米国の20代は「社会主義者?」78歳サンダースが若者をひきつけるワケ

2/27(木) 12:42配信

Wedge

 

 今回のテーマは、「弱点を克服したサンダース候補」です。米民主党候補指名争いを戦っているバーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)は2月22日、西部ネバダ州で開催された党員集会で勝利を収めました。

 筆者は党員集会の2日前に、研究の一環としてネバダ州ラスベガスの南西部にあるサンダース選対に入り、電話による支持要請を行いました。そこで本稿では、選対での出来事を紹介しながら、サンダーズ氏勝利の原因を探ってみます。

 

「社会主義者だからなんて言わないで」

 サンダース大統領候補はラスベカスだけで8つの選対を置き、資金と人材を投入しました。筆者が20日、南西部にあるサンダース選対を訪問すると、熱意のある20代の若者が党員集会に向かって準備を行っていました。

 早速スタッフに自己紹介をした後、筆者はアジア系米国人及び太平洋諸島の有権者を対象に選挙運動を行うチーム(AAPI)に入りました。チームリーダーはベトナム系米国人女性のアンジーさんです。彼女は昨年12月に、サンダース陣営の「オーガナイザー」として雇われました。

 オーガナイザーは、ボランティアの草の根運動員をまとめて、彼らが円滑に戸別訪問や電話による支持要請を行うことができるように支援します。

 

 アンジーさんは電話で標的となっている有権者に語る内容を説明すると、筆者に突然質問を投げかけてきました。

 「なぜあなたはバーニーを応援しているの?」

 筆者は思わずこう回答してしまいました。

 「社会主義者だらです」

 一瞬、アンジーさんとの会話に沈黙が生まれました。2人の会話を聞いていた他の運動員も沈黙してしまったのです。

 「しまった!」と心の中で思い、「バーニーは大学の授業料を無償化して、学生ローンを帳消しにするからです。労働者の賃金を上げるからです」と言ってフォローしました。

 アンジーさんは安心した表情を浮かべましたが、筆者にこう語って釘を刺しました。

 「社会主義者だなんて有権者に言わないで」

 サンダース候補は自身を民主社会主義と呼んでいます。サンダース支持の若者は社会主義を肯定的に捉えていますが、選対の中では同主義に敏感になっていました。米国社会では、大抵の有権者は社会主義を受容しないからでしょう。

 米NBC ニュース及び、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の共同世論調査(20年2月14-17日実施)では、社会主義者の候補に対して37%が「快適」と答えました。社会主義に「不快」を示す有権者が多数派ですが、約4割が肯定的に捉えているのには驚きです。

 

 

 

 

 

 

 

「フロリダ州では勝てません」

 特に、南部フロリダ州では社会主義は不人気です。サンダース候補は、同州でマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長及びジョー・バイデン前副大統領に苦戦を強いられています。その理由をマイアミからネバダ州にサンダース氏の応援に駆けつけたヒスパニック系米国人で社会主義者のパブロフさんが、次のように説明してくれました。

 「バーニーはフロリダ州では勝てません。キューバやベネズエラからの移民は社会主義に対して嫌悪感を抱いているからです」

 キューバ系及びベネズエラ系の移民に加えて、フロリダ州は多くの退職高齢者の流入先になっています。同様に、ラスベガス近郊のヘンダーソンにも退職高齢者が住んでいます。彼らは反社会主義の世代です。

 さらに、ドナルド・トランプ米大統領の発言も、サンダース陣営が社会主義をアピールしない理由の1つでしょう。トランプ大統領は民主党を「急進的社会主義」とレッテルを貼り、「米国は決して社会主義にはならない」と繰り返し主張しています。トランプ氏にはサンダース候補を利用して、社会主義を大統領選挙の主要な争点にする思惑があることは明らかです。

 それに対して、サンダース陣営は社会主義の争点化を避けたいのが本音です。支持基盤である社会主義の若者に加えて、反社会主義の有権者も取り込み、支持層拡大を狙っているのでしょう。

 

「目標は11月」

 有権者名簿に基づいて標的となっているアジア系米国人に電話をかけると、ある女性の有権者がサンダース候補に期日前投票をしたと語りました。そこで、筆者は感謝の意を述べて電話を切ると、会話を聞いていたアンジーさんが透かさずこう注文をつけてきたのです。

 「私たちは本選に勝つことを目標に置いています。バーニーに期日前投票をした支持者には、11月にも投票をするように促してください」

 このとき筆者は、サンダース陣営の民主党党員集会及び予備選挙を勝ち抜く意気込みを肌で感じました。

 

 

 

 

社会主義と国民皆保険

 サンダース支持者は25歳以上のミレニアム世代が主流であるというイメージがあります。ただ、アンジーさんが筆者に渡した有権者名簿をみると、サンダース陣営が標的としている若者には20歳前後の「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代が多く含まれていました。ミレニアム世代よりもまだ若い世代です。彼らはインターネットが日常茶飯事の世代で、一般に「デジタルネイティブ」と言われています。

 上で紹介したボランティアの運動員のパブロフさんは21歳で、正しくジェネレーションZに属します。彼にこの世代の特徴を尋ねると、「社会主義者」と一言で回答しました。

 トランプ支持者はサンダース氏の国民皆保険導入を社会主義の象徴として批判します。しかし、サンダース陣営が党員集会前日にラスベガスで開催した「投票に行こう(GOTV:Get Out The Vote)」の集会にボランティアの運動員として参加したクリスさんは、国民皆保険を必要としていました。

 「私には持病があり、月に3万ドル(約335万円)の医療費がかかります。今のところ、親の保険に加入しているので医療費をカバーできます。しかし、オバマケア(バラク・オバマ前大統領の医療保険制度改革)では親の保険に加入できる年齢が26歳までです。私は今年12月に26歳になります。その後、どうなるのかとても不安です。バーニーが勝って、国民皆保険を必ず導入してもらいたいです」

 クリスさんにとって、今回の大統領選挙は医療費の支払いの継続ができるか否かを決める極めて特別な選挙になっています。

 

多人種・多民族の連合軍

 4年前の民主党党員集会及び予備選挙において、サンダース候補は非白人の有権者の支持を得られないことが弱点であると指摘されました。しかし、今回は状況が異なっています。
 
 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙及び、NBCニュースが行った共同世論調査(2020年2月14-18日実施)によれば、アフリカ系有権者の支持率においてサンダース候補は、ジョー・バイデン前副大統領とほぼ互角の勝負をしています。これまで維持してきたアフリカ系有権者におけるバイデン氏のアドバンテージが消えつつあるという意味です。

 今回のネバダ州党員集会におけるNBCニュースの出口調査では、アフリカ系有権者の36%がサンダース候補、27%がバイデン候補を支持しました。ちなみに、16年前の同州での党員集会で、サンダース氏は76%のアフリカ系有権者をヒラリー・クリントン元国務長官に奪われました。

 おそらくサンダース陣営は、4年前の教訓を活かして非白人票を獲得するための対策を練ったのでしょう。前述しましたが、選対にはアジア系の有権者を標的にしたチームが存在していました。ラスベガス在住のエチオピア系の有権者を党員集会に動員するスタッフもいました。同陣営は多人種・多民族の連合軍を組んで党員集会に臨みました。

 その結果、4年前の民主党候補指名争いでは人種や民族の多様性に富んだ州で、ヒラリー・クリントン前国務長官に敗れたサンダース候補は、今回の選挙で非白人票を獲得し勝利しました。明らかにサンダース氏は、16年の民主党党員集会及び予備選挙における弱点を克服しています。

海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200227-00010004-wedge-n_ame&p=3