「年収1000万円超え世帯の住みたい街」上位に世田谷が入らない理由

10/16(火) 8:22配信
ITmedia ビジネスオンライン
 首都圏の中古マンション市場が活況だ。公益財団法人の東日本不動産流通機構の調査によると2017年の成約件数は37329件と3年連続で前年を上回った。新築物件の価格が上がっていることなどが背景にあるとみられる。

年収1000万円以上の世帯が中古マンションを買い住みたいと思う首都圏の駅ランキング(ハウスマート調べ)

 日本では昔から新築の物件に家族で住みたがる傾向が根強いが、最近では中古物件への抵抗感がやや薄れてきたとされる。「中古マンションでもいいので、都心部で憧れの街に住んでみたい」と思う人も少なくないのでは。
1位は「飯田橋」
 そこで実際に人気な「首都圏のちょっとハイランクな街」はどこか、中古マンションの購入アプリ「カウル」を運営するハウスマート(東京都渋谷区)に聞いてみた。カウルのユーザーのうち年収1000万円以上の世帯に属する人を対象に、中古マンションを買って住んでみたい街を調査したところ、ちょっと意外な事実が浮かび上がった。

 同社のアプリは東京23区と都内でも武蔵野市など区外の市町村の一部、横浜市と川崎市の物件約3万件を扱っている。年収1000万円以上の世帯のユーザー約2600人に、中古マンションの購入を希望する条件としてアプリ内で選択した駅を集計した。10月現在のデータを使用した。

 1位はJRと東京メトロ、都営地下鉄が乗り入れる飯田橋駅。都内で高級住宅地として知られる中目黒や白金高輪を上回った。2、3位は目黒、市ケ谷駅と続く。渋谷、代々木上原、恵比寿駅といったテレビ番組でも頻繁に取り上げられる人気エリアも登場する一方で、都内でも古くからの閑静な高級住宅街のイメージで知られる世田谷区内の駅は10位以内にランクインしなかった。

 年収1000万円以上といえば一般的に高所得とされる層だが、ハウスマートによると今回の調査対象のユーザーは主に1000万~1300万円の世帯がメーンで共働きも含む。彼らはそもそも中古マンションの購入を視野に入れてアプリを使っていることから、一般的に「保有資産が1億円以上」と定義される、新築の購入も余裕な富裕層はほとんどいないとみられる





世田谷は都心部からちょっと遠く……
 同社の分析では、このランキングでユーザーが重視したとみられるポイントは3つ。昔から街が持つ「ブランド力」のほかに電車などの「交通の便」、それに小学校の「学区」だという。

 同社の針山昌幸社長によると、例えば世田谷区でも古くからの高級住宅街として知られる成城エリアについては都心部のビジネス街へのアクセスがさほどよくないのがランキング上位から漏れた理由という。逆に1位の飯田橋駅はJR中央・総武線、東西線、南北線、有楽町線、都営大江戸線が乗り入れる。「3・11で交通がマヒして都心のオフィスから自宅まで徒歩で長距離の帰宅を余儀なくされた経験から、首都圏では職場から遠かったり利便性の悪い物件は避けられる傾向があるようだ」(針山社長)。

 針山社長は上記の3条件がバランスよく高いエリアが人気を得ているとみるが、中でも注目しているのが「学区」だという。例えば文京区だと「3S1K」と呼ばれる公立小の誠之小、千駄木小、昭和小、窪町小が代表的な人気校だ。針山社長によると目黒駅であれば近くの品川区立第三日野小が人気に寄与しているとみられ、「今回の調査では各区の中で人気の小学校の近くのエリアがランクインしている」(針山社長)。

 カウルのユーザーの多くは30~40代のファミリー層。実際、同社の営業担当者もよく顧客から「この小学校に子供を通わせたいので物件を探している」と相談を受けるという。有名校であれば教員の質が高く良質な教育環境だと親が考えるのが理由だが、独身者からするとあまりピンとこないポイントだ。

 ただ、針山社長が2009年ごろ、起業前に別の不動産会社で営業担当をしていた際も、頻繁に特定の学区内の物件があるか顧客から問い合わせを受けたという。「首都圏で特定の小学校の人気は根強い。学区を重視する人は昔からいたようだ」(針山社長)。

 学区は同社にとって意外な商機をつかむチャンスにもなっている。針山社長によるとこれまで大手企業による中古物件の検索サービスでは学区を指定できる機能はほとんど存在せず、地域の不動産業者が地元情報としてWebサイトにアップする程度だったという。

 ハウスマートは学区への顧客のニーズを取り入れようと18年4月、カウルに小学校の学区ごとに物件を検索できる機能を追加した。東京都教育委員会によると18年4月現在で都内には1273の公立小があり、同社は各区のHPにある学区情報を手作業でデータベースに落とし込んだ






AIのサービスにアナログな「気付き」が貢献
 結果、鈍化していたアプリの登録ユーザーの伸び率は3月の4.4%からリリース直後の4月には9.3%に跳ね上がった。17年9月に約1万人だったユーザー数は18年9月には約2万3000人に急増した。

 同社は他の不動産会社のWebサイトから集めた膨大な中古マンションの情報をビッグデータとしてAI(人工知能)で分析し、各物件の市場価値をはじき出している。ユーザーがカウル上で気になった物件を調べると、その物件の立地や間取りといった条件に応じた「適正価格」が算出される。ユーザーはアプリの示した適正価格と物件の実際の価格を比較することで、お得な物件を見つけられるという。

 不動産会社の営業担当者が経験則に基づいて提示するアナログな情報に顧客が頼らざるを得なかった中古マンション市場において、ハウスマートはビッグデータとAIによる客観的な情報をユーザーに提供して差別化を図ってきた。

 ただ、今回の学区という項目については営業担当者が顧客に普段接する中で気付かされ導入に至った面が大きいという。「AIは物件の適正価格を計算することはできるが、そもそも顧客から希望条件を聞いて最適な物件を提案するレベルにはまだ達していない」(針山さん)。

 近年、「不動産テック」などITを活用した「〇〇テック」と称するビジネスが林立している。一方で、AIではカバーしきれないアナログな「気付き」をサービスにどう導入できるかも重要と言えそうだ。




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