ポーランド人が遠い異国「日本」に憧れ、ビジネスにする理由

2/28(木) 6:01配信
ダイヤモンド・オンライン
 日本では今ひとつなじみの薄いポーランドであるが、ポーランドでは日本の人気は非常に高い。著者は2017年から拠点をポーランドに移しているが、今まで訪れたどの国よりも日本に対する好感度・評価は高いと感じる。以前、ポーランドの“日本愛”について書いたが、今回は日本に惚れこみ、それをビジネスに生かしている人たちを紹介したい。(フリーライター ミハシヤ)

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● 太宰治の「斜陽」の ポーランド語版を出版

 ワルシャワの繁華街の一角に昨年10月にオープンしたばかりの出版社・書店「Tajfuny」(タイフーヌィ)。運営するのは2人のポーランド人女性、オーナーのカロリーナさんと、ビジネスパートナーのアンナさんだ。

 カロリーナさんはオックスフォード大学の日本語学科、アンナさんはアダム・ミツキェヴィチ大学(ポーランド・ポズナン)の日本学科を卒業しており、もちろん2人とも日本語ペラペラ。

 2人が初めて会ったのは2018年の2月。そこで意気投合し一緒にビジネスをすることになったという。7月には物件を借りてリノベーションを始め、10月に店舗オープン、2019年1月にはTajfuny初の出版物となる、太宰治の「斜陽」のポーランド語版をリリースしたという。

 ビジネスのスピード感がすごい。

● 原文のニュアンスが 伝わるような翻訳にしたかった

 しかし、なぜ「斜陽」だったのか?

 「以前にも斜陽の翻訳版は出版されていましたが、太宰独特の文体を伝えきれておらず、別の本になってしまったと感じていました。だからこそ、自分たちの手で納得できるものを作りあげたかったんです」とカロリーナさん。
 ということは、太宰の文章のニュアンスがわかるくらい日本語を読みこなせるということでもある。

 しかし、ポーランドで太宰治と言ってもほとんどの人が「誰それ?」となる。

 「ポーランドではまだ知名度が低いので、太宰治とはどういう作家なのか、本が書かれた背景なども合わせてしっかり伝えていきたいと思っています」

● ポーランド人は 日本は完璧と思っている?

 一般的なポーランド人は日本をどのようにとらえているのか?という問いには次のように答えてくれた。

 「日本は独自の伝統文化もあれば、最新のテクノロジーも発展している。ポーランドでは日本は“完璧な国”と思われているんじゃないでしょうか。Tajfunyに来る人は日本に興味があり、経済的にも余裕があり『日本だから買う』という人も多いですね」とカロリーナさん。

 「日本とポーランドは距離も遠いし、ちょっと前までは簡単に行ける国ではなかったですよね。それだけにエキゾチックなイメージが膨らみ、憧れの国と思っている人も多いと思います」(アンナさん)

 店舗オープンからまだ数ヵ月だが、今後のビジネス戦略についてカロリーナさんは次のように語る。

 「Tajfunyでは自分たちが実際に読んでいいと思ったものだけを扱っています。質の高い本を出版したり販売することで、ポーランド人ももっと日本について理解を深めることができると考えています。小説だけでなく、さまざまなジャンルやテーマの本を手掛け、多角的に日本を紹介していきたいですね。時間もお金もかかるし、簡単な道ではないことはわかっているけど、これがやりたいことだから頑張ります。質にこだわるのが私たちのビジネスのストラテジーです」。




インターナショナルに活動する 日本大好きな若手ミュージシャン

 ワルシャワを拠点にプロのミュージシャンとして活躍しながら、デンマーク・コペンハーゲンにある音楽大学の修士コースに籍を置く学生でもあるアルベルトさん。コンサートでのドラムやピアノの演奏、自身や他のミュージシャンのアルバムのプロデュースなどを行っている。

 スウェーデン出身の女性ヴォーカリストと組んだユニットNenne(ネンネ)では日本語の曲もリリース。さらに日本のミュージシャンと一緒にライブを行ったり、CDをリリースするなどインターナショナルに活躍している。

