移住は安くて便利な「県庁所在地」が狙い目! 生活費最安は“あの観光都市”〈週刊朝日〉

2/9(日) 17:00配信

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都会から移り住むにはどこがいいか。憧れる田舎ランキングで北海道や長野はいつも上位だが、誰もが農漁村で自給自足の生活をできるわけではない。東京のように便利でありながら自然にも恵まれ、生活費が安いところがいい。県庁所在地別の生活費ランキングを一挙公開する。

 

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 県庁所在地は基本的な社会インフラなどの都市機能が充実し、少し郊外に出ると緑あふれるところが多い。事務系を含め仕事の選択肢もいろいろある。一方で、住居関係費や食料費のほか、交際費や教養娯楽費といった雑費などの生活費が総じて安い。

 産労総合研究所の「賃金事情」によると、県庁所在地の1人世帯での毎月の平均的な生活費(標準生計費)は、那覇市が最安で12万4千円だった。次に鳥取市の12万4千円、福井市の12万8千円、松山市の13万1千円、宮崎市の13万5千円などと続く。全国平均は15万4千円、最高が東京都区部で20万3千円だ。

 東京でIT関連に従事していた30代の男性は松山市に移り住んでウェブ制作などを手掛け、地元自治体の移住サイトのインタビューでこう話している。

「松山で妻と知り合って結婚し、子供ができました。松山のいいところは、都市部の近くに自然があり、生活に必要なものはだいたいそろいます。住みやすく、時間もゆったりしていて、人が温かいです」

 松山市の人口は約51万人で減少傾向。標準生計費が4番目に安い。松山市の移住サイトは、街がコンパクトで利便性が抜群、通勤通学時間が短く余暇時間が長い、住居費や物価が安い、医療施設が充実、瀬戸内海の自然が育む食材が豊富、温暖で災害が少ない、人が温かい、自然に恵まれた子育て環境、などと魅力をアピールする。市役所の移住業務担当者はこう話す。

「街がフラットで機能が凝縮されてコンパクト、自転車でも移動できます。住宅物件も多く、いろいろ選ぶことができます。仕事は道後温泉に代表されるような観光業、サービス業のほか、香川県高松市とともに企業の四国支社もあります。瀬戸内海に台風が入ってくることがまれで、災害や降雪も少ないです」

 標準生計費の内訳を見ると、松山市は全国平均に比べて、食料費や住居関係費がそれぞれ3千円前後も安く、交通・通信や教養娯楽費などの雑費でも7500円ほど低い水準にある。

 標準生計費の安い順で、首位の那覇市と2位の鳥取市はほぼ同水準。全国平均に比べ、那覇市は住居関係費が6千円近く高いが、食料費は約4千円、雑費が約1万4千円それぞれ安いのが魅力。同じく鳥取市は全般的に安く、食料費が約1400円、住居関係費で約6300円、雑費は約1万3千円も安い。

 

 

那覇市は人口約32万人で、豊かな自然に恵まれ、琉球文化にあふれた観光都市。年間を通じ温暖だが、台風の通り道であり、公共交通機関の便が少なく、平均年収は全国水準から見て低くなっているなど、他の県庁所在地から見ると特殊なところがある。

 山陰地方にある鳥取市は人口約19万人で、豊かな食材があり、魚がおいしい。

 東京から夫の故郷の鳥取市に移住した徳本敦子さんは市内の生活をこう話す。

「外食をあまりせず家で食べることが多く、食費はあまりかかりません。農家の親戚が多く、お米を買ったことがない人もいます」

 徳本さんは2009年に夫と2歳の長男らと移住後、3人目の子供が生まれた。「(子供が)森のようちえんで泥んこになって遊び、この子にいいところだなあ」と感じ、自ら市内に「森のようちえん・風りんりん」を立ち上げて代表を務める。

