Schweden    7.693    205    591  
Norwegen    6.086    32    89  
         
Dänemark    5.386    1.491    203
 
Finnland     2.487    300     34
 
 
Island       1.586    559     6
 
 
 
 
 
 
 
 
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新型コロナ危機、なぜフィンランドでは感染者が少ないのか?

4/8(水) 6:31配信

現代ビジネス

 

 

フィンランドの感染者が少ない理由

 フィンランドの「国立保健福祉研究所」は 、予想されていた指数関数的新型コロナ感染の急増は抑えられているという見解を4月1日に示した。

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 その週は、感染者数が急カーブで増えていくと予想されており、応急処置などのために病院前のテント設置、集中治療の設備と医療スタッフ増強、死体保管のためのコンテナ設置など様々な医療体制が急ピッチで準備されていた。

 感染者の急増が抑えられている理由として、これまでの諸対策の効果が出ている可能性があるという。

 10人以上集まらない、人とは最低1メートルの距離をとる、祖父母など高齢者に会いに行かない、家でテレワークをする、不要不急の外出をしないほか、小中高校と大学、図書館、映画館、美術館、レストランやカフェなどの閉鎖、さらに国境とウーシマー県(首都ヘルシンキを含む南フィンランド)閉鎖などの対策である。

 人の接触と移動を減らすことで感染の広がりを抑え、スピードを遅らせるための対策だが、これらの多くは、緊急事態法の部分的な発令を要した。

 フィンランドでの感染はまだ初期段階であり、増大を前提にした対策は続けていくが、政府は4週間に及ぶ懸命の対応を経て、ほっと一息ついた形になった。

 

 

 

 

 

 

政府の具体的な対応

 フィンランドでは1月末、ラップランドを旅行中の外国人が新型コロナに感染していることが報じられたが、当初政府は様子見をしていた。しかし、中国と韓国で感染の急増があり、フィンランドでの拡大にも準備はしていた。

 2月26日、イタリアからの帰国者1人が感染していたことが報じられると、翌27日、マリン首相は国会で、次のようなスピーチを行った。

 政府は、社会保険省と国立保健福祉研究所を中心に各省庁が協力する体制を作り、今後の様々な状況に備えて周到で計画的な準備をしている。最もシンプルな予防は手をよく洗うこと。フィンランドの医療の質とスキルは高い。WHO(世界保健機関)など国際的な機関とも連携し、以前の感染症から得た知識と経験もある。過剰な反応や行動は避けることが重要、といった内容だった。

 このスピーチの時点では、まだ余裕を持っていたのだが、その直後からイタリアで感染の急増が始まると対応が激変した。

 3月中旬以降、平日はほぼ毎日、首相や大臣、医療関係者などの会見が続けられていて、テレビやパソコンで中継を見ることができる。会見は、1日に2度行われることもある。

 この一連の会見に至る間、またその後も首相や大臣、その他関係者の多くは土日も返上、1日16時間労働もあったという、フィンランドでは通常ありえないような働き方だった。

 会見は経済、医療、教育、社会など領域ごとに行われ、それぞれの現状、見通し、対策などが発表される。

 社会的距離を置くため記者は同席せず、質問は遠隔で行う。質問内容は前もって通知されていないが、的確に即答するのは当然のことだ。また、視聴者がチャットの機能を使って質問できる会見もある。

 会見の内容は、その時々の状況に即して具体的だ。子どもや学生、支援を必要とする人、貧しい人、小規模事業者など様々な人たちの生活についても配慮していることがわかる。

 これらの会見では、現在、生活に制約が増えているが、それは極めて例外的な状況であることが強調される。また、不自由になっていく現状を理解し、協力する市民に対する感謝の意が示される。

 フィンランド国営放送は在住外国人のためにアラビア語、ソマリ語、クルド語、ペルシャ語で新型コロナに関するニュースを放映している。

 2018年の統計で、外国語を母語とする人口は約39万人。その内アラビア語3万人、ソマリ語2.1万人、クルド語 1.4万人、ペルシャ語1.3万人である

 

 

 

 

 

 

経済的打撃をどう支援するか

 新型コロナが及ぼす経済的な打撃は計りきれない。すでに航空業、旅行業、飲食業、農業をはじめ各業種業界に大きな影響が出ている。倒産や休業、解雇、失業などによって、経済は5~6%縮小するという予想もある。

 政府が出した経済対策の一つは、50億ユーロ(約5880億円)の「支援パッケージ」だ。企業の倒産防止、個人事業者への支援などを目的としたもので、その後、500万ユーロ(約5億8800円)が追加された。

 現在は、社会保険庁への失業手当、住宅手当、収入補填手当などへの申請が倍増している。そのため、多少の遅れはあるが支払われるので心配しないようにと報道されている。

 フィンランドの社会保障は、選別主義ではなく普遍主義だ。職種にかかわらず、また永住権を持つ外国人にも同じ保障を受ける権利がある。

 

 

 

 

 

 

戦後初めて備蓄庫が使われた

 確認感染者数と集中治療を受けている人の数、死亡者数は毎日報じられている。ただし、すべての人の検査はできないので、実際の感染者数はその20~30倍と言われている。

 フィンランドでは、3月下旬まで1日の検査数は500~1000件程度に抑えられていた。リソースが限られていること、感染者の80%は症状が軽く自宅療養になることなどが理由である。