● 日本には 他の国にはない“何か”を感じる

 アルベルトさんが日本に興味を持ち始めたのは、約4年前、ピアニストの友人の紹介で、ポーランドに滞在していた日本人女性と知り合ったのがきっかけだった。以来、ジブリの映画を見たり、坂本龍一の音楽を聴いたりなどし、日本への興味が深まっていったという。初めて日本に行ったのは3年ほど前。東京と九州を旅行した。

 「九州の田舎町もよかったし、東京は大都市ならではのエネルギーにあふれていながら過激すぎない。そのバランス感覚というか、波長が自分にはすごく心地よかったですね」

 同じ“外国”でもコペンハーゲンには感じなかった何かがあったという。その時を含め、日本にはすでに3回行っている。

 「昨年は約2ヵ月間日本に滞在し、東京などでライブを行いました。現在は日本のアーティストとコラボレーションした企画も進行中です」と語る。

 一方、ちょっと辛口なコメントも。

 「ポーランド人はもっと自由だけど、日本人は型にはまっている人が多い気がします。あと、お金の話をストレートにしないのは『なんで?』と思ったりも。それと敬語は親近感がわかないしちょっと苦手。でもそういうことを含めてやっぱり日本が好きなんです」と語る。

 日本語を本格的に勉強し始めてまだ1年半くらいというが、この取材の約7割は日本語で行えるほど日本語も達者だ。




ポーランドには 日本好きが多い

 ワルシャワとコペンハーゲンを頻繁に行き来するアルベルトさん。「デンマークと比べてポーランドは日本好きが多いか」という問いにはこのように語る。

 「それはもう圧倒的にポーランドの方が日本好きが多いですね。基本的にポーランド人は『日本はCool』というイメージを持っています。例えば音楽にしても、Jポップもあれば、シンセサイザー音楽もあるし、日本古来の伝統音楽もある。ポーランドにはないものが沢山あることに魅力を感じている人は多いんじゃないでしょうか」

 今後の目標としては、まず現在、手掛けている日本人アーティストとのコラボ企画を成功させること。また大学院を修了し、仕事もちょっと落ち着いたら日本に1年以上住みたいという。さらにはこんな夢も。

 「サトシ・アシカワ(芦川聡)が1982年にリリースしたアルバムが大好きなんですけど、そのトリビュート・アルバムのようなものをいつか作りたいと思っています」

● 日本に恋して おにぎり店をオープン

 世界的に日本食ブームが広がっているというが、ポーランドも例外ではない。そんな中、日本好きが高じておにぎり店を出すことになったというのが「Pani Onigiri」(パニ オニギリ)のカシャさんだ。

 アニメをきっかけに日本に興味を持ち、10年以上もの間、日本は憧れの国だった。そしてついに2014年、夫のマルチンさんとともに日本への旅行を果たす。長年の夢がかなった旅は、それはそれは素晴らしかったという。

 「わずか2週間の滞在でしたが、それはまさに人生を変える旅でした。なにげない日常の光景も私たちには新鮮で感動的。この旅で私たちは日本と恋に落ちたんです」という。
● 試行錯誤を重ねたおにぎりは 大人から子どもまで好評

 ポーランドに帰ってからも日本への再訪を夢見ていたカシャさんとマルチンさん。2017年に再び日本を訪れることになった。

 今度は1ヵ月という長期で、当時6歳と1歳半の子どもたちも連れていくことにした。しかし「日本では子どもたちに何を食べさせればいいのか?」という問題に直面。

 そこでカシャさんが思い出したのが、前回の旅で初めて口にしたおにぎり。ネットでレシピを検索し、おにぎりに適したコメを探すところから始め、試行錯誤で作ってみた。

 「子どもたちは日本に行く前から、私の作ったおにぎりを好んで食べるようになったんです」とカシャさん。

 2017年の日本旅行では、東京で最も古いおにぎり屋を訪れたりもした。このころはまだ、おにぎり屋を開くことは計画していなかったが、「おにぎりはポーランド人にもウケる」と確信。おにぎりという食文化をどうやってポーランドに伝えるか考え始めたという。