 ランキングの3位は福井市で人口が約26万人。全国平均に比べ、食料費は若干安にとどまるが、住居関係費や雑費が低い水準となっている。市の移住サイトによると、お総菜の年間購入額が全国トップクラスで、これが食料費を押し上げているのかも。総務省調査で女性の有業率が55%と全国トップクラスであるほか、待機児童率は0%だ。また、繊維製品の生産量も日本でトップクラスだという。

 生活費が5番目に安かった宮崎市の人口は約40万人。市の移住サイトによると、民営賃貸住宅の家賃は東京の半分以下の水準になっている。市役所の移住関連担当者はこう話している。

「生活費は安く、平均気温が高くて温暖です。海や山が近くにあり、自然は豊かです。就業に向けて力を入れているのはIT産業やサービス業で、製造業も誘致しています」

 標準生計費ランキングの6位は東北地方の青森市で13万5千円。人口は約28万人。生活費は全般的に全国平均に比べ低い水準にある。市の移住サイトによると、夏が短く冬が長く、自然や豊富な食材が魅力。

 同じ東北の秋田市はランキング10位で、標準生計費が13万6千円。人口は約30万6千人で、ここも減少傾向にある。秋田市役所の移住関連担当者はこう話す。

「全国水準から見て地価が安く、持ち家比率が高くなっています。秋田市は沿岸部にあり、県内で雪の多い内陸部に比べ、雪でそれほど苦労しません。自然災害はそれほど大規模なものに見舞われることがありません。IT関連企業は増えており、秋田公立美術大学があり、アニメ制作会社も増えています」

 

 

こうした県庁所在地は、ほどほどの生活を求める人に魅力的かもしれない。都市から離れた田舎に比べれば、不便さや濃厚な人間関係に悩まされることも少ないだろう。都市生活を送りながらも、豊かな自然が身近にあり、ゆったりと過ごして、趣味などにも打ち込むことができる。とりわけ、年金生活のシニア層にとっては一定の収入があり、生活費の水準で生活のゆとりが違ってくる。

 東京などで働く世代の人たちにとっても、地方の県庁所在地に移り住むメリットはある。東京から移り住めれば生活費が安くなることが少なくないほか、仕事のやりがい、生活面の充実感も得られることがある。

 最近はどこも人手不足が顕著で、人材は東京に集まりがち。そんな時代に、福岡で人材を必要とする地元企業に対して、東京で働いている人を紹介するのがYOUTURN(福岡市)。17年に支援を開始した中村義之代表は、地元企業が必要としても採用できない職種があり、人材が東京にかたよっていると話す。

「地元の大企業が新規事業を起こす際に、特別の経験を持った人は東京に多くいます。また、福岡はスタートアップ(起業)が多いのですが、エンジニアが地元になかなかいません。さらに、会社の規模が大きくなり、会計や人事など本社機能の職種が必要になっても、地元の中途採用市場に人材があまり流通しておらず、東京にアクセスするしかありません」

 こうした転職は「移住」を伴う。中村さんの会社に登録する人材は、半数くらいが福岡出身者で、残りは佐賀県など近隣出身者や配偶者が福岡出身のこともあるが、1割くらいは夫婦とも福岡とのつながりがない人もいるという。

 移住した転職者については、

「東京に必ずしもネガティブではなく、より良い生活を求めている人が多い」

 と中村さんは話している。

 移住した転職者たちと毎月懇親会をしている中村さんによると、福岡は住みやすく、移住した転職者は自分が求められた会社で仕事を通じてやりがいや満足感も得られているという。

 こうした福岡の地元企業が求めるような職種・人材は、

「地元企業が中途採用をしていないところも多く、ニーズになるほど顕在化もしていない」

 と中村さんは指摘する。

 これは福岡に限った話でなく、地方都市の多くが抱えている課題でもありそうだ。

 東京などで就業してきた経験が、県庁所在地ならば生かせる可能性がある。生活費も安く、自然にも恵まれた新天地で、やりがいや生きがいを見つけ出したくなる人が今後増えてくるかもしれない。

 

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200206-00000027-sasahi-life&p=3

 

 

(本誌・浅井秀樹)

※週刊朝日  2020年2月14日号