オーディオ評論家はなぜ、マランツの薄型AVアンプ「NR1710」を購入したのか?

 
生形 三郎
 
 
 
 
シェアNo.1モデル”の後継機がプロを納得させた理由
 
 
 
生形氏は「NR1710」のどんなところに魅力を感じ、なぜ自宅導入を決めたのか? その理由を語っていただいた。


生形氏の試聴室に導入されたマランツの薄型AVアンプ「NR1710」(写真中央)



「AVアンプ」はライフスタイルに寄り添ったオーディオ再生を実現してくれる存在

筆者は普段、ステレオ(2ch)オーディオを主としたオーディオ再生を楽しんだり、それら機器の評論の仕事をさせて頂いている。同時に、クラシック音楽を中心とした録音エンジニアとしての仕事もしている。それもあって、録音と再生を探求する目的から、オリジナルのリファレンススピーカー製作も実施しているのだが、ようやく納得できるクオリティのスピーカーが4チャンネル分完成したので、そろそろ腰を据えてマルチチャンネル再生に取り組むべく、AVアンプを導入することにした。加えて、これには別の目的もあった。それは、良質かつライフスタイルに親密に寄り添ったオーディオ再生の探求である。

オーディオは、ご存じのように、極めてストイックな世界でもある。数千円から時に数千万円という広範な価格帯の製品に日々接し試聴しているが、やはり、のめり込めばのめり込むほどに、高価であったり、希少であったり、大がかりであったり、というシステムになっていく傾向がある。実際に筆者もいつのまにか、自宅の決して広くはない部屋に大規模なシステムを展開するようになってしまっていた。

しかしながらその一方で、如何に手軽な規模で、フットワーク軽く、費用を抑えて良い音を楽しむか、ということの重要性や有り難みにも、日々気づかされる。オーディオの魅力を広く伝える意味でも、そのようなシステムは欠かせない存在であるからだ。

そもそもオーディオは、それ自体が趣味として存在するという以前に、本来は、生活の一部として多くの人々にもっと当たり前に活用されるべきものだと常々思っている。そして、それを実現することができるオーディオ機器のひとつが、テレビが中心となる一般的なライフスタイルとも極めて親和性が高い、「AVアンプ」であると思ったのだ。


「お買い得すぎる」。一聴して驚いた「NR1710」のクオリティの高さ

手始めに導入するAVアンプとして候補に挙がったのが、マランツの「NR1710」であった。そもそもの出会いは、マランツの試聴室でハイファイコンポの新製品を聴かせて頂いた時だ。ほかの新製品と同時期に完成して試聴室に置いてあったこのNR1710を、ついでに聴かせて頂いたことがきっかけであった。

 
マランツの薄型AVアンプ「NR1710」(税抜9万円)。高さ10.5cmのスリムボディにフルサイズ製品と同等の機能を納め、マランツならではの音質も妥協なく追求した製品だ。シルバーとブラックの2色をラインナップする


それまでAVアンプにはさほど興味を持っていなかったのだが、このサウンドを聴き、とても驚かされたことを今でも覚えている。そもそもマランツのコンポは、特にエントリーからミドルクラスまでの製品で、圧倒的なコストパフォーマンスの高さを備えていることは熟知していたが、それがAVアンプという枠組みでも同様に実現されていたことに衝撃を受けたのだった。音を聴いた瞬間に、これはAVアンプの方がさらにコストパフォーマンスが高いのでは? とさえ思った次第であった。

実際、NR1710は4K Ultra HD / 60pビデオパススルーやeARCへの対応は勿論、HEOSを搭載しておりストリーミングサービス(Amazon Music HDへも対応済み)やネットワーク再生系の機能は非常に充実しているし、そこにバイアンプという必殺技も使える7.1chアンプが入っていて、さらに音場補正も可能だ。これは、お買い得すぎると思った。実際、市場でも非常に高い人気を誇っているという。そしてリビングでオーディオ再生を楽しむ方もAVアンプを活用しているというデータがあることを知り、大いに納得し、自分のいま求めているものはこれだと思った。なお、テレビとの連携はそのままに、さらに良質なステレオオーディオ再生のニーズへと応えた「NR1200」という製品もラインナップされている。


薄型筐体ながら充実した接続端子を用意。テレビとの連携はもちろん、ネットワーク再生やSpotify等ストリーミングサービスへの対応、BluetoothやAirPlayへの対応、Alexaによる音声操作など、10万円を切る価格帯の製品ながらトレンド機能も抜かりなくカバー。単なる「映画を観るため」の製品ではなく、音楽も含めた多彩なソースを統合利用するための「コントロールセンター」として活躍してくれる

 

 

 

 

 

 

 

NR1710を選んだ決め手は、マランツらしい優れた「サウンド」と「デザイン」

AVアンプは国産ブランドの競合製品が多いが、そんな中でこのNR1710を選ぶ決め手になったのは、やはりそのサウンドとデザインであった。

音に関しては詳しくは後述するとして、マランツのハイファイコンポの形状がそのまま踏襲されているデザインにも好感を持った。AVアンプとしては薄型という部類に入るこのサイズ感は、単体の機器として見たときに、厚みがあり過ぎて長大になることもないが、かといって薄すぎて頼りなく見えることもない、とても収まりが良いサイズだと思う。実は筆者は、同じサイズのネットワークプレーヤーNA8005を使っていたという経緯もある。


