今回のことば
「テスラとパナソニックは、単なるサプライヤーの関係ではなく、一蓮托生である。血のつながっている家族であれば、モノが言いやすいのと同じで、お互いにポロッと出たことが影響を及ぼした」(パナソニックの津賀一宏社長)
反省の多かった中期戦略
パナソニックは、2021年度を最終年度とする新たな中期戦略について発表した。
具体的な売上高や営業利益は設定せず、2021年度以降にROEで10%以上、空間ソリューションや現場プロセス、インダストリアルソリューションによって構成する「基幹事業」において、EBITDA成長率で5~10%、EBITDAマージンで10%以上を目指すとした。
パナソニックは、2018年度を最終年度としたこれまでの中期戦略では、高成長事業、安定成長事業、収益改善事業という3つの事業区分にわけ、高成長事業に位置づけた車載事業を中心に増収増益の定着を目指してきた。
津賀一宏社長は「事業から創出される利益が当初見通しを大きく下回った反省がある。高成長事業では、売上げは成長したが、オートモーティブで開発費が大幅に増加し、円筒形車載電池では、生産の急激な拡大によって、さまざまなリスクへの対応力が不足し、利益が伸び悩んだ」と反省する。
また「安定成長事業では、家電が中国以外での収益性が低迷。収益改善事業では、構造改革に対するスピード感が不十分であったと反省している」と語る。
そして「新中期戦略では、低収益から脱却し、利益を成長軌道に戻すことが重要と考えている」と述べた。
オートモーティブは格下げ事業に
新中期戦略では新たな事業区分として、基幹事業、再挑戦事業、共創事業に分類した。
基幹事業は利益額を拡大する事業と位置づけ、空間ソリューション、現場プロセス、インダストリアルソリューションを区分。売上高で4兆2000億円、営業利益で2800億円、EBITDAで3900億円を目指す。
現場プロセスのなかにはPCなどのデバイスも含まれ、結果としてパナソニックの基幹事業を構成する要素の一角を、PCが担う格好になったといえるだろう。
再挑戦事業は収益性改善を重視する事業とし、前中期戦略では高成長事業としていたオートモーティブおよび車載電池をここに区分。事実上の格下げとした。
そして共創事業では、家電事業と住宅事業を区分。地域や他社連携を通じて、競争力の強化を図ることになる。
共創事業に含まれた家電事業については、地域や事業の絞り込みをする姿勢を打ち出し、「パナソニックがすべての家電製品で強いとはいうわけではない。それを認識する必要がある。強みに集中することで、家電の競争力を維持、発展させていく」とした。
家電や半導体は抜本的な対策を図る
さらにパナソニックの津賀社長は、新中期戦略のポイントとして「ポートフォリオマネジメントの実行」「経営体質の徹底強化」「目指す姿であるくらしアップデートを実現する会社」を目指すことをあげた。
ポートフォリオマネジメントの実行では、事業ポートフォリオ改革に乗り出すとし、「共創による競争力強化」として、トヨタとの車載用角形電池事業の合弁会社や街づくり事業に関する合弁会社の設立をあげた。「収益性の改善」としては、ソーラー事業の開発、生産体制の最適化のほか、家電における地域や事業の絞り込み、半導体の収益体質の強化などによる低収益事業や赤字事業への抜本的な対策に乗り出すことを示した。
テスラとは家族のような関係
一方、2019年4月にはテスラのイーロン・マスクCEOが、モデル3の生産において、パナソニック電池生産がボトルネックになっているとつぶやいたことで、両社の関係が悪化しているとの憶測が走った。対して津賀社長はユニークな回答をしてみせた。
「テスラとパナソニックは、単なるサプライヤーの関係ではなく、パートナーであり、一蓮托生である」とし、「単なるサプライヤーの関係では言いたいことも言えない。血のつながっている家族であれば、モノが言いやすいのと同じで、そうした関係において、お互いにポロッと出たことが影響を及ぼした」とする。
マスクCEOの相次ぐ発言で、株価にも影響を及ぼしているために、意志疎通に問題があるとの指摘もあるが、「関係は良好である」と反論する。