 カシャさんもマルチンさんも飲食業界の経験は全くなかった。カシャさんの専門はコーチング。マルチンさんは現在も大手銀行に勤務しながらカシャさんのビジネスをサポートしている。

 未経験の分野に挑むのはリスクがあるが、日本とおにぎりへの熱い思いから決断。2017年に、日本関連イベントでおにぎり店のブースを出店する形でビジネスをスタート。2018年7月には店舗をオープンした。

 ベトナム産ではあるがコシヒカリを使い、水加減、炊き加減など研究を重ねたおにぎりはかなり本格派。

 「日本に行ったことがあり、本当のおにぎりを知っているポーランド人は『本場の味だ』と称賛してくれますし、初めておにぎりを食べる人がおいしいと言ってくれるのもうれしいですね」





 ワークショップで おにぎりの認知度アップを図る

 とはいえ、ポーランドではおにぎりの認知度はまだまだ低いのが現実。

 「すしと同じご飯で作って三角形にしただけのものが『おにぎり』として販売されていることもあります」とマルチンさん。

 そこで大人や子どものためのワークショップを開催。おにぎりはとは何か、日本ではどのように人々に愛され食べられているか、背景にある文化までも感じてもらえるように努めている。

 Tajfunyの取材でも感じたが、啓蒙というのは地道な活動だ。

 人々の意識を変えるには時間がかかる。すぐに利益に反映されるわけでもない。ビジネスという観点からするとあまり効率のよいことではないだろう。それでもやるというのはやはり“日本愛”があってのこと。

 2019年は日本とポーランドの国交樹立100周年にあたるが、友好関係を支えているのはこういう人たちの存在があってこそだろう。

● ワルシャワに おにぎりブームが来る日は近い?

 従来からポーランドでは日本人気が高いが、最近は日本に旅行したことのあるポーランド人も増加し、より身近になってきているという。

 「数年前はワルシャワでは寿司がトレンドでした。現在はラーメンです。そして次に来るのはおにぎりだと私たちは期待しています。日本のように街のいたるところで手軽に買えるようになることを夢見ています」(カシャさん)
ミハシヤ






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日本のうどん屋がワルシャワで人気レストラン1位になった理由




2018年に開催されるワールドカップで、日本と同組になったことでも注目度がアップしている国・ポーランド。その首都ワルシャワのレストラン人気ランキングでトップに君臨するのは、日本人が経営するうどん屋だ。2013年に「和食」がユネスコの無形文化財に登録されて以来、日本食ブームが加速。世界各地で日本食がブームになっているという。かといって、すべての店が人気店になれるわけではない。その成功の秘訣を探ってみた。(ライター ミハシヤ)

ワルシャワNo1.の人気レストランは
日本人経営のうどん屋!

 レストラン検索サイト「Zomato」(日本の「食べログ」のようなもの)ワルシャワ版で、「人気の高い順」で検索をかけると、トップに表示されるのは「Uki Uki(ウキウキ)」。2015年に開店した日本人経営のうどん屋である。
 ポイントは4.9でトップタイだが、口コミの数が多いので最初に表示される。ちなみに、「日本食」「アジア料理」などの条件は入力していないので、すべてのカテゴリーの中でトップということになる。つまり「Uki Uki」は、ワルシャワで今、最も人気のレストランといっても過言ではない。
 レビューを見ると、下記のような賛辞のコメントが並ぶ。



