、(ルールを守ってくれると)信じるという意味だ。我々には軍国主義も軍隊もなじみがない。強要の代わりに協力を求める」と述べた。

 また、科学に基づいた対策を行うことで、ウイルス対策を「政治という戦場から外せる」と話した。

 ガイドラインを限定的にしたことで、多くの店舗で売上は下がったものの、わずかな例外を除き、アイスランド中の店舗で営業は続いている。このためアイスランド市民は朝のコーヒーを買い、地元の本屋に行くことができる。アイスクリーム店に寄り道することすらできるのだ。

 アイスランドの対策の最大の利点の一つは、学校がほぼ影響を受けていないことだ。幼稚園や小学校、中学校は休校せず、高等教育はオンライン授業に移行した。

 グドナソン氏は、教育機関を閉鎖すると、より深刻な社会的影響が出ると指摘する。「研究によると、子どもは大人よりも新型コロナウイルスを拡散しにくいとみられる。我々はすべての決断を、有効性の有無によって下している。現段階での教育機関の閉鎖は、意味ある結果を生み出さない」

 アイスランドの勝因の一つは、周到な準備だ。グドナソン氏は「アイスランドは2019年暮れの時点で、パンデミック(世界的な大流行)に備えるべきだと気付いていた」と言う。

「非常時の体制は明確で効率的だ。また、頻繁に使われていることも特筆すべき点だ。嵐や雪崩でも、火山の噴火でも、パンデミックでも、同様の体制を取る。保健当局はすでにうまく機能している体制やよく訓練された組織、さらに長年培ってきた伝達手段と信頼関係を用いて対策に当たる」

 一方、今月3日、アイスランドで陣頭指揮を取っている国家警察庁国内保安部・緊急事態対策本部のヴィデル・レイニッソン氏は、アイスランド・モデルをあてにしすぎることに警戒感を示した。国の規模や情報伝達の手法、社会の一体性を指摘した上で、「アイスランドだからこそ適用できると考える理由がたくさんある」と話した。【翻訳編集】AFPBB News


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