 しかし、検査数が少ないことに批判があること、検査を徹底した韓国で感染拡大を抑えられたことなどから、最近は検査を増やしており、1日最大2500件の検査がされている。




 症状が軽い人は検査しない、医療関係者を優先的に検査するなどの基準は変わらないが、今後はもっと増やしていく方向にあるようだ。

 感染に関しては、様々なシミュレーションがされている。例えば人口の20%、40%、60%が感染した場合の入院患者、集中治療を要する患者、必要な医療物資や医療従業者の数などである。

 3月下旬には、非常事態のための備蓄庫から医療物資が病院に運ばれた。戦後初めての歴史的な出来事である。何百万という医療用マスクや防衛服、人口呼吸器などの備蓄があるという。場所と数は秘密だが、こうした備蓄庫はフィンランド全土に複数あるそうだ。

 現在は、感染のパターンが予想とは異なってきたため、感染のピークがいつ頃になるかが明言しにくい状況にある。しかし今後、感染者数が医療キャパシティを超えた場合、誰を優先的に集中治療するのか選ばなければならなくなる可能性がある。

 当初は、70歳以上の高齢者と基礎疾患のある人を優先すると言われていたが、最近は回復の見込みのある人を優先するという考え方が出てきている

 

 

 

 

 

緊急事態法発令

 フィンランドで、非常事態宣言が出されたのは3月16日。続いて18日から30日まで3回に分けて、期限つきで緊急事態法が部分的に発令された。緊急事態法発令の目的は、感染者が爆発的に増えて医療崩壊が起きることを防ぐために、増加のスピードを遅らせること。

 最初は小中高校、大学、図書館・美術館などの公共機関と国境が、2度目はウーシマー県が、3度目はレストランやカフェ、バーなどが閉鎖された。

 国境封鎖については、野党の右翼政党「基本フィンランド人」は乗り気だが、政府与党内で慎重意見が出ていた。また当初は、市民の反対が強かった。

 首都ヘルシンキがあるウーシマー県が封鎖されたのは、そこで感染が最も多く、そこからの人の移動によって感染がなかった地方に感染が広がっているため。仕事や避けられない理由がある場合以外、ウーシマー県からの出入りが禁止になり、警察が道路で監視するようになった。

 これらの措置は市民の行動を大きく制限するもので、民主主義の原則に反する。また、疫病に対する不安を利用して、政治的な原則が変えられていく危険性はありうる。この危機に乗じて、3月末に首相の権限を限りなく拡大したハンガリーの例が示すように。

 フィンランド政府は、緊急事態法の発令は防疫を目的とし、あくまでも危機的状況への例外的な対処であること、法治国家の原則を変えるものではないことを強調して、市民の同意を得ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデンの状況

 フィンランドでの新型コロナ感染のスピードは、3月半ばまでは、隣国スウェーデンとノルウェーより早かった。しかし、 3月下旬には状況は逆転、集中治療の数と死者数で、フィンランドは2つの隣国に7日~10日遅れが出ていることが報じられた。

 4月1日現在、フィンランド(人口約550万人)の感染者は約1500人、死者17人。スウェーデン(人口約1020万人)では感染者約4900人、死者239人。ノルウェー(人口約530万人)では、感染者約4600人、死者43人。デンマーク(人口約560万人)では感染者約3000人、死者90人である。

 フィンランドが緊張感を持って対処しているのに、隣のスウェーデンの対応が緩やかなこと、死者が大きく増加しているのにレストランやカフェ、街が普通に賑わっていることは、驚きや当惑を持ってしばしば報じられた。

 スウェーデンの緩やかな対応には、次のような理由がある。

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1 スウェーデンには、政治家が市民の行動を制限する権利がない。政府ではなく役所が、指示ではなく奨励を出す。
2 規制のない日常生活を保つ。危険性について充分な情報を出し、市民の良識ある任意行動を信頼する。
3 感染のすべてを把握すること、拡大を止めることはできない。感染のスピードを遅らせる努力をし、確実に感染を減らせる対策はとる。国境閉鎖より協力が必要と考える。
4 経済への大きな打撃を避ける。経済的・社会的活動を止めず、倒産や失業を減らす。
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 緊急事態に際しても、市民の自由を制限しないという原則を重んじるスウェーデン。どちらが「良い」とは言い難い。しかし、フィンランドでは市民の自由は制限されているが、真剣に市民を守ろうとしているのはフィンランドだという感じ方が強いようだ。

 

 

 

信頼できる政治と社会のシステム

 日本の首相は、新型コロナに関する信頼できる統計や現在の立ち位置、今後の予測、対策などは示すことなく、「ぎりぎりで持ちこたえている」「思い切った手を打つ」などと発言するにとどまっている。

 「お肉券」「お魚券」「一世帯に布マスク2枚」などの案が出されたが、新型コロナによって生活が困窮していく国民を分け隔てなく守るつもりはないようだ。

 フィンランドの首相は、常に明確に現状と対策を語りブレない。その対策は、幅広い支持を得ている。

 防疫と自由の関係についての問い、また感染者数が医療キャパシティを超えた場合、誰に集中治療を受ける権利があるのかという難しい問いは残る。

 しかし、フィンランドで政府は市民と共にある。この危機の時代、信頼できる政治と社会のシステムがあるのは幸いなことだと、実感している。

岩竹 美加子(ヘルシンキ大学非常勤教授)

 

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200408-00071663-gendaibiz-int&p=4