CHORD「Hugo TT 2」レビュー。

 

唯一無二の“滑らかな音の質感”を

聴かせてくれる多機能DAC

 
 
プリ/ヘッドホンアンプを内蔵
 
 
 
生形三郎
 
PhileWeb
 
 
 
コンパクトな筐体に最新鋭DACと多彩な機能を凝縮

CHORDから同社DAC/ヘッドホンアンプ/プリアンプの最新モデルとなる「Hugo TT2」が登場した。本機は、コンパクトな筐体に高性能なDACやヘッドホンアンプ機能、そしてバッテリー駆動の搭載を実現した革新的な存在として一世を風靡した、「Hugo」の最新バージョンである。


CHORD「Hugo TT 2」640,000円(税抜)


Hugoは、後に「Hugo TT」、つまりは“Table Top”へと進化し、据え置き型タイプでさらに充実したサウンドを楽しめるモデルへと展開されたが、それをさらにブラッシュアップしたモデルが本機「Hugo TT2」である。

手頃なサイズ感の筐体に、DAC、ヘッドホンアンプ、プリアンプ機能、そして無線接続機能というオーディオ再生に必要な要素を凝縮しつつ、確固たる音質クオリティを実現するその姿は、まさに、新たなオーディオコンポーネントのスタイルを代表する存在といえるだろう。

CHORDのDACは、FPGAによる「WTAフィルター」や「パルスアレーDAC」などによって、同社ならではの高い音楽性を備え、多くの熱狂的な支持を集めていることは、もはや説明不要だろう。発売と共に瞬く間に話題となり、ハイエンドファンやオーディオ評論家のオーディオシステムへとこぞって採用されたことも記憶に新しいフラッグシップの「DAVE」、そしてその魅力をより手軽に、しかしながら高いクオリティで楽しめる「Qutest」など、いずれもが大ヒット作といえるものだ。


筐体上部中央の円形の窓からは、内部の基板を見ることができる


そのラインナップの中で本機「Hugo TT2」は、グレード的にもサイズ的にもミドルクラスに位置し、優れた音質のライン出力やヘッドホンアンプ機能、そして設置性の良いサイズを備えたモデルである。


従来モデルから性能を大幅向上させた独自DAC回路を搭載

従来機Hugo TTから変更された大きなポイントは、まずは、DACアルゴリズムの大幅な進化だろう。TTでは26,368タップを誇っていたWTAフィルターが、TT2では4倍弱となる98,304タップを達成したというから驚きだ。

また電源回路も大幅に拡充され、これまで10ファラッドだったキャパシターの容量が、30ファラッド×6個という、驚異的な増加が実現されている。これらの変更だけでも、さらなるクオリティの進化を予想できる。なお、従来のHugo TTで搭載されていたバッテリーは非搭載となった。

機能面では、再生ファイルの最大対応レートが、TTのPCM384kHz/32bit及びDSD128/1bitから、PCM768kHz/32bit及びDSD512/1bitへと大幅に引き上げられた。


Hugo TT 2の背面端子部


また、出力端子としてこれまで通りXLRバランスとRCAアンバランス、そして3.5mmと6.3mmのヘッドホンアウトに加えて、今回新たに、デュアルBNC DX アウトプットが装備されている。これにより、将来的なアップデートによって、同社のスタンドアローン・アップスケーラーである「Hugo M Scaler」との接続が可能となり、DAVEやQutest同様に、DACシステムに組み合わせて100万タップのアップサンプリングを提供するフィルターアルゴリズム「M Scaler」が使用可能となっている。
 
 
勿論、強力な駆動力を誇るヘッドホンアンプ部も健在だ。3.5mmが1系統、6.3mmが2系統、合計3系統のアウトプットは全て独立され、8〜600Ωまでのヘッドホンを最大3機同時に接続しても音質に影響しない出力部を持っている。

筐体はこれまで通り、アルミブロックの削り出しによる上下分割式筐体を採用。小型で極めて高剛性な筐体によって、据え置き時に受ける振動影響のコントロールが追求されている。また、同社製品に共通する、ユニークかつ近未来的な、所有欲を掻き立てる魅力的なそのルックスも当然引き継がれてる。


密度のある質感ときめ細やかで滑らかな表情を湛えた音

早速その音質をチェックしてみる。テストには、プリアンプにアキュフェーズ「C-3850」を、パワーアンプに「M-6200」を用い、スピーカーにはB&W「803 D3」を使用した。