単なる四角い箱ではなく両端になだらかなカーブを描くデザインは、マランツの高級モデルから継承している。薄いと言っても決して頼りなさはない、品位ある佇まいだ


また、マランツというブランドが、時代と共にその姿や在り方は大きく変貌を遂げながらも、オーディオ史にその名を深く刻んだ銘機「Model 7」や「Model9」などを半世紀以上も前に生み出したという歴史や存在感を持っているということも、少々大袈裟な話かも知れないが、同社の製品を購入する上で見逃すことができないポイントだと思う。さらに、余談ではあるが、筆者がオーディオの仕事を始めるよりもはるか前、音楽大学に通っていた学生の頃、師事していた作曲科教授の研究室にマランツのオーディオシステムが置いてあり、その上質感のある音やデザインに対して純粋に「かっこいいな」と思った経験も、いまだに心に遺っていたりする。

と、少し話は逸れたが、NR1710の音自体に魅力を感じたこと、そしてこれなら広く周囲の人に勧めることができると確信したことこそが、今回の導入においてもっとも重要な要素であったことに違いは無い。


部屋のなかに溶け込んでくれる「丁度いい薄さ」かつ品位あるデザイン

そんな理由で、早速購入したNR1710であったが、期待したとおりのクオリティを楽しませてくれた。いや、ある意味で、期待以上だったと言える。というのも、噂を聞きつけて我が家に遊びにやってきた兄が、即刻NR1710を購入するに至ったからだ。兄は、拙宅と違って、洗練された内装の家に住んでいるのだが、そんな部屋にもこのデザインはぴったりだったそうだ。音に関しても、これまで使っていた10年ほど前に発売された十数万円の2chアンプよりも音が良くなったと、すっかり喜んでいる。つまり、これらの機器を広めたいという、筆者の当初の思惑はすぐさま達成されたのである。

そして、実際に自分の部屋に置いてみても、まず、やはりこの薄型かつマランツならではのデザインが持つアドバンテージは大きいと感じた。筆者のようにオーディオ機器がひしめいている部屋に置いたとしても、その「丁度良い薄さ」やデザインの良さがよく分かる。
 
 
 
 
 
 

 

 

 


多数のオーディオ機器がある生形氏の試聴室に溶け込む「NR1710」(写真右上段)。この薄さはTVボード内に設置する際も有り難いポイントになるだろう

 

 

 

 

 


例えばこの部屋に、一般的な2chオーディオ用のパワーアンプ(左右スピーカーの真ん中に設置してあるアンプがそれ)よりも背の高い通常サイズのAVアンプが入ってくると、結構な存在感になってしまう。また、一般的なスクウェア形状のコンポと並べてみると、NR1710が持つ流線型のデザインが、気が利いていることが理解できる。NR1710の一般的な置き場所になるであろうTVボードなどでも、一層これらの「違い」が効いてくるのだろうと想像できる。確かに、本体のディスプレイに関しては、再生チャンネルやスピーカー数の状態表示など、大型のAVアンプの方が視認性は上かもしれない。だが、AVアンプの設定はテレビ画面を見ながらの操作が基本なので、そこは特に問題にならないかと思う。


組み合わせる機器を選ばず、映画から音楽まで幅広いソースを心地よく楽しめる

サウンド面に関しても、購入前に試聴したとおりの音を楽しませてくれるし、色々と気づかされることも多かった。本機のサウンドの、最も魅力的なポイントを3つ挙げるとすれば、

(1)癖のない音色バランスを持っていながらも、音に気品があって出音が美しいこと
(2)空間の拡がりが豊かで透明度の高い音の再現性を持っていること
(3)低音の素早いレスポンスによる爽快な聴き心地を備えており、映画から音楽まで、迫力がありながらも実にスッキリとした音を楽しませてくれること


にあると筆者は思う。アンプは、その他の機器と同様にそれぞれ個性を持っているが、この3つのポイントが絶妙のバランスで融合しているのが、NR1710であるのだ。

その上、本機単体のクオリティがただ高いだけではなく、色々な機器と組み合わせたときの音の相性もよく、コンポの組み合わせを選ばず、コンテンツの音声を楽しく、そして美しく聴かせてくれることも素晴らしいと思った。下手をすると、再生するソフトによっては、よりハイグレードな価格帯のアンプよりも楽しく聴くことさえできてしまい、驚かされたのであった。この辺りは、同社のハイファイブランドで培ったノウハウが最大限に活かされているからこそだろう。
 
 
 
 
 


人気モデルだった従来モデルから回路設計や主要な音質部品を継承しつつ、全回路のパターン見直しを行うことで、さらなる音質向上を図った点も特長のひとつだ

 

 

 

 

 

 


NR1710を導入し、音に包まれるマルチチャンネル再生ならではのリスニング体験は、質の良い2ch再生でも得がたい魅力が詰まった世界であると改めて実感させられている。加えて、純粋なオーディオ用アンプとしても、NR1710の音質が気に入っている次第だ。
 
 
 
 


マルチチャンネル再生のみならず、純粋な2chアンプとしても活躍してくれているという



これを買っておけば確実に損はしない、と言える製品だ

NR1710は、これからマルチチャンネルのスピーカー再生で映画や音楽を楽しみたい人に、とにかくお勧めしたい製品だ。少し乱暴な言い方をすると、AVアンプを買いたいけど何を買って良いか分からない、という方は、とりあえず「最新の機能を網羅しつつ、薄型で、音が良い」本機を選んでおけば、確実に損はしませんよ、と言えるのだ。

テレビの内蔵スピーカーやサウンドバーでは決して味わえないスピーカー再生の魅力を是非とも味わって頂きたい。映像作品や音楽作品を楽しむことによって得られる喜びを、何倍にも増幅してくれるからだ。ヴァーチャルサラウンド再生にも対応しているので、始めは2chスピーカーで、後でマルチスピーカーへと発展させていくのも良いだろう。また、勿論、AVアンプの買い換えを検討している方にも本機はオススメである