津賀社長は3ヵ月ごとに渡米して、マスクCEOと会話をしているという。
「お互いにときどき言いたいことがある。今回は、パナソニックの電池がボトルネックだったかもしれないが、その前にはテスラのモノづくりがボトルネックだった」とし、
「どちらかが頑張れば、どちらかがボトルネックになるのが普通である。オーバーキャパシティーでやっても、うまくいかない。両社で両輪を回しながら、フル稼働状態を維持することが、このビジネスの成功パターンである。両輪の回り方が少し違う状況になるというのはよくある」とする。
とはいえ、津賀社長にも言いたいことは多いようだ。
テスラが大きくなれば電池不足は確実
「乾電池の事業であれば、自分たちのペースですべてを決めることができるが、テスラのギガファクトリーでは、生産場所も生産量もテスラが決めて、価格は交渉で決まる。さらに現地の人を雇用して、教育し、それでいながら、辞める人が多い。その分、大きなコストがかかり、無駄もあり、利益を圧迫した。ドタバタしながら、なんとかモデル3の生産に追随できた」とする。
両社の関係における注目点は、次期電池工場への投資だ。
津賀社長は「現在の35GWのフル生産に向けた設備投資は終わった。あとはいかに生産性をあげて、1本でも多くの電池を品質よく、歩留まりよく作っていくかが最大のテーマになる」としながら、「次の投資については、そのあとに考えても時間的余裕はある」と述べる。
そして「来年、テスラがモデルYを投入して、テスラの事業が大きく成長すれば、電池が足りなくなるのは確実だ。そのときには、テスラと協議をしていくことになる」とした。
テスラは中国・上海に新たな工場を建設中であり、電池供給に関してパナソニックが、具体的にどう関与するかは現時点では未定だ。
テスラに振り回されている感触は否めないが、このギガファクトリーでの早期黒字化には、意欲をみせる津賀社長。新たな中期経営計画では、テスラリスクはどれだけ軽減されるのだろうか。
文● 大河原克行、編集●ASCII
「テスラとパナソニックは、単なるサプライヤーの関係ではなく、一蓮托生である。血のつながっている家族であれば、モノが言いやすいのと同じで、お互いにポロッと出たことが影響を及ぼした」(パナソニックの津賀一宏社長)
反省の多かった中期戦略
パナソニックは、2021年度を最終年度とする新たな中期戦略について発表した。
具体的な売上高や営業利益は設定せず、2021年度以降にROEで10%以上、空間ソリューションや現場プロセス、インダストリアルソリューションによって構成する「基幹事業」において、EBITDA成長率で5~10%、EBITDAマージンで10%以上を目指すとした。
パナソニックは、2018年度を最終年度としたこれまでの中期戦略では、高成長事業、安定成長事業、収益改善事業という3つの事業区分にわけ、高成長事業に位置づけた車載事業を中心に増収増益の定着を目指してきた。
津賀一宏社長は「事業から創出される利益が当初見通しを大きく下回った反省がある。高成長事業では、売上げは成長したが、オートモーティブで開発費が大幅に増加し、円筒形車載電池では、生産の急激な拡大によって、さまざまなリスクへの対応力が不足し、利益が伸び悩んだ」と反省する。
また「安定成長事業では、家電が中国以外での収益性が低迷。収益改善事業では、構造改革に対するスピード感が不十分であったと反省している」と語る。
そして「新中期戦略では、低収益から脱却し、利益を成長軌道に戻すことが重要と考えている」と述べた。
オートモーティブは格下げ事業に
新中期戦略では新たな事業区分として、基幹事業、再挑戦事業、共創事業に分類した。
基幹事業は利益額を拡大する事業と位置づけ、空間ソリューション、現場プロセス、インダストリアルソリューションを区分。売上高で4兆2000億円、営業利益で2800億円、EBITDAで3900億円を目指す。
現場プロセスのなかにはPCなどのデバイスも含まれ、結果としてパナソニックの基幹事業を構成する要素の一角を、PCが担う格好になったといえるだろう。