その出音は、CHORDのDACに共通する、密度のあるジューシーな質感と、きめ細やかで滑らかな表情を備えたものだ。ヴォーカルは、歌声に血が通うような体温の宿った、温もりと張りを持った音で描き出される。同時に、ヴォーカルや楽器音像の輪郭には明瞭なエッジがもたらされており、歌声や旋律が浮き立つような縁取りで音楽が展開するのだ。滑らかさに加えて、独特の粒子感を持ったザクザクとした食感と、ジューシーな歯応えが両立するというのだろうか。音の存在感、特に中域帯の存在感が太く、それらの塩梅が絶妙なのだ。


スピーカーにB&W「803 D3」を組み合わせ、本機の音質をチェックした


ヴォーカルは厚みある歌声で前に迫り出し、ピアノやギターのタッチもふくよかなボトムを持ちながらも、明瞭な張り出しを持っている。ベースやバスドラムなど、低音の美味しい帯域も、厚みを持ってしっかりと出てくる様が心地よい。単に、滑らかとか円やかで耳当たりがいいとか、逆にハイファイとか原音忠実度が高いとか、どれか一面的な特徴を示すというよりも、それらが巧みに織り重なって総体的な音の旨みを作り出しているのである。

立ち上がりと余韻の表現が素早く、音楽が淀みなく流れる

加えてその音色感と共に最も重要な要素として上げられるのが、実にスムーズな時間軸表現だろう。音の一つ一つにおける、立ち上がりや余韻の表現が、素早いのである。つまり、音楽が淀みなく流れていく印象と言えばよいのだろうか。先述のように、独特かつ訴求力、そして説得力がある音色の質感を備えていながら、描き出される音のエネルギーの推移は、実にスッキリとスムーズで連続性に富んでいる。


これはまさに、同社のお家芸でもある、高性能FPGAによる大幅なオーバーサンプリングによる恩恵なのだと推察する。「デジタルデータの仕組み上、使用を避けて通れないローパスフィルターの使用を、可聴帯域の遥か外側にまで不要とすることで、すべての音の立ち上がりから立ち下がり(トランジェント)の波形を一切滲みなく再現することを追求する」という、同社のDACが持つサウンドの真骨頂がここに現れているのだろう。この滑らかな音の質感こそが、CHORDのDACが多くの人々を心酔させる絶対的な魅力なのではないだろうか。
 
 
 
 
 
 
なお、本機はボリューム機能を搭載しプリアンプとしても使用可能だ。そこで、アキュフェーズのプリアンプを通さずに、パワーアンプへと直結しても試聴した。すると、さらに鮮度の良い音で、先述の音質を楽しむことが出来た。

オーディオシステムにとって、プリアンプはサウンドキャラクターを統率する重要な要素である。故に、質感を求めるうえでプリアンプは欠かせない存在だが、本機はそれ単体でも十分な音楽性を備えており、音楽が無味乾燥になったり、またストレートすぎることなく、十分に音楽的な豊かさを楽しませてくれる音である。


Hugo TT 2のプリ機能を用い、パワーアンプ直結での音質もチェックした


逆に、本機の場合は、テーブルトップというコンセプトの上でも、よりシンプルでスペースファクターに優れる、パワーアンプへの直結接続がお似合いだろう。


ヘッドホンアンプとしても優れた性能を備える

ヘッドホンアンプの試聴は、ゼンハイザーのHD 800を接続してテストした。当然ながら音圧が低めのクラシックソースでも十分な音量がとれると共に、駆動力も申し分がない。HD 800ならではの緻密な再現力を十分に引き出しながらも、若干のコントラストが向上したかのような温度感の高い描かれ方が楽しめる。


ゼンハイザー「HD 800」と組み合わせてヘッドホンアンプの音質もチェックした


先ほどと同じく、音楽の表現に血肉や体温が通った、温もりと張りを持った音を楽しませる。各楽器の音像は明瞭な輪郭で描き出されるとともに、しっかりとした厚みのある表現が実に心地よい。それでいて、決して音の流れが鈍重にならないところに感心させられる。あくまで自然な軽快さでもって音楽が流れていくのである。

最後に、Bluetooth接続による再生も試した。スマートフォンとの連携では、安定した接続によって、スマートフォンからの音声を出力することが出来た。より音質的なロスの少ないaptXコーデックにも対応しているので、対応機器を用いることで、さらに良い質感で音楽を楽しむことができるだろう。
 


Hugo TT2は、ハイレゾからワイヤレスまでを、デスクトップに手軽に収まるサイズで高品位に楽しめるシステムを構築することができる。同社最新DACとして、従来モデルからの大幅なスペックアップを実現し、コンパクトながらハイエンドオーディオたる音質を実現したその存在は、これからのオーディオスタイルの在り方を鮮烈なインパクトで持って明示する、唯一無二のプロダクトといえよう。

(生形三郎)
 
特別企画 協力:タイムロード