「何度かチャレンジしてようやく入れた!お昼時や週末に席が空いていたらすごくラッキーだと思う。お店に入ると料理のおいしそうな香りにうっとり。店内で作られた麺もスープも完璧です!(エラ)」
「本物のUDONが食べられる店。ボリュームもあるし、野菜やエビの天ぷらもすごくおいしいです。お値段は高めだけど、質と量を考えたら納得!サービスも行き届いているしおススメ!(ヴェロニカ)」
「サービスもいいし、お店の雰囲気もユニーク。うどんを注文したけどすごくおいしかった。次回はラーメンや天ぷらを食べてみたい(ミハウ)」
「Uki Ukiの常連です。ここはワルシャワでも最高のレストランの一つだと思う(スティーブン)」
 読者のみなさんは「ワルシャワで一番!」というのがどのくらいすごいのか、それほどでもないのか、ちょっとピンとこないだろう。そこで他都市と比較してみた。
 ワルシャワの人口は約172万人。オーストリアの首都・ウィーンの人口が約180万人でかなり近い。日本の都市と比べてみると、福岡市の人口が約154万人なのでそれより20万人ほど多い。ワルシャワはソコソコ大きな街なのである。
「ウィーンで一番人気」「福岡一の人気店!」――。
 というと、なんだかすごい気がするのに比べ、「ワルシャワで一番!」というのは若干地味な印象がぬぐえないものの、アウェイの海外でこれだけの人気を集めるのは簡単なことではない。

行列のできる日本食レストラン
でも日本人の姿はなし!

 ワルシャワの中心地にある「Uki Uki」に足を運んでみると、お水やおしぼりのサービスがあったり、内装も含め明らかに日本を意識している。しかし意外にも、日本人がいない!
 海外の日本食レストランというと、店員さんは日本人で、客として来店するのも日本人がメイン。店内には日本語が飛び交っている、というようなイメージがあるのではないだろうか




しかし筆者が足を運んだ2回とも、「Uki Uki」の満席の店内に日本人客の姿はなかった。接客にあたるスタッフも日本人はオーナーの松木平さんだけ。Facebookの投稿やホームページもほとんどポーランド語オンリーである。
 実は「Uki Uki」は、明確にターゲットをポーランド人に絞り込んでいるのだ。日本人客もたまには来るが、顧客のメインは圧倒的にポーランド人。この点について松木さんは次のように語る。
「日本の職人さんや日本人スタッフで固め、日本流のオペレーションで運営するとなれば値段が今の3~4倍くらいになってしまいます。ロンドンやパリのように可処分所得の高い駐在員などが多い地域ならビジネスになるでしょうが、ワルシャワでは無理。そこでポーランドの中間所得層を狙ったビジネス設計にしたんです」(松木さん)
開放的な雰囲気の店内。回転率が高いので行列ができても待ち時間は比較的短い
 











ロンドンやパリのように日本人駐在員の絶対数が多いエリアとは、経営スタンスは根本的に異なる。そうでないとビジネスとして成り立たないという。
 松木さんが狙いを定めたのが、バリバリ稼いで消費意欲も旺盛な中間所得層のポーランド人。これならばパイとしては十分な数が見込める。当初はすし屋を考えていたが、既に市内にすし屋は数えきれないほどある。すしはもう飽和状態ということでうどんに着目した。

苦肉の策で始めた
ラーメンデーが大当たり

 お昼や夜の食事時間帯に行けば、並ばずに座れることはまずない「Uki Uki」。開店当初から好調ではあったが、人気に火をつけたきっかけとなったのは、なんと「ラーメンデー」



「うどん屋としてスタートしたんですが、以前から研究をしていたラーメンも提供できる水準になったので、これもお店で出してみることに。ただ、オペレーションの問題でラーメンとうどんを同時に出すことは難しかったため、月に1回、ラーメンだけを出す『ラーメンデー』というのを始めたんです。わずか2年前のことですが、当時は店内製麺でスープも骨からとるような本格的なラーメンを出す店は他になく、大評判になりました」
 まずはラーメンデーで「Uki Uki」を知った人が、うどんも食べに来てくれるようになった。 
 その後、キッチンを改装し、うどんとラーメンを同時に提供できる体制にしたため、現在は毎日、うどんもラーメンも食べることができる。

ポーランド人とうまくやっていくには
彼らに合わせる姿勢が重要

筆者が注文した豚しゃぶうどん。30ズロチ(約950円)。器もかわいい