再挑戦事業は収益性改善を重視する事業とし、前中期戦略では高成長事業としていたオートモーティブおよび車載電池をここに区分。事実上の格下げとした。
そして共創事業では、家電事業と住宅事業を区分。地域や他社連携を通じて、競争力の強化を図ることになる。
共創事業に含まれた家電事業については、地域や事業の絞り込みをする姿勢を打ち出し、「パナソニックがすべての家電製品で強いとはいうわけではない。それを認識する必要がある。強みに集中することで、家電の競争力を維持、発展させていく」とした。
家電や半導体は抜本的な対策を図る
さらにパナソニックの津賀社長は、新中期戦略のポイントとして「ポートフォリオマネジメントの実行」「経営体質の徹底強化」「目指す姿であるくらしアップデートを実現する会社」を目指すことをあげた。
ポートフォリオマネジメントの実行では、事業ポートフォリオ改革に乗り出すとし、「共創による競争力強化」として、トヨタとの車載用角形電池事業の合弁会社や街づくり事業に関する合弁会社の設立をあげた。「収益性の改善」としては、ソーラー事業の開発、生産体制の最適化のほか、家電における地域や事業の絞り込み、半導体の収益体質の強化などによる低収益事業や赤字事業への抜本的な対策に乗り出すことを示した。
テスラとは家族のような関係
一方、2019年4月にはテスラのイーロン・マスクCEOが、モデル3の生産において、パナソニック電池生産がボトルネックになっているとつぶやいたことで、両社の関係が悪化しているとの憶測が走った。対して津賀社長はユニークな回答をしてみせた。
「テスラとパナソニックは、単なるサプライヤーの関係ではなく、パートナーであり、一蓮托生である」とし、「単なるサプライヤーの関係では言いたいことも言えない。血のつながっている家族であれば、モノが言いやすいのと同じで、そうした関係において、お互いにポロッと出たことが影響を及ぼした」とする。
マスクCEOの相次ぐ発言で、株価にも影響を及ぼしているために、意志疎通に問題があるとの指摘もあるが、「関係は良好である」と反論する。
津賀社長は3ヵ月ごとに渡米して、マスクCEOと会話をしているという。
「お互いにときどき言いたいことがある。今回は、パナソニックの電池がボトルネックだったかもしれないが、その前にはテスラのモノづくりがボトルネックだった」とし、
「どちらかが頑張れば、どちらかがボトルネックになるのが普通である。オーバーキャパシティーでやっても、うまくいかない。両社で両輪を回しながら、フル稼働状態を維持することが、このビジネスの成功パターンである。両輪の回り方が少し違う状況になるというのはよくある」とする。
とはいえ、津賀社長にも言いたいことは多いようだ。
テスラが大きくなれば電池不足は確実
「乾電池の事業であれば、自分たちのペースですべてを決めることができるが、テスラのギガファクトリーでは、生産場所も生産量もテスラが決めて、価格は交渉で決まる。さらに現地の人を雇用して、教育し、それでいながら、辞める人が多い。その分、大きなコストがかかり、無駄もあり、利益を圧迫した。ドタバタしながら、なんとかモデル3の生産に追随できた」とする。
両社の関係における注目点は、次期電池工場への投資だ。
津賀社長は「現在の35GWのフル生産に向けた設備投資は終わった。あとはいかに生産性をあげて、1本でも多くの電池を品質よく、歩留まりよく作っていくかが最大のテーマになる」としながら、「次の投資については、そのあとに考えても時間的余裕はある」と述べる。
そして「来年、テスラがモデルYを投入して、テスラの事業が大きく成長すれば、電池が足りなくなるのは確実だ。そのときには、テスラと協議をしていくことになる」とした。
テスラは中国・上海に新たな工場を建設中であり、電池供給に関してパナソニックが、具体的にどう関与するかは現時点では未定だ。
テスラに振り回されている感触は否めないが、このギガファクトリーでの早期黒字化には、意欲をみせる津賀社長。新たな中期経営計画では、テスラリスクはどれだけ軽減されるのだろうか。
文● 大河原克行、編集●ASCII
